第139話「イケメン暗殺依頼」
「村の上の方に……花屋がいるの、知ってるか?」
「ええ、花屋の娘さんはちょくちょく来ますよ」
「そうか……あの娘にちょっとな」
「ま、まさか帽子男さん、ラヴ?」
「ポンちゃんも女だなぁ、恋愛に興味あるのか?」
今日のパン屋さん、お客さんはさっぱりです。
のんびりした時間が過ぎるのに、わたしはトレイやトングを磨くの。
コンちゃんは「ぽやん」としてテレビ。
奥からはミコちゃんがお昼の準備をしている音がしてきます。
そんなまったりした時間が流れているお店に、一人お客さんが到来なの。
ってか、お客さんは学校の用務員・帽子男です。
「おう、コーヒー一つ」
「いらっしゃいませ、どうしたんです?」
「うん?」
「この時間は学校にいなくていいんですか?」
「ああ、今日は一応仕事、終わったからな」
「そうなんですか……って、仕事ってなんです?」
「学校の用務員か……」
って、帽子男さん、考える顔。
「そうだな~」
「?」
「草むしりとか、グランドのデコボコならしたりとか、給食の準備に老人ホームの手伝いもあるかな」
「あ、そういえばたまに老人ホームにもいますね」
「おうよ、長老やミコちゃんと交代で飯炊いてるからな」
「ふふ、帽子男さんの黒カレー、おいしいですよ」
「ポンちゃん、俺はカレーだけじゃないんだぜ」
「そうなんですか」
「給食もたまに作ってるんだぜ」
「へぇ~」
わたし、コーヒーを運びながら、
「子供と遊ぶだけでも大変ですよね」
「そうだな~」
でも、なんだか今日の帽子男さん、表情がさえません。
ちょっとこわい感じさえします。
「どうかしたんですか? ちょっと顔がこわい」
「うん……ちょっとな」
「?」
「村の上の方に……花屋がいるの、知ってるか?」
「ええ、花屋の娘さんはちょくちょく来ますよ」
「そうか……あの娘にちょっとな」
「ま、まさか帽子男さん、ラヴ?」
「ポンちゃんも女だなぁ、恋愛に興味あるのか?」
「え、まさか図星ですか?」
「そう見えるか?」
「ううん、ぜんぜん」
「茶化しやがって……で、あの娘がな」
「どうしたんです?」
「殺しの依頼をしてきたんだ」
「!」
って、わたし、びっくり。
さらにびっくりなのが「ぽやん」としていたコンちゃんが帽子男の斜めの席に着いてる事です。
「わ、びっくり、コンちゃんどうしたの!」
「面白そうなのじゃ、花屋の娘が殺しの依頼!」
「物騒なだけですよ~」
「俺も最初は冗談かと思ったんだ」
「ですよね~」
「で、で、どうしたのじゃ、どうするのじゃ」
コンちゃんは「殺し」を希望してるみたいです。
まったくこの女キツネは、いつもとんでもないですね。
帽子男さん、ため息まじりで、
「もちろんそんな依頼は受けるつもりはない」
「あ、そうなんだ、殺し屋稼業はもうしないんですね」
「まぁ……500円じゃ、受けるわけないよな」
「「500円……」」
わたしとコンちゃんはもっちゃいます。
だって人殺しに500円はないでしょ。
ワンコイン殺人事件……ドラマにもなりません。
「でも、絡まれるのも面倒だから、とりあえず受けたフリはした」
「そうなんですか」
「でも、なんであの娘はラーメン屋を、自分のアニキを殺したがるかな」
「あ、殺して欲しいのはイケメンさんなんですか」
「おうよ」
「花屋の娘さん、イケメンさんを嫌ってますから」
「おお、ポンちゃん詳しいな」
帽子男、コーヒーを一口してから、
「あの男、そんなに悪いのか?」
