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18/23

【18】

「これを食料と言って許されるのか?」


 僕がソレを見て、最初に、正直に思った感想だ。口に出してはいけないと思ったけど、つい出ちゃった。


 レンガだ。

 見紛うことなくレンガだ。

 横浜あたりで有名なレンガそっくりだ。


「まー、冬弥君がそう思っちゃうのも仕方ないかな。この時代の食べ物って、見た目もおいしそうだもんね」


 テーブルには、レンガ ON お皿。

 世話になった、そして精子を貰うことに対する、夏美さんのおもてなしだそうだ。


「タンパク質、各種ビタミン、カルシウム、ミネラル。他にも人間が一日に必要とする栄養素をぎゅぎゅぎゅっと凝縮して創りあげた理想の食べ物なんだけど。お肌も艶々になるのよ?」


 ジャージ姿で正座した夏美さんが、首を傾げて、少し苦笑した。

 可愛いからって許しません。

 料理って、味のほかにも見栄えが大事だってのが良くわかった。思い知った。味気のない食事ってレベルじゃない。


「このレンガを食べろと?」


「味は色々あって、これはグレープフルーツ味なの。口に広がる、ちょっとすっぱいのがさっぱりして、いいのよ?」


 いいのよ?って可愛く言われても食欲がわきません。お腹空いてるけど。


「何か作りますよ」


 立ち上がった時にちらっと夏美さんの寂しそうな顔が見えた。


「マアマア、トウヤ。マスターガ、イルカラ、コソ、タベラ、レル、シロモノ、ダ。モノハ、タメシ、ト、イウデハ、ナイカ」


 緑色の球体が僕の足元に転がってきた。にゅっ足が伸びて立上った。

 源次郎がこの暴挙を止めてないということは、黒幕はコイツか。


「口の中の水分を根こそぎ奪っていきそうな食べ物なんだから、インスタントスープくらい用意してもいーんじゃない?」


「ハッハッハ、ソノ、シンパイ、ハ、ムヨウ。シットリ、サクサク、デ、ヒジョウ、ニ、ジューシー、ダ。アンシン、シテ、クラエ」


 ぬめっと現れた源次郎の目が妖しく光った。


「ずいぶん強引だな」


「マスター、カラノ、オモテナシ、ダ。クエ」


「まったく、口が悪いデラックスでスゴイAI様だね」


「ホメルナ」


 本気でそう思ってるのか、源次郎の機械音声が嬉しそうだ。なんとなくだけど。


「ともかくですね、スープは用意しますからね」


 話を強引にぶった切ってキッチンに避難を開始した。まともに取り合っちゃだめだ。


「確か買い置きのたまごスープがあったはず……あった!」


 10個で198円の特売品だ。普通だと298円もする。100円違うとジュースが買えちゃう。ビバ特売日!

 マグカップをふたつ用意して、コロンと中に放り込む。ポットでお湯を注げば出来上がり。

 簡単便利で美味しい。


 ……あのレンガも、そうなのかな?

 ちょっと気になってテーブルを見れば、眉を八の字にした夏美さんが、源次郎と何か話してるのが見えた。


 おもてなし、かぁ。


 夏美さんはアレを常食してたってことだよな。

 というか、未来にはアレ()()()()()()のか。

 ってことは、夏美さんが用意できる食べ物って、アレしかないのか。

 精一杯で、アレか。

 ……悪いこと言っちゃったかな……


「夏美さん、ソレって、ナイフで切れますか?」


 僕が声をかけると、夏美さんはびっくりしたようで、目を丸くした。でも、すぐに口もとが弧を描いた。


「見た目と違って柔らかいから」


「じゃあ取り皿いりますよね」


「無くっても大丈夫よ? いつもつまんで食べてるから」


 夏美さんが手をひらひらとさせる。夏美さんなりの気の使い方なんだろうか。

 お盆にカップふたつとナイフとフォークを乗せ、テーブルに戻った。


「せっかくですし、食べましょうかね」


 カップをお盆の上からテーブルに置いて、僕も正座した。向かいには、ニッと笑顔の夏美さんがいる。


「アリガタク、クラウ、ノダ」


「はいはい、ありがたくいただきますよ」


 ナイフを持って、そのレンガにあてた。ナイフ越しの感触はクッションみたいだった。

 ちょっと下に押すとすっとナイフが進む。想像以上に柔らかい。


「ね、柔らかいでしょ?」


「キレテナーイって言うつもりでした」


「なーに、それ?」


「聞き流してください」


 やらかした感がすごくって顔をあげられない。そのままレンガを小分けに切っていく。

 カステラを切ってるみたいに、ナイフにまとわりつく感じだ。夏美さんが言った通り、しっとりしてるんだろう。美味しそうだと思ってしまった。

 ちらと夏美さんを見やればにんまりとした笑み。嬉しそうだ。


「切れました」


「うん」


「マスター。コンナ、トキハ、オツカレサマ、ト、イウ、ノ、デス」 


「そっか。冬弥君お疲れ様」


 たかがナイフで切っただけなのに。あまり聞きなれない言葉に、なんだか耳が熱い。


「えっと、じゃ、じゃあ、食べましょうか」 


 静かに手を合わせて「いただきます」した。その間に夏美さんはパクリと齧ってた。

 僕も一切れとって口にする。カステラみたいにふにゃりとした感触と、それに酸っぱさが押し寄せる。

 でも、悪くない。

 なんかこう、癖が強いけど後引く感じで、でもさっぱりとした後味。

 美味しいと思う。けど、毎日食べてたら飽きる味かな。


「んー、いつもより、美味しいかなー?」


 夏美さんがぽろっとこぼした。口を尖らせて何かを考えてるみたいだ。


「なんでかなー?」


「食べていたのと同じなんでしょ?」


「そうなんだけど、なんか違う気がする……」


 夏美さんは顎に指を当て、うんうん唸り始めた。美人が悩んでる姿は不思議と綺麗なんだけど、レンガのかけらが口についてるのは黙っておこう。


「いつもと違うのは……」


 夏目さんの目がぐっと開いた。


「冬弥君と食べてるからだ!」

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