【21】
銚子の駅はまだ閑散としてて、通勤通学の人影も少ない。
思いのほか早く着いた。早く着きすぎて。ちょっと肌寒い。
「まだ6時半だ。犬吠埼にいくには、早いなぁ」
「ねー冬弥君、お腹すかない?」
「ここに来る電車でサンドイッチ食べましたよね?」
「あれは朝食の前の、そう、いわば軽食! 本当の朝食は、これから、でしょ?」
満面の笑みの夏美さん。
その笑みに邪推は一切見当たらず、本気で食べたいって思ってるのは、僕にもわかる。
僕的には海鮮丼が食べたいんだ。
せっかく海に来てるんだし、ね。
でも。
「早朝過ぎて、コンビニかハンバーガーくらいしかやってませんね」
ロータリーにあるコンビニと、その向こうにある黄色いMの文字が見えた。
それくらいしかないね。
「じゃ、両方ね!」
「……中で座って食べられるハンバーガーにしましょう」
僕は即決した。
緑色の球体を抱えてる夏美さんは、非常に目を引く。美人というのが、さらに輪をかけてるし。
身を隠す意味も含めて、ちょっと落ち着きたい。
「デンシマネー、トヤラガ、ツカエル。フヤシ、テ、オイタゾ」
「だから源次郎はしゃべらないでって言ってるじゃん!」
「ヒャクマン、ホド、イレタ」
「このカードの限度額は2万円なんだけど!?」
「ゾウサモ、ナイ」
「レジで怪しまれること間違いなしじゃないか!」
常識を持ってほしいけど、持ってるのは未来での常識だしなー。
僕が言ったって、理解できないんだろうなぁ。
「あそこから良い匂いがする!」
「って夏美さんは先走らないで!」
「食べ物はアツアツがおいしいって、冬弥君が言ってたもん」
「いつでもアツアツで食べられるから勝手に行かないでぇぇ!」
お願い、目立たないで!
銚子駅のロータリーをスタスタ歩いていっちゃう夏美さんを追いかけた。
銚子と言えばぬれせんべい。
食いしん坊夏美さんが見逃すはずもなく。
銚子電鉄に乗った途端、ぱくりと口にし始めた。
「この歯ごたえの無さが、癖になりそう。おいしー」
「ぬれせんべいって、けっこう高いんですね、知らなかったです」
「美味しいものは高いのよ、きっと!」
「まぁ、これも源次郎がアレコレしたお金で買ったんですけどね」
現金は創っちゃダメって言い聞かせてあるけど、夏美さんのためのお金は目を瞑るしかない。
僕には夏美さんをどこかに連れて行ったり、美味しいものを食べさせたりするだけのお金がないもん。
お金がなくってもできることは沢山あるけど、お金があるとできることはもっと多くなるんだ。
釈然としないけど、お金の大事さは、貧乏ゆえに良く知ってる。
「乗客も多くないから、夏美さんが目立たなくって助かってますけど、銚子電鉄的には問題なんだろうなぁ。JRでも黒字の路線って少ないみたいだし」
ついお金のことを考えちゃう。
生活するにもお金が必要だし、僕の場合は収入が少ないから、常に頭に入れておかなきゃって習慣がね。
おっと、今日は夏美さんを楽しませなきゃいけなんだ。
お金のことは、頭から追い出そう。
「おふぁねおふぁねって、むぐむぐごっくん、この時代は大変だね」
「食べるかしゃべるかどっちかにしてください」
「お金が大事なら。創っちゃえばいーのに」
「皆がお金を創っちゃったら大変なことになっちゃいます!」
社会そのものがなくなってる夏美さんのいる世界には、お金がなくっても問題ないというか、あっても仕方ないんだろうからそう言えるんだろうけどさー。
「みんな、かー」
夏美さんは、ぬれせんを口にしたまま黙ってしまった。
ミスった。
夏美さんの前では言うべきではなかった言葉だ。
目的を達成したら帰らざるを得ない夏美さんには、みんな、なんて人たちはいないんだ。
窓の外に顔を向けてしまった夏美さんにかけるべき言葉を探すけど、僕の頭の辞書には記載されてない。
どう言えば、どうフォローすれば、いいんだろう。
口を開けようとしても言葉が出てこない。
学校も、こんな時にどうすればいいのか教えてくれればいいのに。
「ねぇ源次郎、このぬれせんの成分を解析して創れるようにしといて」
「スデニ、カイセキ、ズミ」
「さっすがー」
窓から顔を離さない夏美さんの表情は、わからなかった。




