第135話「駐在さんvs帽子男」
まず帽子男が、
「ゴラ、ポリ公、『所詮は殺し屋風情の腕前、相手になりません』だとっ!」
駐在さん、さめた顔で、
「『いけすかない警察の犬、勝負だ』とは身の程知らずですね」
今回の西部劇モード、闘いの行方は本編をどーぞ!
開店前に一緒しているのはシロちゃんなの。
いつもはパトロールに行くんですが……
今日はお店に残ってもらって、お手伝いしてもらうんです。
「ポンちゃん、本官は何をするでありますか?」
「うーん、パンを並べるのはわたしの仕事で、手伝ってもらうと楽だけど……」
それだったら別に一人でも出来ちゃうんです。
なんでシロちゃんに残ってもらったんでしょ?
わたしとシロちゃんがモジモジしていると、奥から足音がしてミコちゃん登場。
「あ、ミコちゃんミコちゃん!」
「はいはい、何、ポンちゃん?」
「今日、シロちゃんに残ってもらってるんだけど」
わたしがシロちゃんに目をやると、シロちゃん小さくうなずきます。
ミコちゃんニコニコして、
「シロちゃんには、これを手伝ってもらいます」
「??」
ミコちゃん、紙袋に入った「なにか」をテーブルに置きます。
中から出て来たのは……チラシですね。
「これ、チラシ、どうしたんです?」
「うん、配達人さんに頼んで作ってもらったの?」
「はぁ?」
「このチラシを『ぽんた王国』に置いてもらうの」
「ああ、なるほど、これでお客さんに来てもらうんですね」
「ピンポーン」
でもでも、チラシ、ただ印刷されただけだったの。
場所をとるから……
3つに折ってから「ぽんた王国」のレジの所に置いてもらうんだって。
わたしとシロちゃんで、もらったチラシを3つに折りながら、
「そういえば……」
わたしがレジの方を見ると、シロちゃんもチラっと目をやって、
「最近レジに『ぽんた王国』のチラシがあるであります」
「そうそう、置いてある、あんな感じなのかな?」
「きっとそうであります」
レジには3つに折った「ぽんた王国」のチラシがあるんです。
「最初はどうなんだろ~って思ったけど」
「どうしたでありますか?」
わたし、ぽんた王国のチラシを持ってきます。
開いてみると豆腐屋さん・おそば屋さん・土産物屋さんの案内。
そうそう、ニンジャ屋敷の案内もあるんです。
カラーで写真もいっぱいで、ぽんた王国の雰囲気がよくわかるの。
「なんといってもポイントはですね」
「?」
「これですよコレ!」
「ニンジャ屋敷割引クーポン?」
そうそう、ニンジャ屋敷の割引クーポンがついてるの。
家族で入場するときは小学生まで無料なんだそうです。
ニンジャ屋敷はぽんた王国の目玉アトラクションですからね。
「でも、こっちもよくないですか?」
「?」
もうひとつ「チラシ持参の方には」ってあって「ラスクをプレゼント」。
「ねぇ、おいしくない?」
「ラスクはおいしいであります……って、ラスクはパン屋が卸しているであります」
「ですね、なにかその流れでこっちのチラシも置いてもらうんじゃない?」
って、パン屋さんのチラシなんですが……
ぽんた王国のチラシと比べるとチープもチープ。
黄色い紙に印刷してあるだけ。
写真もなにもない……って思ったら絵があります。
レッド画伯の描いた絵ですね。
「パン屋のチラシは絵だけであります」
「だね……カラーじゃないし、なんだかぽんた王国とえらい差です」
シロちゃん、しげしげと絵を見ながら、
「でも、この絵はすごいでありますよ、ミコちゃんが描いたでありますか?」
