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22/23

【22】


 犬吠埼灯台へ行くには、銚子電鉄犬吠駅で降りる。結婚式場なの?と思っちゃうような駅舎なのは、なんでだろう。

 植えてある木は南国風で、空気は磯臭いというか生臭い。

 海だ!という感じはとってもいい。

 いいんだけど。


「なんというか、なにもない」


 波打ち際に連れていこうかとも思ったけど、はしゃいだ夏美さんが何かをやらかしそうだから保留にしてある。

 未来から来た最後の人類に未知の病気とか危ない、なんて表向きの理由はこしらえたけど、実際は違う。

 だって、着替えはないんだよ?

 ずぶ濡れになったらどうしようもないじゃん。

 風邪引いちゃうよ。

 風邪で済むかはわからないけど。


「けっこう風が強いな」


 海風ってやつが僕の髪をボサボサにしていく。直してもきりがないから放置することにした。


「わー、すずしくてきもちーいー」


「……夏美さん、スカートは押さえてください」


「風で舞い上がっちゃうのはしょーがないじゃない。ピンクは嫌い?」


「色々と目の保養になりますが目のやりどころにも困るのでお願いします」


 もうね、慌てるのはやめた。

 チラ見するピンク色を意識の外にぶん投げて、あくまで冷静に。


「あと、誰かに見られるとシャクでもあるのでやめてください」


「ふふふ、じゃあ見られないようにしよっと」


 スカートの裾を絞って片手で握る夏美さん。ちょっとおかしな恰好なのに、美人はなにしても絵になるのはズルイ。


「ズボンにすればよかったですね」


「じゃー、脱いじゃう?」


「……僕が警察に連れて行かれちゃいますね」


「ケイサツ、ヲ、バイシュウ、スレバ」


「僕がやばいからヤメテ!」


 タイトスカート並に歩きにくそうな夏美さんの歩調に合わせること5分。県道254を海に向かって右に折れた時だ。


「うわっ、すごい。すごいすごい!!」


 開けた視界に入ってきた海に、夏美さんが止まった。目を輝かせて、すごいすごいを連発してる。

 僕には見慣れた海にか見えない。

 見慣れたといっても、テレビとか写真とかだけど。


 ただ、不規則に上下する波から視線が離せなくなる。

 とりたてて透明でもなく、とりたてて大きな波でもなく、かといって薙いでいるわけでもなく、ただ普通の波だ。

 目を離せないのはなんでだろう。


「わーーーー……」


 とうとう「わー」しか言わなくなってしまった夏美さんを見た。

 夏美さんは両手を真っ直ぐにつきだし、手のひらを海に向け、口をわななかせていた。


「……赤い海よりも、青い海の方が、断然いい!」


 赤い海とは、夏美さんがいる未来の海のこと?

 僕が聞こうと口を開けた瞬間、夏美さんの手のひらがぎゅっと握られた。口もともぎゅっと真っ直ぐになった。


「よーし、人類再生のついでに、海も再生しちゃうぞー!」


 夏美さんのスカートが風にあおられ、盛大に暴れた。





 現在時刻、8時。

 灯台には今風のカフェがあったけど早すぎたからかやっておらず、もちろん灯台にも入れず、僕と夏美さんはずっと海を見ていた。

 しゃれたレンガみたいな石畳の脇に、腰掛けるための大きめな石のベンチがあって、そこに座って、ぼけーーっと海を眺めてる。

 海風が、僕の前髪と夏美さんの綺麗な髪をぐしゃぐしゃにしていくけど、お構いなしだ。


「さっき海が赤いって」


 僕は海を見たままきいた。


「……うん、赤いよ。なんでか知らないけど」


「知らないんだ」


「テツブンガ、タリョウニ、フクマレテル、カラ、ダ」


 海に夢中な夏美さんの足元に転がされたままの源次郎が答えてくれた。


「人類が鉄を使いすぎちゃったってオチ?」


「ケツロン、カラ、イエバ、ソウナル」


「鉄は錆びると赤くなるしね。科学の進歩ってなかったの?」


「テツニ、カワル、ソザイ、ガ、シュリュウ、ニ、ナッタ、ノガ、ニヒャクネン、マエ。ソレマデ、ハ、ジンルイ、ハ、テツ、ナクシテ、ブンメイヲ、イジ、デキナ、カッタ」


「そこまで鉄を採掘できてることが驚きだよ」


 石油もあと数十年分しかないとか聞いたことある。昔からそういってるらしいけど。

 鉄だって、いつかは掘りつくしちゃうんだろうけどさ。それがいつかなんて僕にわかりっこない。


「コノ、ジダイ、カラ、トオクナイ、ミライニハ、ホリ、ツクシテ、シマウ」


「リサイクルとかあるでしょ」


「セカイ、デ、ハイキョ、ト、ナッタ、トシ、ガ、コウザン、ト、ナッタ」


「SFみたいだね。ってか都市が廃墟になっちゃうんだ」


「ココ、ニホン、デモ、ハヤイ、ジキニ、チホウトシ、ガ、イジ、サレナク、ナル」


「……聞きたくなかったな、それ」


 源次郎が語るのは歴史だ。僕から見れば未来だ。

 それも確定した。


 人口減少とか、過疎化とか、いろんな諸々が重なってそうなるのかな。


「アンシン、シロ。オマエノ、セイシ、ヲ、テニイレレバ、キオク、ハ、ケス。フアン、ハ、カンジナク、ナル」


 源次郎の言葉が、僕に突き刺さる。

 漠然とした不安は湧き上がるけど、消したら問題解決ってわけじゃない。

 知り得た情報を持って良い方向に走れば、不安も減るよね。、


「カコヲ、カエル、コト、ハ、デキナイ。ミライ、ヲ、シリ、コウドウ、サレルト、マスター、ノ、ソンザイ、ガ、アヤウイ」


「タイムパラドクスってやつ?」


「ヘンカ、シタ、セカイ、ガ、コウハイ、シタ、セカイ、ヨリモ、ヨクナル、ホショウ、ハ、ナイ」


「良くなる方に変わるとか思わないの?」


「トウヤ、ノ、イデンシ、ガ、アレバ、カクジツ、ニ、ジンルイ、ヲ、サイセイ、デキル。ソノ、ケイサンヲ、クルワ、セル、コト、ハ、デキナイ」


 石橋をたたいて渡るのように設計されてるのか知らないけど、なんかこだわり過ぎてる気がしないでもない。

 未来が変わっちゃったら、夏美さんが存在していないかもしれないって心配するのは、源次郎が夏美さんを守る存在だからなのか。

 それとも自分の見出した策を台無しにしてほしくないからか。


 AIの考えることが、僕にわかるわけないか。


 海からふきつける風が、僕から言葉をうばっていった。

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