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なんか『複アカ』作ってポイントの水増ししてるとか言われて垢BANされたんだけど断じて俺はやってない。

作者: 日暮キルハ

『複アカ』というものに関しての考察やら小説やらを読んでいてふと思い浮かんだことを短編にしました。完全に作者の妄想なのでこんなことは現実にはたぶん起こりません。

 垢BANされた。


 ……いや、ごめん。

 これじゃあ何言ってるか分からないよな。


 えっと……あれだ。

 

 まず、俺の名前は乙坂洋一おとさかよういち

 今年大学生になって一人暮らしを始めたばかりの18歳だ。

 ちなみに友達はほとんどいない。

 講義の度にキャンキャン喧しいリア充共を呪うのが日課になっている。


 そんな非生産的な毎日を過ごしている俺ではあるのだが実は一つだけ趣味と呼べるものがある。

 それは小説を書くことだ。


 俺はとある小説投稿サイトを利用して六年程前から自作の小説を投稿している。

 趣味全開の内容で酷評されることもあるが書くことは凄い楽しいし好意的な感想が届いた日なんかはそれだけでリア充を呪う日課にも熱が入るくらい嬉しい。


 だからこそ飽きっぽい俺が六年も続いてきたんだ。

 最近では張り巡らせていた伏線の回収を皮切りに以前よりも読んでくれる人や評価してくれる人なんかも増え『ランキング』と呼ばれる場所に載せてもらうことも増えた。

 

 もちろん一人で黙々と書いていた時だって本当に楽しかったけれど最近はその頃の何倍も楽しくて仕方なかった。

 励ましてくれる人の言葉が、叱咤してくれる人の言葉が、罵りの言葉でさえも俺が小説を書くための活力となっていた。


 書き始めた頃は夢にも思っていなかった『書籍化』なんてものの影もうっすらと見えてきていた。

 

 ――それがたった一夜の内にすべて消えてなくなった。


 前日、俺は風邪を引いてその日の更新を休む趣旨の活動記録を書き込んだ後まだ夕方ではあったものの眠りについた。

 俺の作品を待っていてくれている人達のためにも早く治して続きを書きたかった。


 そして今日。

 まだ夜も明けきらぬうちに目を覚ました俺はせめて今日更新する分だけでも、と思いサイトのマイページを開いた。


 そんな俺を待っていたのは『利用規約違反によるアカウント削除』だった。


 理解できるだろうか?

 理解できるわけがない。

 当然ごとく俺は思考も行動もフリーズし丸々一分微動だにしなかった。


 そして状況を理解すると同時に発狂した。

 隣に住んでいる強面のおじさんに壁ドンされた。


 そんな恐ろしいはずの事すらどうでもよくなるぐらいの衝撃だった。

 いや、衝撃なんて生易しいものではない。

 どうしようもないほどに絶望的な心境だった。


 垢BAN。

 正直な話自分には絶対に関係のない話だと勝手に決めつけていた。

 だって俺の書いてる作品でロリ狐獣人の触手プレイ書いても全然大丈夫だったんだぞ!?


 なんで…………?

 ひとしきりどうしようもない絶望の中を漂ったあと、俺はようやくそこに思い至った。

 はっきり言って全く心当たりがない。

 不正なんて当然俺は手を出してない。

 例の触手プレイに関してもかなり前の事だ。

 今更あれが原因でどうこうなんてことは極めて考えづらい。


 …………なんらかの間違いで消された?


 脳裏にそんな考えがよぎった瞬間、俺の指はキーボードへと向かっていた。

 運営に問い合わせるために。


 何かの間違いあってほしい。

 そうであるはず。


 眠れるわけなどないけれど。

 このまま返信が返ってくるのをひたすら待ち続けることができるほど俺の心も体も強くない。

 布団にもぐって目を瞑った。

 そうでもしないと体の震えを止めることすらできなかった。


 怖くて仕方がなかった。 

 一分が永遠にも感じた。

 かと思えば一瞬のうちに数時間が経っていた。


 色々ともう一杯一杯の状態だった。


 もし、このまま俺のアカウントが帰って来なかったらどうなる?

 俺の作品は?

 俺の事を支えてくれた人たちに俺はどう説明したらいい?

 いや、それ以前に……そんなことになって俺は生きている意味があるのか……?


 考えれば考えるほどにどつぼに嵌まりいよいよ一睡もできることなく気付けば太陽が上がっていた。

 こんな時でも昼から必修の講義がある。

 当然単位をおとすわけにはいかないので出席しざるをえない。


 鉛のように重い体を引きずるようにして布団から俺は抜け出る。

 そして、一件のメールが届いていることを認識した。


 それ(・・)だという保証はどこにもない。

 でも俺は慌ててそれを開いた。

 結果として俺の望んだ物ではあった。 

 しかし、その内容は到底俺の望んだ物ではなかった。


 非常に短い間隔での同一IPでの複数のユーザーアカウントの利用。


 それが俺のアカウントの削除理由。


 所謂、『複アカ』と呼ばれるものだ。

 俺はこれを作って利用した。

 だからアカウントを消された。


 納得なんてできるわけがない。

 身に覚えが一切ない。


「ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなァッッッ!!!」


 理解も納得もできない。

 何も分からない。

 何がそんな結果を招いたのか。

 

 でもただ一つ、どうしようもなく理解できたことがあった。


 ――俺の六年間はこんな訳の分からないことで全部なくなったんだ。


★★★★★


 正直、大学に行くような気分ではなかった。

 けれどもあのまま家に居る気にはとてもなれなかった。

 

