200000PVを記念しての外伝となります。
今回は200000PVを記念してある人物に視点を当てた外伝となります。
……暗き闇の中で、紅き炎が天に吠える竜のように周囲に火の粉を纏わせながらその勢いを増していた。
現実とは思えない幻想的なその情景を、貫頭衣のみを身に纏い二頭引きの馬車から放心した顔で見ていた少女は家族を失った悲しみと、故郷を捨てなければならない現実を受け入れることが出来ずに全ての感覚を捨て、自分の閉ざされた心の中へと逃げ込んでいた……
(私が助かったのは単に偶然でしかなく、半獣人という中途半端な存在であったから……獣人だった父さまや母さま、私と一つしか違わない姉様まであいつらは獣人というだけで私の家族を殺していった……)
思い出したくも無い自国シドリアに訪れた悲劇が、心を閉ざし五感を拒否する少女の中で何度も何度も映し出されていく。
彼女の生まれたシドリアは特徴の無い只々平和な国でしかない。
獣人族が王を務める事だけが特徴と言える程度のこの国は、他国からも評判は良く農作物を交易品する程度の平凡な国であった。
国王ラドクリフ三世は妻であるマナリィ王妃以外に女性を求めず、娘二人しかいない後継者問題すらも笑ってすませるような温厚で優しい王である。
王としては愚王と呼ばれても仕方ないであろうその方針は、民衆にとっては良くない事であるにも関わらず、多くの民はその王の行動を喜んで受け入れていた。
周囲の国もそんな気の抜けたこの国に対して呆れるばかりで、余りに無防備なこの国に対して心配の声を掛ける国がほとんどであった。
そんな平和な時間が終わりを告げたのはここ2、3年にて急速に軍事力を拡大し始めた隣国トラヴェーズ帝国の宣戦布告なしの侵略である……
トラヴェーズ帝国は遥か太古にこの大陸全てを統一したと言われるトラヴェーズが作り上げた国だと言われていた。
実際には文献すらもないお伽話のような話なのだが、トラヴェーズ帝国に生まれた人々はそれを誇りに思い、帝国に住む殆どの民衆はそれを信じ込んでいる状態が続いている。
だが、現実では数ある小国の一つに過ぎず隣国シドリアとも特別に仲が悪い訳でもない、よくある隣国の内の一国だったのだ。
それが近年になって急に人族至上主義国となり、人族以外の亜人達を迫害し始め他国の非難を受けるという恐るべき変わり様をしてしまったのだ。
多くの人族の犯罪者がトラヴェーズ帝国では優遇されるという話を聞きつけ、悪辣で知られる傭兵団や、金で全ての仕事を請け負う暗殺集団、悪魔信仰とも言われている宗教団体などがトラヴェーズ帝国へと集まっていく。
このような前代未聞の犯罪者集団の集結をさせたトラヴェーズ帝国は、他国の警戒や警告を無視して淡々と軍事力を上げていたのであった……
他国に関して寛容的なラドクリフ三世でさえトラヴェーズ帝国の情報を集めていたのだか、突如として宣戦布告もなしに領土に侵攻され、民衆達を虐殺されいく中、ラドクリフ王は民衆を周辺国へと逃がすために軍を3つに分け二つの軍勢で周辺国まで民衆を護衛させ、残る軍勢で王都での籠城戦を決行した。
軍部ではこの案に対してかなりの抵抗があったのだが、ラドクリフ王はこの案を譲らず若き兵達を民衆への護衛に回し、年老いた兵や身寄りのない者ばかりで籠城する為の兵を集めたと言われている。
そうしてシドリア王都で行われた籠城戦は、2000対3万という圧倒的に不利な状態から始まり約1ヶ月の戦いを経てシドリア国の王都崩壊によりその終結を迎える。
シドリア王都には民衆はほとんどいない状態ではあったが、義勇兵やその周りの補助をする為の少数の人々が最後までトラヴェーズ帝国の兵達に抵抗したと噂されている。
シドリア王都を占領したトラヴェーズ帝国の兵達は略奪や蹂躙を期待していたようだが、あまり豊かとは言えないシドリアには食糧程度しか目につくものはなく、怒りに荒くれる兵達にシドリアの兵や義勇兵はほぼ生贄のような形で惨殺され燃やされていった……
荒れ狂う炎に焼かれる王都を今も責め立てられている城から見ていたラドクリフ三世は、娘二人を逃がすことを決意するが長女であるナナィはそれを拒否する。
「父上、私が一緒ではトラヴェーズ帝国兵の目から逃れる事は出来ないでしょう……あの者達は亜人を優先的に殺していると言われています。王家の者のほとんどは獣人である以上、我々が目に付くことは当然の事と考えます。しかし、※※※なら角さえ隠せば人間と同じにしか見えないはず……私はここに残り※※※だけを逃す事を優先しましょう」
