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【7】

 ベッドに寝転がる。ドキドキが収まらない。純情な高校生にはハードルが高すぎる!


 僕には夏美さんが理解できない。

 どうして僕がいるのに着物を脱ぎ始めるの?

 というか、その着物は誰が着付けたの?

 スーパー人混みが怖いと言っていた。対人恐怖症って言って逃げたけど、実際はどうなんだろうか?

 考え事してたらお腹が鳴った。


「って、ごはんつくらなきゃ!」


 買ったものは夏美さんの部屋だ。ベッドから跳ね起きて例のドアの前に立つ。まだ着替えてたらまずいよな。


「えっと、さっき買ったものをそっちに忘れちゃったんですけど」

「あ、これかなー」


 夏美さんの弾んだ声。着替えは終わってるみたいだ。ガラッと開けて部屋に入る。


「これでしょ?」


 はちきれそうな黒いスポブラと無地の黒いパンツ姿の夏美さんがスーパーの袋を持ってたってた。

 僕は固まった。後ろでは源次郎が「マスター!」と唸り声をあげてる。

 

「そそそれです!」


 ひったくるようにして袋を取り、すぐさまドアを閉じた。息が止まって僕の心臓が壊れそうなくらい動いてる。

 ドア背をつけ、深呼吸を10回繰り返す。おっけーおっけー。呼吸は落ち着いてきた。


「なななんで下着姿なんですか!」

「まだ着替え終わってないもの」

「なんで開けるんですか!」

「それが欲しかったんでしょ?」

「いやま、そうですけどッ!」


 僕の疑問にこうも素直に答えられると、何も言えなくなる。確かに夏美さんは僕の要求を受け入れてくれたからこそ、あの行動なんだ。

 だけど、恥ずかしさとかこう、慎みとかさ、ないの?

 無常にもお腹はぐーとなる。


「はぁ、晩ごはんつくろ……」


 袋を持ってキッチンへ行く。冷蔵庫にしまいながら食材チェック。

 ご飯は冷凍がある。刺身だし、味噌汁は豆腐とわかめでちゃちゃっとつくるとして。


「あー、夏美さんのも作らないといけないのかな」


 義務はないし義理もない。だけど、たまには一緒に食べる人がいるってのもイイかも。というか、匂いに釣られてこっちに入ってくるんだろうな。


「ま、いーか」


 腹が減ったから頭も働かない。

 挽肉も卵もあるからチャーハンだ。刺身にあわないとか、考えちゃダメ。ありがたくいただくの!


 必要な分だけ挽肉を分けて残りは冷凍庫へ。冷蔵庫は大きめなのを用意してもらったから、買いだめもできる。ビバ冷凍庫!


 球ねきが半分あるからみじん切り。ニンジンも欠片があるからこれもみじん切り。レタスも何枚かあるから小さくちぎる。

 細かく切っていれちゃえばみんな美味しいんだよ!


 フライパンに油を入れてちょっと加熱。で、挽肉玉ねぎニンジンレタスを投入ぅ!

 へらでかき混ぜながらじゅわーっと炒める。中華は素早さが命! 肉の焼ける匂いがたまらない!


 次いでレンジで解凍したご飯を投入、フライパンを前後に振りながら均一になるようにかき混ぜる。ぐがー、ふたり分だからフライパンが重い。

 へらで斬るようにして具とよくなじませれば、ジュージューと美味しそうな音がお腹を刺激しまくりだ。


「ここで真打、卵の登場!」


 ときたまご2個をまんべんなく垂らす。卵を入れるタイミングは個人差がある。僕は後入れ派だ。

 ジャァァァッと炒める音が心地いい。料理は無心になれるから、僕は好きだ。

 世間ともいざこざとも関係ない。僕だけの時間。


「味付けっと」


 ここで塩胡椒にご登場願う。塩を多めに、胡椒は控えめに、が僕の味付け。

 育ちざかりは濃い味が好きなんだ。へらで一かけ掬ってパクリ。


「まいうー!」


 我ながら上出来!

 ホクホク顔で平皿に移す。

 刺身は、ラップを外せばおっけー。

 しょうゆ用の小皿なんて買ってない。ダイレクトにかけちゃう派だ。


「あー味噌汁つくるのがメンドイ・腹ペコで限界だ」


 水でいいや。

 テーブルの上を片付けないと、なんて思って顔をあげれば、そのテーブルにはジャージ姿の夏美さん。

 ニコニコ顔で僕を見ている。目があった。さらに笑顔になった。

 僕の顔がフライパンよりも熱くなる。


 だって夏美さんは美人だもの。変わり者だけど美人なんだもの。

 ジャージだっておっぱいに押しのけられてロケットみたいで僕の視線が釘づけだもの。

 非リア充な僕は微笑まれちゃえばコロっと転がっちゃう。多分。

 それが作り笑いでなく、本心から嬉しそうだと感じるなら、なおさらだよね。


「できたよ」


 ジャージ美女は「うん」と答えた。

 テーブルの上は綺麗になってた。夏美さんの脇には源次郎が鎮座してる。

 僕がコトリと湯気の立つ皿を置けば、夏目さんの視線はそっちにとらわれた。


「良いにおいがするー」


 クンクンと匂いを嗅いでにへーっと笑った。

 本当に子供みたいな反応するな、この人。


「じゃ、食べましょうか」


 僕の向かいに夏美さん。スプーんを渡したけど、手でもてあそんでる。

 使い方がわからない?


「こうやって持つんです」


 僕が見本を示す。夏目さんが真似をした。


「こう?」

「そうです良くできました」


 褒めれば目を細めて嬉しそうにほほ笑む。

 それだけなのに僕の心臓は破裂寸前だ。夏美さんの笑顔は破壊力満点です。


「ブンセキ、ケッカ。イジョウ、ハ、カンチ、デキ、マセン」


 源次郎が足を延ばしてテーブルの上に顔を覗かせた。


「おかしなものなんて入れないよ」

「ネンノ、タメ」


 緑の光がピコピコ光る。


「まーい-や。いただきます」

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