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12/23

【12】

 学校へは徒歩圏内だ。独り暮らしするんだから当然だ。

 夏美さんが嬉しそうにの食べる顔を思い出しながら、僕は学校への道を歩く。


「おっはー」


 背後から二宮さんの元気な声。振り返れば、やっぱり元気溌剌な二宮さんだ。朝日の中の笑顔が輝いてる。


「青春を満喫してるぜって顔だね」


「ラクロス楽しいもの!」


 彼女がニカッと笑うと、僕の頬も自然と緩む。


「今日はサラリーマンじゃなくって前途洋々なフレッシュマンな背中だったよ!」


「オヤジギャクを飛ばすような妙齢なおっさんの言い方やめて」


「的確でしょ!」


「だからいやなの!」


 くたびれたサラリーマンじゃなかったからまだ僕は元気なんだろう。 

 だが二宮さんのそのにやけた顔が怖い。なにかよからぬことをたくらんでる顔だ。


「新人の如く甦った冬弥君には何かいいことが起こったに違いない」


「特売の挽肉が買えた」


「ずいぶん慎ましやかな幸せね」


「貧乏人には死活問題だからね」


 二宮さんの追及も「貧乏」という単語で躱せる。万能なんだよ貧乏は。


「そういえば、昨日和服美人といかがわしい場所へ姿を消したという噂も聞いたけど?」


 ビシっと音が出そうな勢いで指をさされた。これが言いたかったんだろうな。

 確かに昨日は夏美さんが学校に来ちゃった。見られてるのも事実。すっとぼけるとさらに追及されそうだな。


「確かに」


「……ぉぉお!!」


「一緒に歩きはした」


「ん?」


「でも、いかがわしい場所へ行くだけの金はない」


「むむむ」


 二宮さんは腕を組み、唸っている。僕の答えが予想外だったのだろうか。

 僕は清貧純朴で通ってるんだ。そんないかがわしいところなんか足を向けたこともない。

 一緒に行く相手がいないだけなんだけど!


「だがしかし! お相手の女性がタニマチかもしれないじゃないか!」


「……何の真似だか知らないけど、まだやってるの?」


 探偵でも気取ってるのか、二宮さんのリアクションがいちいち大げさだ。


「あの人は僕の叔母さん、母さんの歳の離れた妹なんだ」


「なんとぉ!」


 とうとうラクロスのスティックまで振り回し始めた。周りの人が注目しちゃうからやめようよ。


「禁断の恋!」


「どうしてそっちに行っちゃうのさ!」


「年上の女性との、イケナイ遊び……切なくも、爛れた関係……ステキ……」


「二宮さんの嗜んでる漫画の内容が良くわかるよ」


 スティックを握りしめて忘我の向こうへ逝っちゃってる彼女を置いていくわけにもいかず、僕は立ち止まった。


「冬弥オッス」


 背中をバシーンと叩かれた。一瞬呼吸が止まる。これをやるのは秋彦だ。


「のんびりしてっと遅刻だぜ」


 逞しい腕を上げてあげ通り過ぎる秋彦こと鮫洲秋彦。中学から一緒の、剣道部所属の健康優良児だ。


 180センチから繰り出す面は破壊力満点らしく、我が校の剣道部では〝クラッシャー〟のあだ名がついてるほどだ。

 別になにを壊したわけじゃないけど、あだ名なんてそんなもんさ。


「二宮さんが向こうに逝っちゃっててさ」


 坊主頭に声をかければ「冬弥が責任もって連れ戻せばいーだけじゃん」といがぐり頭に答えられた。

 僕は悪くないのになー。

 

「嫌がる叔母様を無理やり……」


 なんて呟きながらうっとりと空を見てる変態乙女は注目の的だ。


「僕、行くからね」


「え、あ、ちょっと待って!」


 さっさと歩く僕の後ろから焦る声が追いかけてきた。

 校舎に入り下駄箱を経由して階段を登り廊下を歩く。リノリウム、別名Pタイルの廊下はキュッキュと鳴き声を上げる。


「さっきの話は本当なの?」


「ほんとうほんとう」


「その人の年齢って?」


「んーと……」


 そいうや聞いてないな。コールドスリープから目覚めて世界を探し回ってるって言ってたけど。

 見た目は若いよな。成人は、してるっぽいけど。


「あ・や・し・い」


「何が妖しいのさ」


「放課後、尋問を行う!」


「二宮さん、部活でしょ?」


「しまったぁぁ!」


 頭を抱える二宮さんと教室に入った。


 歳を取ると時の流れが速く感じるっていうけれど、僕はまだ若いので時間が経つのが遅く感じる。特に嫌いな授業の時は亀の歩み以下の速度、いやなめくじ級だ。

 100メートル走なんかした日には日没サスペンデッドになるのは間違いない。


 夕方になれば家に帰れる。おとなしくしててね、と言い含めたけど、夏美さんが心配だ。

 源次郎がいるから無茶はさせないと思うけど、それでも夏美さんは学校まで来ちゃった。


 ペットを家に置いたままでかけるとか、こんな気持ちなのかな。


「冬弥君!」


「お?」


 目の前には仁王立ちの二宮さん。何やら険しい顔だね。もっと快活な笑顔が似合う女の子なのに。


「もう昼休みだよ!」


「なんだと!」


 いつの間に昼になった!?

 もしや、僕はお年寄りにでもなってしまったのか?

 しかもあれだ。


「お昼、買わないとないんだ!」


 僕は机を押し倒す勢いで立ち上がり、購買へ走った。走ったけど、残ってたのはアンパンふたつだけだった。

 育ち盛りの僕には少々厳しい現実。


「なんか今日はずーっとぼーっとしてるよね?」


 項垂れる僕の背中に二宮さんの声が刺さる。ちょうど胸のあたりに刺さって痛いこと痛いこと。

 図星突かれてるせいもあるけど。


「さー、放課後の尋問ができない代わりに昼休みに白状してもらうよわよ!」


 一体全体僕が何をしたって言うのさ!

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