「「さぁ?」」
「まさか、妹を襲ったとか?」
「「さぁ?」」
わたしとコンちゃんはもりまくりです。
でも、コンちゃんが微笑みながら、
「わらわもあの男は好かんのじゃ」
「お、コンちゃん、ラーメン屋とお似合いと思ったんだかな」
「帽子男よ、おぬし、わらわとあのイケメンとお似合いと言うかの」
「ああ、美男美女で絵にならねーか?」
コンちゃん、ちょっと暗黒オーラが渦巻いてます。
「なんで怒るんだよ」
「わらわ、あの男とおぬしなら、おぬしの方がマシじゃ」
「おお! 選んでもらって嬉しいが、イマイチわかんねーな」
「あのイケメンはどこか女々しいのじゃ」
「女が女々しいとか言うかなぁ」
「女々しいのじゃ」
「むう……まぁ、たしかに『漢らしい』とは違うかな」
「だからおぬしの方がマシなのじゃ」
「コンちゃんは古風なんだな」
「そうなのじゃ」
わたし、脱線してるみたいだから、軌道修正するとしましょう。
「で、殺しちゃうんですか」
ちょっと帽子男さんの胸元を見ます。
指でジェスチャー。
気付いた帽子男さんは胸の所に下げている銃を出して、
「ポンちゃん何見てるんだよ」
「その銃で『ズドン』と殺っちゃうんですか?」
「ポンちゃんも殺してほしいのか?」
「いや、ちょっと、どーするのかな~って」
「殺らねーよ、500円でできるか!」
「えー!」
今の「えー!」はコンちゃんです。
不満タラタラな表情で帽子男を見ながら、
「依頼受けたのであろう~」
「フリだフリ」
「男らしくないのう」
「こんなのどかな村で余計な仕事が出来るか!」
「ちっ!」
って、コンちゃん舌打ちしてから、指を弾きます。
「ゴット・サーメンじゃ」
って、空いている席がキラキラ輝いて、花屋の娘が召喚です。
桃を食べてる最中だったみたい。
コンちゃん、花屋の娘から桃を取り上げて自分で食べながら、
「これ、花屋の娘よ」
「わわ、何? 何でパン屋さんなの? どうして?」
「そんな事はどうでもよいのじゃ、花屋の娘よ」
「え? 何? コンちゃん?」
「おぬし、帽子男に殺しの依頼をしたそうじゃの」
「ど、どうしてそれを!」
ああ、殺人依頼がばれて驚愕の花屋の娘さん。
でも、コンちゃん、帽子男を指さして、
「この男は『約束のフリ』ともうしておったのじゃ」
え……そっち?
わたし、てっきり殺人依頼した花屋の娘をとがめるとばかり思ってました。
そしたら帽子男の約束反故の方を持ち出すんです?
「なんですってーっ!」
花屋の娘、いきなり立ち上がると帽子男の襟首を捕まえます。
もう一方の手であっさり銃を抜き取り、帽子男に突き付けるの。
「ちょっと、約束したじゃない、お兄ちゃん殺してって」
「わ、あぶねー、銃を下ろせよ」
「大丈夫よ、ドラマで見て扱い方知ってるから、こーゆー時は安全装置外すんでしょ」
安全装置外したら危なくないですか?
「約束したわよね!」
「あ、危ないって」
帽子男は真っ青です、花屋の娘さんは真っ赤ですけど。
そしてコンちゃんは喜々としてます、この女キツネはまったくモウ。
「お兄ちゃんを殺してくれるの? くれないの? 死にたいの?」
って、花屋の娘さん、ちらっと周囲を見回して……
帽子男に突き付けていた銃をあらぬ方向に向けて「バン」!
すぐに銃口を帽子男に戻します。
「ほら、私、ゲームで鍛えたから銃、ちゃんと扱えるわよ」
「って、花屋さん、どうして撃っちゃうんですかーっ!」
そうですそうです、お店に銃弾の跡、残っちゃうじゃないですか!