「あ、シロちゃんは知らないんだ、これ、レッドだよ、写真みたいに描けるの」
「レッドの絵でありますか!」
「この間、わたしも学校で初めて知ったの、鉛筆で写真みたいに描くよ」
「レッド、すごいでありますね」
わたし、チラシを見ます。
「やっぱりダメです、レッドは下手です」
「なんででありますか、すごい上手でありますよ、写真みたいであります」
チラシにはわたしとコンちゃんが描いてあるの。
「パン屋さんでお待ちしてま~す」なんて書いてありますが……
「シロちゃん、よく見てよ」
「?」
「わたしの胸が小さいっ!」
「……」
「この間、大きく描くように言ったのに、全然聞いてないっ!」
シロちゃんの頭上に裸電球が浮かびます。
「ポンちゃんこの間、お外でお休みであったであります……あれは確か!」
「うう……お外でお休み言わないで」
「レッドに強要したでありますね、胸を大きく描くように」
「うう……だってだってー!」
「しょうがないでありますね」
シロちゃん手を止めて、チラシをしげしげ見ています。
「チラシ作戦、うまくいくかな?」
「難しいでありますね」
シロちゃんため息まじりに、
「今のパン屋は正直充分と思うであります」
「なんの事?」
「お客さんの数であります」
「??」
「観光客のバスも来るでありますし、車のお客も来るであります」
「だね」
「村に来る人の人数で客の数が決まるでありますから、きっとこのくらいで充分の筈であります」
「むむ、そっかー」
「まぁ、本官、チラシ折りの任務に努めるであります」
シロちゃん黙々と折り始めました。
わたしも一緒するとしましょう。
二人で紙のこすれる音。
そしてテレビの音がします。
コンちゃんは配達に行っていないんですが、テレビはついてるの。
そんなテレビの音を聞きながら、手を動かし続けていると……
いきなりテレビから「バン!」って音。
一瞬手を止めて見てみると、時代劇で御老公がピンチです。
また「バン!」「バン!」って銃声。
時代劇なのに……今回の悪党は南蛮渡来の御禁制・ピストルを持ってるみたい。
わたしもついつい手が止まって、画面に見入っちゃいます。
これは印籠を出してもダメですね。
むむ、どーなるんだろ。
「ポンちゃん……」
「なに、シロちゃん、今、いいとこなんだけど……」
「わかっているであります、本官も気になってるであります」
わたしとシロちゃん、固唾をのむ。
画面が暗くなって、「風ぐるま」が飛んできました。
悪党の拳銃を持った手に刺さる「風ぐるま」。
「むむ、ここぞというときは弥七ですね」
弥七登場、そして飛猿に由美かおる、ニンジャ大活躍!
「悪党もたいした事ないでありますね」
「まぁ、時代劇だしね、ヤラレ役だしね」
「銃を持っててやられるなんて、腑抜けであります」
「婦警さんが悪党を推していいのかな~」
「今はパン屋の娘であります」
御老公終わっちゃいました。
シロちゃんとわたし、黙ってチラシを折っていたんだけど、シロちゃんの手がそっと動いてテレビのリモコンを操作するの。
チャンネルが切り替わって「ドカーン」!
いきなり爆発シーンです。
今度は刑事ドラマ「西警察」。
派手なアクションが売りで、老人ホームでも人気なんですよ。
ちょっと派手すぎて……大袈裟でちょっと面白い。
今日も西警察のパトカーが犯人を追いかけて……
「ねぇねぇ、シロちゃん」
「何でありますか、ポンちゃん」
「シロちゃん、これ見て面白い?」
わたし、すごく面白いというか、大袈裟で笑っちゃうけど……
婦警のシロちゃんはどう思ってるんでしょうかね?
