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【4】

 校門に身体を半分隠すように立っている夏美さんとすれ違う学生が「誰あれ?」と囁くのが聞こえる。


「あ」


 夏美さんがホッとした顔になった。ロックオンされたようです。メーデーメーデー。


「冬弥君」


 背筋がぞわわっとした。小さな声なのに、耳元でささやかれたみたいだ。


「なななんで学校まで!」


 しまった、僕の大きな声で皆が振り返っちゃった。


「(壊した)責任をとってもらわないと」


 視界に入る口がみんな〝お〟の形になっちゃってるよ、ちょっとちょっと!

 その誤解を招くこと前提な話し方はなに!


「安心したらおなかすいちゃった」


 とどめのようにお腹をさすらないで!

 それも誤解のダブルアームスープレックスだよ! 追い打ちだよ!

 みんなが僕を胡乱な目で見てるよ!


 終わった。

 試合終了。僕の高校生活、ここでサドンデスだ。


「さて行きましょうか?」


 僕の腕をがっちりホールドした夏目さんが、にこやかに笑った。嘘だ、この笑顔はうそだ。

 魔王というものは数回の変身を隠しているものだ。よってこの笑顔は愚民たる清らかな生徒をだますための仮面だ。


「逆らったら?」


「うふふ」


「デスヨネー」


 死刑宣告を受けた死刑囚の気持ちがよくわかる。齢16にして、わかりたくなかった。


「……スーパーのタイムセールの時だけは釈放してください、逃げませんから」


「あたしも一緒に行くわよ」


 僕の人生も、詰んだ。





 夏美さんと連れ立ってアパートに戻ってきた。性格と生い立ちに難ありだけど和服美人には違いない。

 凄い注目されたし。結構な割合で嫉妬が混ざってた気もするけど、僕の今の気持ちを知れば、掌クルー、だろう。


 これで4歳くらい年上で魔王じゃなくて甘えられたらどんなに天国だろう。美人に見つめられて、たゆんとした胸に包まれていい匂いがして。

 夏美さんじゃガチ天国送りになりそうで怖い。


「だから睨まないでください」


「邪なこと考えてたからでしょ?」


「心を読まないでください」


「冬弥君って単純だからわかりやすいのよ」


 源次郎に見破られ、そして夏美さんにまで。僕の顔は電光掲示板なんだろうか。触っても油ギッシュな僕の顔だ。


「あら、こっちよ」


 夏美さんに腕を引っ張られた。抜けちゃうからやめてください。僕はプラナリアじゃないんで。

 そのまま、またも魔王の根城に引きずり込まれた。

 神様勇者様、生きてここから出して下さい。


「オカエリ、トウヤ」


 玄関を抜けてリビングに顔を出したら源次郎がお出迎えだ。緑の光が点滅してる。

 夏美さんはキッチンに行ってしまった。


 ちなみにこの部屋の間取りだけど、玄関から廊下がのび、その途中にキッチンがある。コンロがふたつある実用的なキッチンだ。

 そしてまっすぐ行った突き当りにリビングがある。1LDKってやつだ。

 一応自炊するからワンルームタイプはやめたんだけど、こっちの方が人気がなくって家賃も安かったのには助かった。


「なに、これ?」


 そのリビングに、朝はなかったはずの、同じ間取りの僕の部屋にもない、謎のドアが付いている。

 ドアというか、スライド式の扉だ。


「おしいれ、なわけはない」


 そんなもの僕の部屋にもない。クローゼットがあるくらいだ。

 そもそも、このドアの向こうは僕の部屋だ。意味がわからない。


「キニ、ナルカ?」


「そりゃーねぇ」


 キッチンから「ブシュァァ」という音が聞こえた。今度は何をつくったんだ?


「あら、もう気がついちゃった?」


 お盆を片手に、清楚な魔王が笑顔を見せている。教えなければ気が付かなかったとでも思っている、そんな笑みだ。


「いえ、気のせいでした」


 そして僕はドアの無視した。気がついちゃいけない。僕の本能がそう告げている。

 虫の知らせは信じる方なんだ、僕。


「バレテハ、シカタガ、ナイ」


「仕方はあるよ!」


 僕はドアに手をかけた源次郎の丸い体を両手で掴んだ。そこは開けちゃいけないんだ!


「源次郎」


「ハイ、マスター」


 源次郎の体から蛇のようなウネウネが出てきて、僕の体に巻き付いた。ちょっとこれ、動けないんだけど!


「コウソク、シマス」


 時代劇の下手人がお白州に座らされるように床に正座した僕。ご丁寧に後ろ手に縛られた。


「さて、どこから話したものかしら」


 憂いの顔で、夏美さんがため息をついた。妙に色気があるのが悔しい。見惚れちゃいそうになるのも悔しい。なんか悔しい。


「いくらあたしがキュートで美人だからって見つめられたら照れちゃうわ」


「イマノ、ダンカイ、デ、テレテモ、コマリ、マス」


「そうよね、だって同棲するんですものね」


「ソウデス、トモ」


「ちょっとぉぉ!」


 そこ、ほっぺに手をあててウフフとか言ってないで!

 嬉しそうにドアに手をかけないで!

 開けちゃらめぇぇ!!


「じゃーん!」


 ガラッと勢いよく開けられた扉の向こうは、よぉっく知っている、僕の部屋だった。

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