って、花屋の娘さん、ウィンクしながら、
「大丈夫、お店にある節穴に撃ったから、目立たないから!」
「「「え!」」」
わたし・コンちゃん・帽子男ではもっちゃいます。
帽子男が手で「T」の合図。
花屋の娘さんも頷いて解放してくれました。
わたし達3人でさっきの「バン」の先を見に行きます。
確かにお店にあった節穴……ちょっと広がってるだけですよ。
「すごいすごーい、花屋さん、殺し屋に転向したらどうですか?」
「うむ、あっぱれなのじゃ」
「あの距離で、片手で……なかなかやるなぁ」
「ふふ、すごいでしょ、ゲーセンで鍛えたのよ」
って、花屋の娘さん、帽子男の頭に銃口突き付けて、
「で、お兄ちゃん殺してくれるの? くれないの?」
「ねぇねぇ、花屋さん」
「何? ポンちゃん?」
「自分で殺したらどうなんです?」
「え? どうして?」
「だって……一々依頼しなくても……」
「だって私、花屋だもん、人殺しは業種違い」
「……」
「だって私、銃なんてゲームでしか撃った事ないし」
今、撃ってましたよね、すごい腕前で。
わたしがジト目で見ていると、銃口をこっちに向けて、
「何か?」
「こ、こっちに銃口向けないでください、モウ」
って、花屋の娘さん、銃を帽子男に何事もなかったかのように戻すと、
「頭にズドンと一発決めてくれればいいの、それで終わり」
「し、しかしなぁ~」
「こんな山の中だから、誰も探したりしないって」
もう、花屋の娘さん、物騒な発言連発しまくり。
殺し屋の帽子男さんの方がタジタジなんですよ。
「あの男がそんなに悪い男には思えないんだがな」
って、帽子男の発言に花屋の娘さん、本気チョップ。
すごい重い音がして、帽子男さん頭を抱えちゃってるの。
「じゃぁ、ラーメン屋さんに行ってみればいいのに!」
で、帽子男とわたしでラーメン屋さんです。
もうお昼をちょっと回ってるから、お店の中はガランとしていますよ。
「いらっしゃいませ~って、ポンちゃんと用務員さん」
わたし、帽子男さんを見ます。
いや、お店に来たのはいいけど、どうするんでしょう?
もう、ここでズドンとやっちゃうのかな?
いやいや、帽子男さんも視線泳ぎまくりです。
どうも殺しをやる気はなさそうですね。
とりあえずカウンター席に座ると帽子男さんが、
「ラーメンを頼む」
「はーい、ラーメン2つでいいですね」
わたしも頷きます。
イケメンさんはラーメン茹でてますね。
すごい手際で1分くらいで出てきました。
「ちょっと早くないですか?」
「そうかな? ここ、生めんだし、『針がね』くらいだよ」
「む~」
って、一口、確かにちょうどいいかも。
ちょっとシンが残ってるけど、歯応えあっていい感じです。
久しぶりのラーメンです、わたし、お箸が止まりません。
帽子男さんも食べ始めます。
ここはテレパシーでしょう。
『ねぇねぇ、帽子男さん』
『うぉ、なんだ、ポンちゃん!』
『どうです、殺す気になりました?』
『別に……』
帽子男さん、ラーメンをすすってます。
黙って、真顔で、ラーメン食べてますよ。
って、急にその表情が険しくなりました。
『ど、どうしたんです? こわい顔して!』
『ポンちゃん、このラーメン、どう思う?』
『おいしいですよね』
『……』
『おいしくないですか?』
帽子男さんの表情、あいかわらずです。
ラーメンを食べては、いちいち動きが止まりますね。
おいしくないのかな?
『わたし、おいしいと思うんですけど……』
って、わたしのテレパシーに返事もしないで、帽子男さんすごい勢いですすり始めました。
麺とチャーシューを平らげると、スープも残さず完食しちゃいましたよ。
そして立ちあがると、イケメンさんをにらみつけてます。
イケメンさんも縮みあがりながらも、
「お、おいしくなかったですか?」
「いや、うまかったよ」
「よ、よかった~、なんだか途中からコワイ顔になったから、まずかったかな~って」
愛想笑いで言うイケメンさん。
でも、帽子男は殺気むんむんでにらみ返し。
もう、イケメンさん冷や汗ダクダクになってます。
帽子男さん、拳を固めてカウンターを「ドン」って叩くと、
「おい、テメェ、ちょっとラーメンうまいからって、いい気になってねーか?」
「そ、そんな事は……」
「明日勝負だ、お前の鼻、へし折ってやるっ!」
そんな捨て台詞を残して帽子男さんはお店を出ます。
「ちょ、ちょっとー!」
「……」
「待ってくださいよ、どうしたんですか?」
黙ってスタスタ行っちゃう帽子男さん。
でも、お店からちょっと離れた所で足を止めると頬をピクピクさせながら、
「ポンちゃん、さっきのラーメンどうだった?」
「おいしかったですよ」
「俺の作ってたラーメンとどっちがうまかった?」
「は?」
「俺の作ってたのと、どっちがうまかったかって聞いてるんだよ!」
「そ、そんな事言われても、帽子男さんがラーメン屋をやってたのって……」
「あいつのラーメン超うまい、くやしい、ブッ殺したくなった」
帽子男、暗黒オーラをゆらめかせながら銃を抜きます。
でもでも、すぐにオーラも収まって、銃もしまいますよ。
「しかし、銃で撃ち殺しても、俺は満足しねぇ」
「どうするんです?」
「やっぱりラーメン勝負で勝ってこそだよな」
「……」
「殺し」がいつの間にか「ラーメン勝負」になっちゃいましたよ。
でもでも、そっちの方がいいのかな?
