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17/23

【17】

 僕は驚いて声も出せない。

 夏美さんは、二宮さんが寝ているって思ってたんじゃ?

 断定はして無かったけど。


 ということは、妙な煙を出した源次郎が何らかの意図があって二宮さんの口だけを封じたってこと?。

 動くとこれまた厄介だけど聞いてほしかったから意識は残した?

 何のために?


 ん?

 そういや二宮さんは源次郎からゴメンって言われたんだっけ?


 これは、夏美さんの行動で迷惑をかけるから?

 痴話げんかだって話をしてたから、僕と二宮さんの関係がぎくしゃくするのを避けたかったのかな?

 まぁ、二宮さんとは何にもないんだけど! 


「まぁ、叔母さんでは、ないね」


「血の繋がりは一切なさそうだったし。でも同棲とか言ってたよね」


「押しかけられたって点は強調していくけども」


 茜色から紫に変わっていく空を背負った二宮さんの声はのトーンは、高くはない。

 少なくとも、怒っているという感じではない。


「痴話げんかの研究とか」


「その辺は、彼女が説明した通り、遠い未来から来た、人類最後のひとりなんだ。と僕は思ってる。道端でする話でもないから、近くの公園に行って説明するよ」


 僕は、そう提案した。ここから角を曲がってちょっと歩いたところに、児童公園があるんだ。いまの時間だと良い子は帰っていなきゃいけないから静かで、ちょっと込み入った話をするにはもってこいだ。

 僕が歩き出すと、静かに二宮さんはついてきた。アスファルトを鳴らすパンプスの音が僕の背後に刺さる。


 こんなことを説明したところで信じてはもらえないだろうけど、それでも今僕が置かれている奇妙な状況を説明しないと誤解をされたままだ。

 正直、二宮さんには嫌われたくない。良いお友達でもいいから、関係を持ったままでいたい。


 ブランコと砂場しかない小さな公園に、僕らは入った。街灯が寂しく照らす中、僕はブランコに腰かけた。二宮さんは隣のブランコに。

 下がってきた気温がさらに空気を重たくする。意を決して僕は口を開いた。


「夏美さんがちょっと不思議な人なのは否定しないし、近寄りがたい存在だってのも否定しない。僕も無関係でいたいけど、あっちから寄ってくるから仕方なく話を聞いたらすっごい巻き込まれてるんだ」


 二宮さんは無言でブランコをこぎ始めた。


「押しかけの女房って感じ?」


「んー、当たらずとも遠からずだけど、どっちかって言うと、精子強盗に近い」


 僕も二宮さんを追いかけてこぎ始める。バラバラだった二つのブランコは、いつの間にかピッタリのタイミングで揺れている。


「ふふ、美人な強盗さんね」


 二宮さんの吹出す声に、僕は横を見た。心なしか楽しそうに見えるのは、僕のひいき目じゃないと思いたい。


「美人ではあるね」


 そう呟いた。

 その美貌が、ひとりきりの未来では何の意味も持たないんだけどね、という言葉は、胃のあたりに押し込んだ。


「美人を前に若いパトスが暴走するかも?」


「二宮さんは詩人か何かなの?」


「さっき思いついた」


 にこっと笑う二宮さん。彼女の中で、何かの決着がついたんだろうか。夕やみ迫る暗い中で、清々しい笑顔だ。


「で、冬弥君は夏美さんと遊びに行くんでしょ?」


 にこやかにそう語る二宮さん。何か裏があるとは思えないし思いたくない。僕の中の二宮さんはそうあって欲しい。

 ただの願望だ。


「んー、そうするつもり。帰宅部で時間はあるし、僕にできるのはそれくらいしかないしね」


 死出の旅路に送る餞別にしてはちっぽけだけど。仕方ないよね。僕はただの高校生だ。してあげられることなんて、少ないんだ。


「やっぱり! 冬弥君は優しいからねー」


「優しいだけのいい人だけどね!」


「そうとっちゃった? あ、夏美さんと遊びに行くなら、あたしも一緒についてくからね!」


 猫のように笑う二宮さんはとてもかわいくて、今の言葉の真意を聞くのを忘れた。





 公園で二宮さんと別れ、僕はアパートへ戻ってきた。誰もいないはずの部屋には明かりが灯ってる。夏美さんが待ち構えてるんだろうか。


「あぁぁ!」


 晩御飯の食材がない!

 夏美さんバクバク食べるから、備蓄が尽きたんだった……


「今日の晩御飯、どうしよう」


 絶望を噛みしめながら上る階段は、まるで死刑執行台に向う死刑囚のような気分にさせてくれる。


 方法はある。いまから買い物に行く。

 でも、既に陽が傾いてて、今から買いにいって料理してたら夏美さんのお腹が謀反を起こす。


 あるいは、外食?

 源次郎がやらかした金があるから、僕の財政に影響はない。

 むしろやばい金だから使ってしまって、証拠隠滅を図りたい。

 でも、額がでかすぎて僕の人生を使い切って貯金通帳の数字は無くなりそうにもない。


 ぐー。


 僕のお腹も不平を申し立てているらしい。

 アキラメロンと言いたげに、僕のスマホが鳴る。通知された番号は、見覚えがない。

 まぁ出てみるかと思いタップすると、「冬弥くん?今どこ―、お腹すいたー」という夏美さんの声が。


「え、ちょ、なんでこの番号知ってるの? っていうか、夏美さんスマホなんか持って……あ!」


 未来から来た夏美さんが、スマホ如きを創れないわけがない。まして源次郎もいる。 

 理解できない超テクノロジーでぱぱっと作っちゃったんだろうな。


「創ってみたのよ!」


 予想通り、夏美さんの弾む声がする。

 創ってみたで造れる技術力はすごいけど、これ、表にだしちゃダメなやつだ。


「よく通信できるね、だってキャリアと契約しないと通話もできないはずだけど」

「冬弥君の服に探知機を縫い込んであるから、そこをアンテナにして通信してるの。これで冬弥君がどこに行っても追跡できて、会話が可能よ。仮初とはいえ夫婦なんだからいつも一緒じゃないとね!」


 もっとやばかった。

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