普通の警察官はこんな事しないと思うんですよ。
パトカー箱乗りして、拳銃撃ちまくり。
爽快……ないでしょ、こんなの。
ああ、テレビの中では悪党がやられちゃってます。
すごい銃撃なんだけど、最後は怪我くらいで逮捕されちゃうの。
「本物の警官はこんな事しないよね」
「ドラマでありますからね……ふう」
「どうしたの、ため息なんかついて」
「本官もこれくらい盛大に撃ちまくってみたいであります」
言いながら銀玉鉄砲出してきました。
一瞬わたしに狙いをつけて、
「ちょっ! 人に向けたらいけないんだからっ!」
「豆タヌキであります」
「今は人なんですー!」
「どっちにしても……」
あれれ、シロちゃん、元気ないですね、ため息ばっかり。
「シロちゃん大丈夫? どうしたの?」
「本官、撃ちたいのは本物であります……」
「……」
「駐在さんは知ってて、本官に銃を与えてくれません」
そりゃ、そーでしょ。
「帽子男も、本物を貸してくれません」
そりゃ、そーでしょ。
「撃ちたい! うちたい! ウチタイ! UCHITAI! であります」
ダメですね、この女犬はただの撃ちたがり。
もう聞く耳持ちません。
わたし、黙ってチラシを折っていたけど……
テレビの中では悪の幹部連中が悪だくみの相談してるの。
ついつい見入っちゃいました。
『ボス、我々の戦力では●●組には勝てません』
『むう……サツの連中もうるさいというのに』
そこにメガネのインテリやくざ登場です。
『我々が●●と警察を相手にするのではなく、●●と警察を戦わせるのです』
むう、インテリやくざ、言いますね。
弱者が生き残るためには、それも戦略の一つでしょう。
「でも、こーゆー作戦は案外うまくいかな……」
わたしがシロちゃんに言ってると、シロちゃん目が少女漫画みたい。
「これであります!」
「は?」
「これであります!」
「え?」
「駐在さんと帽子男を闘わせるであります!」
「はぁ!」
「駐在さんスゴ腕であります」
「ですね」
「帽子男もスゴ腕であります」
「なんたって元殺し屋ですからね」
「両雄並び立たず、両者共倒れであります!」
「……」
「早速闘わせるでありますよ」
ああ、シロちゃんルンルンしてるの、すごい伝わってくるの。
チラシの裏になにか書き始めました。
ふむふむ……果し状ですね。
「いけすかない警察の犬、勝負だ……ですか」
「これで駐在さんをおびき出すであります」
「こっちは……所詮は殺し屋風情の腕前、相手になりません……ですか」
「帽子男は激怒するであります」
シロちゃん、果たし状を持って立ち上がると、
「早速届けて来るでありますよ!」
行っちゃった……なんだか嫌な予感がするんだけど……
「で、ポンちゃん、どうなってるの?」
「わたしに言われても~」
そう、パン屋の駐車場はまさに西部劇決闘モード。
久しぶりの対戦は……駐在さんと帽子男です。
「で、ポンちゃん、どうなってるの?」
さっきからわたしに聞いているのはミコちゃん。
ニコニコ愛想笑いしてるけど、こめかみに「怒りマーク」ピクピクしてます。
「わ、わたしに聞かれても……」
「何があったの! ねっ!」
「えっと、シロちゃんがね……」
「シロちゃんが?」
わたし、シロちゃんが果し状を二人に出したのを言います。
ミコちゃんの「怒りマーク」は消えましたが、あきれ顔になってるの。
「ミコちゃん、どうしたの?」
「うん……シロちゃんが果し状を書いたのよね」
「うん、わたしの目の前で」
ミコちゃん腕組みして考える顔。
「でもって、駐在さんと帽子男さんはここで決闘してるのよね」
「まだ『見合って』る状態ですけど」
わたしとミコちゃん、駐車場の二人に目を向けます。
まず帽子男が、
「ゴラ、ポリ公、『所詮は殺し屋風情の腕前、相手になりません』だとっ!」
駐在さん、さめた顔で、
「『いけすかない警察の犬、勝負だ』とは身の程知らずですね」
二人の目が鋭く光りました。
同時に構える二人。
「「パンッ!」」
銃声も同時でした。
そして静寂。
崩れ落ちる二人。
「あわわ、二人とも死んじゃった!」
わたしがびっくりして言うと、ミコちゃんもトレイを抱きしめて、
「私もびっくり……本当に死んじゃうなんて!」