で、次の日です。
「てぇめ、ちょっとラーメンうまく作れるからって天狗になってんじゃねーぞ!」
「……」
「今日は泣かせてやるからな!」
「……」
さて、ラーメン勝負です。
さっきから吠えているのは帽子男さん。
「……」はイケメンさんなの。
イケメンさん、困った顔で微笑するのがいっぱいいっぱいのようです。
で、審判はわたし・コンちゃん・花屋の娘。
殺しの依頼をした花屋の娘はムスっとした顔で、
「殺してって言ったのに、何でラーメン勝負になってるの」
不満タラタラみたいですね。
「早く始めんかの、わらわはラーメン早く食べたいのじゃ」
コンちゃんもムスっとして指でカウンターをトントンしてるの。
そんなコンちゃんの言葉に帽子男・イケメンさん調理開始。
あっという間に出来上がって、二つのどんぶりが差し出されます。
わたし・花屋の娘・コンちゃんの順番で食べます。
まずはイケメンさんのラーメン。
「ふむふむ、いつも通り美味しいですよ」
わたし、どんぶりを花屋の娘に回します。
「ふん」
まぁ、花屋の娘さんはイケメンさん嫌いなので、ケチしかつけないでしょう。
花屋の娘は一口すすって、コンちゃんに回します。
コンちゃん、ズルズルとすすってます。
あっという間に完食、口元をぬぐいながら、
「うむ、今日のラーメンはツケではないであろうの」
感想はそこですか……
さて、今度は帽子男さんのラーメン。
「見た感じは一緒ですね……でも!」
わたし、一口食べて花屋の娘へ。
花屋の娘さん、食べた途端に頭上に「!」。
最後のコンちゃんも、さっき以上にすすってるの。
コンちゃんが完食したのを見届けてから、もう判定決まってるの。
「帽子男さんのラーメンが美味しかったと思う人!」
わたしが言いながら手を挙げると、花屋の娘もコンちゃんも挙手。
帽子男さんがガッツポーズして、イケメンさんはうなだれるの。
目尻に涙を浮かべて退場するイケメンさん。
帽子男は胸を張って、
「けっ! 俺の方がうまいラーメン作れんだよ! おととい来やがれ!」
殺し屋のくせにラーメン勝負に勝って嬉しそうです。
わたし、花屋の娘さんを見たら、なんだかすごく嬉しそう。
「花屋さん、どうしたんです? 嬉しそう」
「うん、すごい嬉しい」
「いいんですか? 殺してませんよ?」
「いいのよ! いいのよ! これで!」
「?」
「お兄ちゃん、泣いてるし、ざまーみろー!」
「……」
「あー、すっきりした、帰ろう帰ろう」
こ、この妹は、本当にイケメンさんが嫌いなんですね。
なんだか落ち込んだイケメンさんが哀れに思えてきましたよ。
ちょっと慰めてきましょう。
お店の奥に……って、柱の陰にいます、イケメンさん。
チラチラこっちを見ているの、まるわかり。
「あれ……落ち込んでるかと思ったけど」
「ポンちゃん、妹の機嫌はよくなりましたか?」
「ええ、ルンルン気分で帰ったみたいですよ」
「そうですか、よかったー」
「勝負に負けてへこんでいるんじゃないんですか」
イケメンさん、ニコニコ顔で、
「用務員さんは師匠ですから、負けても当然ですよ」
「はぁ、そんなもんですか」
「別にいいんですよ……妹が喜んでくれれば」
イケメンさん、あんまりへこんでいないみたいです。
帽子男さんは勝負に勝って満足で……
花屋の娘さんはルンルン気分で満足みたいで……
イケメンさんは妹さんの機嫌がとれてよかった……
コンちゃんも無料ラーメンでOK……
わたしは「殺し」がなくてよかったかな……
なんだか「なにごともなく」ハッピーエンドみたい。
でもでも、ちょっと「殺し」も見たかったかな?
「ね、コンちゃん、吉田先生寝てますよね」
「ふむ、たしかにイビキが聞こえるのう」
「授業やる気があるんでしょうか?」
「ポン、おぬし、バカかの」
「あの髭教師がやる気ある筈ないであろう」




