【19】
皿を片付けて、腰を叩く。おっさんみたいだけど、洗い物って腰に来るんだ。前かがみになるからね。運動不足が原因じゃないよ、きっと。
顔をあげれば、テレビに釘付けの夏美さんと源次郎が見える。自然紀行のネット動画みたいで、山の景色を食い入るように見つめてる。
――冬弥君と食べてるからだ!
さっきの夏美さんの言葉がリフレインしてる。
同じ食べ物でも、ひとりで食べるのと誰かがいるのでは味が違うって感覚は、僕にもわかる。独り暮らしだから、基本ボッチ飯だもん。
学校だと秋彦とか二宮さんと食べることもあって、その時は楽しい。いつものあんパンも、なんとなく美味しく感じる。
夏美さんは、未来では源次郎たちロボットが世話をしてくれるけど、彼らは食事をしないから、食べるときはいつもひとりだって言ってた。
それが当たり前だったって。
「僕なんかでも一緒に食べれば、美味しく感じるんだろうなぁ」
それがレンガのような不思議な食べ物でも。
魔法がかかったみたいにご馳走になるわけじゃないけど、美味しさマシマシになる。
――スナマイ、ガ、マスター、ト、アソン、デ、ヤッテ、クレ、ナイカ
源次郎が言ってたことが甦ってきた。
夏美さんは、人間と遊ぶってことを知らないんだろうなぁ。
源次郎たちはいるけど、彼らは夏美さんの要望を満たす行動をするだけで、それは、人間と遊ぶってことではないんだろうし。
遊ぶ道具はあるかも知れないけど、遊ぶ場所はなかったろうしね。
「わぁぁ綺麗!」
「カツテノ、チキュウ、ハ、ウツクシ、カッタ」
テレビの前が騒がしくなった。夏美さんはともかくとして、源次郎も感動しているように見えるのは、どうしてだろう?
「ねー冬弥君も見ようよ。すごい綺麗だよ!」
夏美さんが、目をキラキラさせて僕を見てくる。子供みたいだ。
僕にとっては、ネットを探せば、テレビ番組でも、すぐに見ることができる景色でも、夏美さんにとっては宝石にでも見えるのかも。
手についた水滴をぺぺっと飛ばして、タオルで軽く拭き取る。仕方ないなーって顔して、のそっと動きだす。
「すごいの! 海が、輝いてるの!」
夏美さんは興奮しすぎで、ちょっと涙ぐんでる。それほどの感動なんだろうか。
「海がこんなに綺麗だなんて、知らなかった!」
「み……そっか、初めて見たのか」
未来では、なんて聞きそうになってあわてて言葉を呑みこんだ。わざわざ水を差すことはないよね。
夏美さんから、ちょっぴり離れて、僕は床に座った。程よい距離は保たないとね。
「冬弥君!」
夏美さんの目が、これ以上なく猛獣になってる。すっごいギラギラしてて、なんとなく先が読めた。
「海が見たい!」
言うと思った。