「嫌! 姉さま、どうしてそんな事を言うの? 私もここに残る! みんなと離れて生きていくなんて私には出来ない! 」
第1王女ナナィは、目に涙を浮かべ必至にしがみついてくる※※※の背中を優しく撫でると狼頭を※※※の顔に寄せるとそっと耳元で囁く。
「私の可愛い妹の※※※、私達家族にとって貴女が生き抜く事だけが私達にとっての希望なの。この国が滅び、縋るものが無くなった民衆にとって貴女が生きている事が分かればそれだけで我が国の民に希望が生まれるはずよ。王家の者として貴女も責任を果たしなさい……私達は貴女を見守っているわ」
そんな王女を支えるように、王と王妃も※※※を囲み抱きしめる。
※※※が乳母と共に城の隠し通路から街外にある廃屋へと辿り着いた時には、シドリアの城から黒煙が立ち始めた時であった……
それからの事は少女はよく覚えていない。
長年乳母が自分を老婆に預けると、こちらを見て微笑みながら武器を持ちその場を去ってしまった事が、少女にとって最後の希望を失う事になってしまったからだ。
自暴自棄になっていた少女の手を掴み、馬車に無理矢理乗せて走り出す老婆の顔には何故か苦渋の表情が現れていたが、その時の少女にとってそれはどうでも良い事であった……
馬車に乗り2時間ほど経った頃、冒頭で己の心の内へと閉じこもってしまった少女に奇妙な事が起きる。
幸せだった頃の記憶に浸っていた彼女の心に別の風景が映り始めたのである。
その光景は痩せた男性と病気により臥せっている女性の間で幸せそうに寝ている少女の光景だった……
知るはずもない男性と女性がその少女を見て微笑む姿を見て、※※※は何故か涙を流してしまう。
心の中で涙する※※※に対して、その男性と女性は視線を※※※に向けると、二人は自分達の間にいる少女のに対して微笑んでいた顔を※※※にも向けてくるではないか⁈
驚く※※※に対して、二人は声にならない『何か』を※※※に語りかけてくる……
こうして※※※は自分の中のもう一人の自分と一つになるのであった……
「婆さん……ここは何処?」
目が覚めるや否や老婆に対して問答無用で現状を聞く少女に、老婆は驚きを隠せなかった。
先程まで現実を受け入れられずに何もかも捨ててしまったような少女が、今や目を爛々と光らせ生きる事を渇望しているからだ。
「ここは王都から少し離れた街道さ。もう少し進めば隣国に通じる街へと着くけど……これからどうするかね? 」
この時、老婆には既に予定が作られており少女の言い分など聞く必要は全くなかった。
しかし、別人とも思える少女の豹変ぶりに何かを感じた老婆は少女がどのような考えをしているのかを知りたくて、つい少女に問いかけてしまう。
「……既に追っ手は出ていると考えた方がいい。死体を見れば誰の死体が足りないかなんてすぐ分かるだろうし……このままその街に行く事は危険過ぎる。私としてはその街に寄らずに他の国へ行く方がいいと思う」
予想外の的確な答えに老婆は内心驚きながらも、老婆は少女が出した答えに頷くと自分の考えていた計画を少女に教える。
「そうさね。あんたの言う通り、この国の検問の殆どには帝国の手が回っているだろうね。だから私としてはこのまま何処にも寄らずに隣国への検問まで進むつもりさ……ただ検問だけはどうしようかと考えている途中だけどね」
老婆がそう言うと、話を黙って聞いていた少女はおもむろに馬車の中にあった首輪を自分で付け始める。
「一体何のつもりさね? 子供に首輪なんか付けても奴隷としては見られないだろうし、そんな趣味なんか私にはないからね」
「奴隷ではなくペットとして連れていると言えばいい。子供を奴隷に出来ない事は知っているけど、こういう方法で子供を囲っている大人がいる事を知っている」
予想外の少女の行動とその返答に老婆は一瞬動きが止まると、その場で大笑いをし始める。
そんな老婆の笑いの意味が分からないのか不思議そうな顔をする少女を老婆は優しく頭を撫でながら、自分にもいい含めるように少女に語りかける。
「確かに……それなら行けるかも知れないね。あんたの名前は今から『シロ』だ。隣の国の貴族様にペットとして売るためにこの国を出る私の商品としておこう……これでいいかい? 」
老婆の言葉に頷くと少女はもう一度だけ故郷の城の方角に顔を向ける。
朝日と共に見える黒煙を心に刻みながら少女はこれから『生き残る』為にその光景を一生忘れまいと己に誓うのであった……
次回投稿は木曜日予定です。




