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19/23

【19】

 皿を片付けて、腰を叩く。おっさんみたいだけど、洗い物って腰に来るんだ。前かがみになるからね。運動不足が原因じゃないよ、きっと。

 顔をあげれば、テレビに釘付けの夏美さんと源次郎が見える。自然紀行のネット動画みたいで、山の景色を食い入るように見つめてる。


 ――冬弥君と食べてるからだ!


 さっきの夏美さんの言葉がリフレインしてる。

 同じ食べ物でも、ひとりで食べるのと誰かがいるのでは味が違うって感覚は、僕にもわかる。独り暮らしだから、基本ボッチ飯だもん。

 学校だと秋彦とか二宮さんと食べることもあって、その時は楽しい。いつものあんパンも、なんとなく美味しく感じる。


 夏美さんは、未来では源次郎たちロボットが世話をしてくれるけど、彼らは食事をしないから、食べるときはいつもひとりだって言ってた。

 それが当たり前だったって。


「僕なんかでも一緒に食べれば、美味しく感じるんだろうなぁ」


 それがレンガのような不思議な食べ物でも。

 魔法がかかったみたいにご馳走になるわけじゃないけど、美味しさマシマシになる。


 ――スナマイ、ガ、マスター、ト、アソン、デ、ヤッテ、クレ、ナイカ


 源次郎が言ってたことが甦ってきた。

 夏美さんは、人間と遊ぶってことを知らないんだろうなぁ。

 源次郎たちはいるけど、彼らは夏美さんの要望を満たす行動をするだけで、それは、人間と遊ぶってことではないんだろうし。

 遊ぶ道具はあるかも知れないけど、遊ぶ場所はなかったろうしね。


「わぁぁ綺麗!」


「カツテノ、チキュウ、ハ、ウツクシ、カッタ」


 テレビの前が騒がしくなった。夏美さんはともかくとして、源次郎も感動しているように見えるのは、どうしてだろう?


「ねー冬弥君も見ようよ。すごい綺麗だよ!」


 夏美さんが、目をキラキラさせて僕を見てくる。子供みたいだ。

 僕にとっては、ネットを探せば、テレビ番組でも、すぐに見ることができる景色でも、夏美さんにとっては宝石にでも見えるのかも。

 手についた水滴をぺぺっと飛ばして、タオルで軽く拭き取る。仕方ないなーって顔して、のそっと動きだす。


「すごいの! 海が、輝いてるの!」


 夏美さんは興奮しすぎで、ちょっと涙ぐんでる。それほどの感動なんだろうか。


「海がこんなに綺麗だなんて、知らなかった!」


「み……そっか、初めて見たのか」


 未来では、なんて聞きそうになってあわてて言葉を呑みこんだ。わざわざ水を差すことはないよね。

 夏美さんから、ちょっぴり離れて、僕は床に座った。程よい距離は保たないとね。


「冬弥君!」


 夏美さんの目が、これ以上なく猛獣になってる。すっごいギラギラしてて、なんとなく先が読めた。


「海が見たい!」


 言うと思った。

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