 だから今俺がここに居るのはきっと単位のためではなく余計なことを考えないようにするための俺なりの自己防衛なのだと思う。


 不思議と涙は出なかった。

 凄く悲しいし凄く辛い。

 当たり前だけど苦しくて仕方がない。


 でも、涙は出なかった。

 それはひとえになんでそんなことが起きたのか未だに俺自身が理解できていないことが大きな原因になっているのだと思う。


 理解できていないせいでどこかまだ現実味がないから。


「だからなんだよって話だけどな……」 


 とはいえ現実は現実。

 俺は間違いなく垢BANされてしまったのだ。

 それも全く身に覚えのない理由で。


「……はぁ」


 俺はかばんから一冊のライトノベルを取り出しその表紙をめくった。

 まだ講義までは時間がある。

 それまでの時間つぶしだ。

 いつもなら例のサイトの他の人の作品を読んで時間を潰すのだけどさすがにあんなことのあった後では読む気になれない。

 それでも結局小説に手が伸びる辺りに俺にはほんとにそれ以外に趣味と呼べるものがないのだと自覚してしまった。


「あっ! それ俺も読んでるよ!」

「へっ?」


 不意にかけられた声に思わず変な声がでる。


「あ、ごめん急に話しかけて。邪魔だった?」

「い、いや、そういう訳ではないけど」

「そっか、それは良かった」


 いつもキャンキャンと煩い連中。

 そのリーダー格の男が急に話しかけてきた挙句一切不自然さを感じさせない動作であっさりと俺の隣に腰かけた。


 ……なんだこいつ?


「ところでさ、本に興味が?」

「……え? あ、まぁそれは」

「へー、じゃあさ、もしかしてだけどこのサイト使ってたりする?」

「…………あ、いや……」


 男が見せてきたのは俺が使っていた(・・・・・)サイトだった。

 

「え? もしかして使ってないの? これめちゃくちゃ面白い作品がいっぱいあるから使った方がいいぞ!」

「あー、そうなんだ……」

「いや、ほんとまじで! とりあえず登録だけでも、な?」

「あ、うん。あとでやっとく」

「お、マジで!? じゃあさ。この作品に評価入れといて欲しいんだけど」

「……え?」


 そう言って男が差し出してきた画面には一つの作品のタイトルが。


「これは……?」

「俺が書いてる小説」

「あ……じゃあ読んでから」

「あー、そういうの良いから。評価だけ入れてくれればそれで」

「……それってダメなんじゃ?」

「そんな固いこと言うなって!」

「……いや、だって読まずに評価ってそんなの評価じゃないし……複アカとか作る奴とやってること同じじゃん……」


 要するに内容度外視で自分の作品に評価ポイントを入れろ、という事だろうか。

 ぶっちゃけそんなことをしたところで仕方ないと思うしこんな奴のことどうでもいいとは思うのだけど訳の分からん理由でアカウント消された身とすればそんなバカなことをするのは止めて欲しい。


「いやいや複アカとは全然違うって。あんなすぐに足がつくようなリスキーなこと自分の作品にやるわけないじゃん! やるならムカつく奴の作品(ごみ)潰すときだけだって!」

「え……そんなことできるの?」

「昨日もうぜぇやつのアカウント吹っ飛ばしたばっかだぜ? いや、ほんとゴミみたいな内容でさ、俺がせっかく親切に内容をこういう風に変えるべきだって教えてやってるのに「自分の作品の内容は自分で決める」とか偉そうにほざきやがってさ。鬱陶しいからわざとバレバレの複アカ大量に作りまくってそいつの作品に評価ぶち込んで通報したらあっさり消えた! アハハ、まじで傑作だろ? 作品の内容どころか存続すら自分で決められてねーじゃん!!」


 笑う男。

 全く笑えない。


 つーか、なんか俺今こいつが言ってたような感想つい最近貰ったことあるうえにそんな感じの返信したような気がするんだけど…… 


「さすがにさ、まさか消えるとは思ってなかったんだけどな! 『不正野郎』ってレッテル貼れればとりあえずはそれでよかったし。まぁ消えたんだからその程度の存在だったってことだろうけど!」

「…………ペンネーム教えて貰ってもいい?」

「ん、俺? 『大統領』だけど? どうかした?」

「…………いや、なんでもないよ」


 あぁ、確定だ。

 こんなくだらない奴が……


 こんなくだらない奴に俺の作品は……

 俺と読者様が作り上げてきた作品は……


 ふざけんなよ……


「そ? まぁあとで良いから俺の作品に評価よろな。最近いい感じに伸びてきてるんだよね!」

「へぇ、そうなんだ。……それはよかった」


 とりあえず10000ポイントくらい入れて貢献してあげるね?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 題名だけで伝わってくる斬新な発想に興味を惹かれて拝見しました。 小説サイトでの事例というのは聞いたことがなかったとはいえ確かに自分の評価を上げる目的で自作自演をする事例は知っていた為、それ…
[一言] 実際は端末情報とか確認するからこれではBANされないでしょうね。 現実なら逆に、複垢を作った側がBANされますね。なろうと同じと過程して、おもくそ利用規約違反なのでw
[一言] ぶるっ。ときました。 復讐も犯人(?)の動機の身勝手さにも。 なにより身に覚えがないのに垢BANされるとは恐ろしい……。
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