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10/23

【10】

「源次郎、それ、夏美さんには話してないのかな?」


 僕が訊ねると、源次郎の緑の目が明滅する。


「マスター、ヲ、ダイジニ、ダイジニ、ソダテテ、モ、ジンルイハ、ヨミガエ、ラナイ。キケンヲ、オカサ、ネバ、ナラヌ、トキモ、アル」


「やる前から諦めムードなの? それじゃ夏美さんがガッカリするんじゃないの?」


「ワレワレ、ガ、ノゾム、ノハ、マスター、ノ、シア、ワセ。ジンルイ、ガ、ドウ、ナロウ、ト、カンケイ、ナイ」


 そう言い切る源次郎の目の光に変化はない。AIといっても、人間に等しい感情があるわけでは、ないのかも。


「ワレワレ、ニ、トッテ、サイ、ユウセン、ハ、マスター、ノ、ノゾミ、ヲ、カナエル、コト」


「……ふーん」


「タトエ、ソレガ、ムダ、デ、アロウ、ト、ワレワレ、ハ、シタガウ、ノ、ミ」


「ダメだって分かってるんだ」


 まぁ、コンピュータだしね。未来予測とかは簡単だろうし。

 でも、無駄だとわかってここにいるのは、どうなんだろう。いくら夏美さんの望みだから無駄でもやるって言っても、彼女にとっては一大決心なわけだし。


「ムダ、ト、ワカッテ、ココ、ニ、イル、リユウ、ガ、アル」


 源次郎の丸い身体から足が生えた。キシキシと窓際に歩いていく。

 にゅっと腕を生やしてカーテンを開けた。窓越しに外を見てる。トラックが暴走してる音が良く聞こえた。


「ココ、ニハ、イキテ、イル、ジンルイ、ガ、イル」


「まぁ、僕も人類だし」


 ジェット機が飛んでる音も、歩いてる人の声も聞こえる。

 この世界は人間であふれかえってる。


「ソコデ、トウヤ、ニ、オネガイ、ガ、アル」


「嫌な予感しかしないけど、まぁ、話は聞くよ」


 夏美さんが本当に未来から来たのかは別として、あのまま放っておいてもろくなことにならない気がするんだよね。

 だいたい、毎日僕に突撃してくるんだから、無視したら今後も襲撃してくるだろうし。


「デアレバ」


 源次郎が僕を見上げる。


「マスター、ニ、ニンゲン、ト、シテノ、セイカツ、ヲ、アゲテ、ヤッテ、ホシイ」


「人間としての生活?」


「ソウダ。アレチ、バカリ、ノ、ミライ、デ、ナセナイ、コト、ガ、イマ、コノ、ジダイ、デハ、カノウ、ダ」


「向こうがどんな世界なのかは知らないけどさ。ここだって空気は汚れてるし水はまずいし。いい場所ではないよ?」


 南国の島なら海で泳いで魚と戯れて、なんてできるし、北に行けば雪で遊べるし。

 僕じゃなくって、もっと頼れる大人に言えばいいのに。


 高校生でしかない僕にはお金はない。仮に遊びに行くってとしても、近場の公園とか映画館とかショッピングモールくらいなもんだ。

 楽しめるとは思えないんだけどな。


「ミライ、デハ、ボウゴ、フク、ナシ、ニ、ハ、ソト、ニ、ハ、デラレ、ナイ」


「なにそれ」


「センソウデ、コウハイ、シタ、ダイチ、ニ、ジョウカ、スル、チカラ、ハ、ナク、タイキ、モ、タイヨウ、コウ、カラ、セイブツ、ヲ、マモッテ、ハ、クレナイ」


「なんかSFの漫画みたいな世界だね」


 僕が言うと、源次郎は寝ている夏美さんに体を向けた。


「フィクション、デ、アッタ、ノ、ナラ、ドレホド、ヨカッタ、コト、カ」


 源次郎の丸い背中が、なんとなく寂しそうだ。ロボットなのに哀愁を纏ってるみたいでおっさん臭いけど、それくらい夏美さんのことを思ってるともいえそうだった。


「セイブツ、ノ、スガタ、ヲ、モトメ、テ、コウハイ、シタ、チキュウ、ヲ、サマ、ヨイ、ゼツボウ、ノ、ウチ、ニ、キカン、スル。マスターハ、ワレワレ、ノ、マエ、デハ、キジョウ、ニ、フルマウ、ガ、ベッド、デハ、ヨク、ナイテ、イタ。ワレワレ、ハ、カケル、コトバ、ヲ、カコニ、サガシタ、ガ、ミツカラ、ナカッタ」


 僕も夏美さんを見た。穏やかな顔で寝ている。


「ショクブツ、ハ、アル。ムシ、モ、イル。ショウ、ドウブツ、ハ、イタ。ダガ、ショクリョウ、ト、ナル、ホドノ、オオキサ、ノ、セイブツ、ノ、スガタ、ハ、ナイ。アイガン、ト、ナルヨ、ウナ、カワイイ、ガイケン、ノ、ドウブツ、モ、イナイ」


 ペットみたいな動物もいなかったのか。本当にひとりだったんだな。


「コノ、ジダイ、デ、ニンゲン、トシテ、タノシム、コト、ガ、デキタ、ナラ、モト、ノ、ジダイ、ニ、モドッタ、トキ、ニ、ツラク、テモ、ココロ、ノ、ササエニ、ナルノ、デハ、ト」


 源次郎の機械的な音声だけが部屋に響く。僕は口を挟めず、ただ聞いているだけだ。


「スナマイ、ガ、マスター、ト、アソン、デ、ヤッテ、クレ、ナイカ」


 源次郎が顔だけ回転させてこっちに向き、僕を見てくる。緑の光がどこを見ているのかなんてわからないけど、たぶん僕を見てんだって感じる。


「……遊ぶのは、いいけど、僕は独り暮らしも精一杯の貧乏だ」


「カネ、ナラ、モンダイ、ハ、ナイ」


「お金、持ってるの?」


「キンユウ、システム、ヲ、ハッキング、シテ、ツクレバ、ヨイ」


 いやいやいや。それは犯罪だから!


「キンユウ、ネット、ワーク、ジョウ、デ、フシンナ、データ、ヲ、ミツケタ。ソコカラ、ウバッタ、ダケ」


「え、ちょっと待って! それ、普通の人が知っちゃいけないお金じゃないの!?」


「シッタ、コトカ」


「僕の身の安全とかも考えて! 下手したら夏美さんにも危害が及ぶかもしれないんだよ? それはまずいんじゃないの?」


「モンダイ、ナイ。トウヤ、ノ、キンユウ、コウザ、ニ、イドウ、サセタ」


「大問題だよ!!」


 田舎のお父さんお母さん。僕は犯罪に加担したことになってしまうようです……

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