【8】
「はふはふ、あふひ」
夏美さんがパクっとチャーハンを一口食べて、熱い息を吐き出してる。冷えてきたのかモグモグしだした。
あ、目が大きく開いた。
「おいしいーーー! 冬弥君、すっごい美味しい!!」
夏美さんからびっくりマークが群れをなして僕に襲ってきた。
「サマシテ、カラ、タベマ、ショウ」
「うん、そうね」
源次郎の窘めを素直に聞く夏美さん。実に微笑ましい。僕もチャーハンを食べる。
玉ねぎの歯ごたえがシャキッとして、口に挽肉からでた肉汁と卵のハーモニーが優雅に踊ってる。
うん、美味しい。
「あ、そんなにがっつかなくても」
「ソウデス、マスター」
「ムグムグゴクンッ。あー――美味しいかった!」
夏美さんの皿はきれいになっていた。僕はまだ二口しか食べてない。
だからって、あげませんよ!
「そんなに見つめないでください」
「それ、残すの?」
「まだ食べたばかりです! あ、勝手にスプーンですくわないで!」
「美味しいね!」
「良い笑顔でもダメです!」
僕の皿からチャーハンが消えていく。
僕の抵抗むなしく、チャーハンは夏美さんの胃に消えた。
僕は寂しく刺身をつついた。
「あれ、夏美さん刺身は食べないの?」
「生の肉は食べちゃダメだから」
真面目な顔の夏美さんが言う。
「源次郎そうなの?」
「アノ、ジダイ、デハ、セイメイ、ヲ、ナマデ、タベル、コト、ハ、デキ、ナイ」
「荒れ地ばっかりだとか言ってたけど、それも関係ある?」
「マスターガ、タベテ、イタノ、ハ、ゲンシ、ヲ、クミアワ、セタ、ゴウセイ、ショクリョウ」
源次郎の言葉に夏美さんが嫌そうな顔をした。
「美味しくはなかった」
「ソノ、カワリ、ヒツヨウ、ナ、エイヨウ、ハ、セッシュ、デキタ、ハズ」
「そうだけど、冬弥君の作ってくれたの食べちゃうとねー」
夏美さんがこっちを向いてニコっと笑う。それだけで僕の胸は高鳴って顔はチンチンだ。
ちょろいなぁ、僕。
「僕からすればその、原子組み合せて食料つくっちゃうとかの方がすごく感じるけど」
そんなの現代じゃできないもん。それができたら食糧問題も解決しちゃうんじゃない?
「トウヤ、ソレハ、チガウ。コノ、ジダイ、デモ、ジンルイ、ニ、タイシテ、ブッシツは、フソク、シテ、イル」
「そうなの?」
「イマノ、トウヤ、ノ、セイカツ、ヲ、ゼン、ジンルイ、ガ、スルコト、ハ、デキ、ナイ」
緑の光を明滅させた源次郎が言うことは、僕には理解できないけど、まぁ、そうなんだろう。
中国とかインドとか、人間い過ぎでしょってくらいいるもんね。
「で、夏美さんは生の物がダメ、と」
「コノ、ジダイ、ノ、メンエキ、システム、ガ、アリマ、セン、カラ」
「未来にはなかったの?」
「キロク、ト、シテハ、ノコッテ、イルガ、ヒツヨウ、ナカッタ」
源次郎に言われて、夏美さんが最後の人類だということを思い出した。
必要ないってことは、夏美さんが失敗するって考えてるのか?
じゃあ何のためにタイムマシンをつくって、ここにるんだ?
というか、僕は何を信じちゃってるんだろう。
目の前の夏美さんは、ちょっと不思議な美人さんで、この源次郎は、えっと、おもちゃだ。
遠い未来からきた、なんてお伽噺みたいなことを信じちゃダメなんだ。
「冬弥君、美味しかった。ありがとうね」
悪意の全くない笑顔のお礼に、僕の思考はきれいさっぱり流された。
皿を洗って、片づけて。そうしたら自由時間だ。宿題もしなきゃいけないし、シャワーも浴びないと。
「なのに、夏美さんがいるの?」
「えー、同棲って、一緒に過ごすこと、でしょ?」
ジャージ姿の夏美さんは僕のベッドで寝ながらタブレット端末をポチポチしてる。通販でも見てるんだろうか?
「そういえば、夏美さんって、どうやって生活してたの?」
夏美さんが僕の精子を欲しいって攻め込んできたのは、夏休みが終わったくらいだった。いまが10月だから一か月ほど経過してる。
今日彼女の生態を知った限りでは、とてもひとりで生活などできそうにない。僕の方がよほど女子力が高いよ。
「んー、冬弥君に精子を頂戴って言うこと以外は、部屋にいたよ。知らない世界をうろつけるほど、私は強くないもん」
タブレットから僕に視線を移し、夏美さんは言った。
「部屋にいたって……今日、学校に来たよね?」
「記録でも見たことないような世界を歩かなきゃいけないって、すごい心細くて怖かったんだからね!」
「よ、よく来れたね」
「源次郎に地図を描いてもらって、不安に押しつぶされそうになりながら行ったんだからね! その努力は認めてほしいわ!」
口をとがらせる夏美さん可愛い。
って、そんなことを思ってる場合じゃない。
「まぁ、高校まで来たことは脇に置いて、今までは何を食べてたのさ?」
「源次郎が栄養食を生成してくれたのを食べてたわ。もとの時代と同じものよ」
「栄養食……ってか、生成って!?」
「大気中の原子を集めて元素変換して必要な栄養素だけを接種する食べ物よ。でもさっき冬弥君が作ってくれた食べ物を食べちゃうと、あれには戻れないかもしれないわね」
などと言いつつ、夏美さんの口もとにはよだれが。
「美味しいと言ってくれたのはうれしいけど」
「美味しかったのは美味しかったって言うの。私は、自分の感情に素直になってくれって、源次郎からも、他のロボットからも言われてきたの」
タブレットをベッドにポイした夏美さんが起き上がって、四つん這い状態で僕を見てくる。
「だから、一緒に寝よ!」