あんまりびっくりで、どうしていいかわかりません。
駐車場に倒れている二人。
小鳥の鳴き声が聞こえて、すごいのどかだったりするの。
でも、二人は倒れていて動きません。
「えっと……ミコちゃん、なにかしないといけないと思うんだけど」
「わ、私もびっくりして固まっちゃった」
「ど、どうしよう、ミコちゃん」
「ど、どうしたらいいかしら、ポンちゃん」
って、問答してると新たな人影が登場、シロちゃんです。
二人が倒れているのを見て、少女漫画のキラキラ瞳になってるの。
「ああ、警察官と殺し屋が死んでいるであります!」
すっごい嬉しそう。
シロちゃん、一瞬銃に手が伸びそうになりますが……
まずは二人の手首を触って、
「ミコちゃん、あれ、なにやってるんでしょ?」
「脈をとってるんじゃないかしら」
「脈?」
「死ぬと心臓止まっちゃうでしょ」
「あー!」
シロちゃんの顔、真顔なんだけど、ちょっと崩れて頬がピクピク。
笑いを堪えていますね、あれは。
シロちゃん、倒れている二人を仰向けにして、
「さすが二人、心臓を一撃であります!」
ルンルン顔で言うシロちゃん。
って、ミコちゃんわたしの肩をつついて、
「ねぇ、ポンちゃん、シロちゃんは何がしたいのかしら?」
「二人を決闘させて、共倒れさせる作戦」
ミコちゃんしかめ顔をわたしに向けて、
「共倒れさせて、何がしたいの?」
「二人の持ってる拳銃ゲットじゃないの」
「あのバカ犬~」
シロちゃん、拳銃ゲット出来ても、後でミコちゃんの術の餌食確定です。
ニコニコ顔で拳銃を拾いに行くシロちゃん。
「!!」
わたしとミコちゃんびっくり!
駐在さんと帽子男、胸を血に染めて立ち上がったの。
二人同時にシロちゃんの頭に「本気チョップ」!
「ゴン」なんて音がして、シロちゃん☆3つのダメージです。
ああ、シロちゃんの頭上でひよこがダンス。
「ななな!」
びっくりするシロちゃん。
駐在さん、への字口で、
「まったくシロは……」
帽子男、腕組みして、
「どうしようもない撃ちたがりだなぁ~」
シロちゃん、頭を押さえて涙目なの。
でも、その目が「キラン」と輝きました!
落ちている銃を拾います。
「これさえあれば、こっちのものであります!」
「チャッ」って両手撃ちの構え。
漫画みたいでかっこいい!
でも、駐在さんも帽子男も「トホホ顔」ですよ。
シロちゃんの指が引き金を引きます。
あれれ、銃声、しませんね。
どうしたのかな?
駐在さん、果し状をシロちゃんに見せながら、
「この文面で引っ掛るわけがないでしょう」
帽子男は果し状の裏を見せながら、
「チラシの裏に果し状書くかなぁ、バレバレ」
シロちゃんの手から銃が落ちます。
わたしとミコちゃんもあきれてため息。
夜、月がとってもきれい。
わたしとシロちゃん、ダンボールの刑。
お外でお休みナウですよ。
「シロちゃんのバカ」
「うまくいくと思ったでありますよ……二人の脈はなかったであります」
「あ、それ、気になった、どーしてですか?」
「二人ともプロフェッショナル、一瞬脈を止めるなんてお茶の子らしいであります」
「そうなんだ……駐在さんはなんで脈を止める必要なんてあるんです? 警察でそんな必要あるんですか?」
「射撃の時の手ぶれ防止であります」
「そ、そうなんだ……」
「奥が深いでありますよ」
そんなの解っても、お外でお休みのがっかり感は減りません。
「もう、シロちゃんのとばっちりなんだから」
わたしが「お外でお休み」なのはシロちゃんを止めなかったから。
でもでも、シロちゃん果し状書いてダッシュだったもん。
止めようがないんですよええ。
シロちゃん、体育座りで小さくなってます。
むむ、小さくなってる……反省してるみたい。
「ポンちゃん……」
「なに、シロちゃん?」
「今度は駐在さんと帽子男を、保健医と闘わせようと思うでありますが、どうでありましょう?」
この女犬は全然反省していません。
チョップですチョップ!
「ポン吉、なにか言う事、ない?」
「毒キノコだらけだぜー、食えないから、もらってやるぜー」
このウソつきが!
「ほらほらー、ニュースで見たぜ、マジックマッシュルーム!」
ま、まじっくまっしゅるーむ! ポン村もいよいよ薬物汚染?




