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【3】

「壊れた?」


 僕にのしかかってる夏美さんが壊れたピアノみたいな声を上げた。


「アアア、ドウシ、マショウ」


 源次郎が卵型のタイムマシンをペタペタ触ってる。あの腕じゃ直しようもないと思うけど。


「マスター、ナニヲ、イレタノ、デスカ」


「クエン酸と間違えて亜硫酸をブレンドしたの」


「ササイナ、ミス、デスネ」


「ちっとも些細じゃない!」


 危うく死ぬところだった!


「デスガ、タイム、マシン、ハ、コワレ、マシタ」


 ただの緑の光だけど、縋るような感じで夏美さんを見てる。


「修理は可能?」


「コノ、ネンダイ、ノ、ブッシツ、デハ……」


 源次郎が言葉を詰まらせた。デラックスなAIだからなのかいちいち人間くさい。

 未来のAIはほとんど人間と変わらないのかも。


「物質の生成は可能よね?」


「ジカンハ、カカリ、マスガ、カノウ、デス」


「どれくらい?」


「キルリコウ、ノ、セイセイ、ニ、スウカ、ゲツ。コワレ、グアイニ、ヨリ、マスガ」


「やるしかないわね」


 夏美さんの泣きほくろの目が凛々しく光る。


「というわけで」


 嫌な予感がする。


「冬弥君。それまではお預けね」


「何がお預けか知りませんが、僕の命の猶予が増えたのは心強いです」


 用事は済んだ。僕は学校へ行かなければならない!

 この隙を逃すわけにはいかないんだぁぁぁぁ!


「ア、トウヤ、ドコヘ」


 源次郎の声を振り切って、僕は痴女の館から脱出した。





 気持ちのいい秋空のした。

 学校に逃げ込んだ僕は、クラスに駆け込んで席に突っ伏した。遅刻しそうだったのもあったし、追いかけられても困るからひたすら走って疲れた。


「今朝も無事にこれました神様ありがとうございます」


「冬弥君、今日はぎりぎりだったね」


 僕の左隣から声がする。隣の席の二宮春子さんだ。


「おはよう」


 顔だけ向けてあいさつした。二宮さんは、おはよう、とにっこり笑顔だ。ショートカットに弾ける笑顔が眩しい。

 彼女はラクロス部に所属のバリバリの体育会系だ。夏に焼けたこんがり肌は、秋の今でもこんがりガールだ。


 活発でクラスのムードメーカーでもある彼女は、ちょっと気になる存在だ。

 まー、金がなくて帰宅部の僕なんか相手にされないけど。


「今日はいつになく満員電車から降りた直後のサラリーマンみたいだね」


「その絶妙なたとえはやめてー」


 切なくなるから。


「寝坊でもしたの?」


「まーそんなとこー」


 苦笑いの二宮さんには適当に合わせておく。夏美さんに精子を強請られていることが知れたら僕は変態としてこの高校にその名を刻んでしまう。

 しかもそれは永遠に塗り替えられない歴史となるだろう。そんなの嫌だ。


「エッチな本でも読んでたんでしょー」


「エッチな本は読んでみたいけど、買うお金がありませーん」


「あはは、それもそっか」


 二宮さんがケタケタ笑う。


 そう、僕は貧乏だ。アパートの家賃だって親が出してる。安いところを探したけど、それでも月数万。

 バイトをして食費の足しにしてるけど、それでもカツカツだ。だからこそ、僕は色々な言い訳に貧乏を引き合いにしている。


「おっと先生がきちゃった」


 二宮さんが背筋を伸ばした。僕もゾンビのように起き上がる。朝からヘビーな出来事があったんだ、やる気が家出もするさ。


 1限目は英語だ。


「HAHAHA! 君たち、青春してるかッ!」


 頭がバーコードの英語の先生が、さわやかな笑顔で挨拶をした。





 6限目も終わり、生徒はまばらに教室を出ていく。部活に勤しむであろう生徒はダッシュで消えた。連れだって出ていったカップルは爆ぜてしまえ。


「じゃ、部活にいくから、冬弥君また明日!」


 二宮さんはショートカットを揺らして去っていった。教室に残ってるのは僕のように暇な奴だ。

 おっと、僕はスーパーでタイムセール品を買うという大事な任務があるんだ。暇じゃない。


「んー、家に帰ってから行っても間に合うな」


 教室の時計で確認。計画にもれは許されない。僕の数日間の食事がかかってるんだ。

 これから戦場に向かう兵士のような決意で僕は教室を出た。

 玄関で履き替えた僕はヘリボーンした兵士のごとく校舎を出た。そして校門に異質な姿を見てしまった。


「げ、まさか」


 10メートル先の校門に寄り添うように立っていたのは、不安そうな顔でた立つ着物姿の夏美さんだった。

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