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第134話「レッド画伯」

「この絵には心がないです、ハートが」

「いっしょうけんめいかきましたけど?」

「消しゴムと鉛筆……わたしが指導します」

「おお、ポン姉が! どこをどーしますゆえ?」

 所詮レッドはお子さまなんです、本当の絵心を伝授するんですよっ!


「ポンちゃんや、こっちにもお茶を頼むよ~」

「はーい、ちょっとお待ちを」

 わたし、朝の配達、老人ホームだったんです。

 朝の食事の後、おじいちゃん達は甘い物を食べながらまったりしてるんですよ。

 そんなおじいちゃんおばあちゃんにお茶を出す……のは職員さんのお仕事。

 わたしやコンちゃんも、配達に行ったらそれを手伝うの。

「はい、お待ちどうさま~」

 わたし、みんなに湯呑を置いて回るの。

 この時、立ち止まっちゃだめです。

「ポンちゃんや」

「はいはい、なんですか?」

 おばあちゃんに声をかけられます。

「いつもありがとうねぇ」

 手を握って……なにかくれました。

 見ればアメです、アメちゃん。

「ありがとうございます」

「こちらこそ、いつもありがとうねぇ」

 ふふ、こうやって感謝されるのって、なんだかうれしい……

 うれし……

 うれ……

 う……

 おばあちゃん、わたしのもう一方の手を握って放しません。

 ニコニコ笑顔のおばあちゃん。

 でも、その笑顔、作り笑顔ですよね。

 なんで手を放してくれないんですか!

 そう、しっぽに感触が!

 振り向けば、たくさんのおじいちゃんおばあちゃんがわたしのしっぽをモフモフしまくり。

「ポンちゃんのしっぽはいいのう~」

「そうじゃねぇ~」

「絶品じゃの~」

「生き返るのう~」

 みんなニコニコで楽しそう。

 わたし、怒りま~す。

 まずは正面のおばあちゃんですね。

「アメでわたしをつりましたね?」

「ポンちゃん、こわいわね~」

 わたし、おばあちゃんをチョップです。

 でもおばあちゃん笑顔えがお……そりゃ本気でチョップできませんよ。

 振り向いてみなさんにもチョップです。

 ふん、わたしのチョップ食らって……みんな笑顔えがお。

「席に着いてくださーいっ!」

「はーい!」

 おじいちゃん・おばあちゃん達、笑いながら席に戻るの。

 まったくもってモウ!

 でも……

 まだ一人、おばあちゃんがモフモフしてますよ。

「おばあちゃん、せ・き・に・つ・い・てっ!」

「もう着いてるがね」

「はぁ?」

 って、見れば車椅子さんです。

「ほれ」

「く、車椅子とは……」

 わたし、車椅子の後ろに回り込んで、とっとと押して行っちゃうの。

「おばあちゃん達がしっぽを触るから、レッドがモフモフやめてくれないんですよ~」

「そうかねぇ」

「そうなんですー!」

「いいじゃないかね、すごい触り心地じゃがね」

「いいですか、人の嫌がる事はしないって学校では教えてるんですよ」

「知ってるがね」

「じゃ、なんでしっぽモフモフするんですか?」

 わたし、車椅子のブレーキをかけます。

 車椅子のおばあちゃん、わたしの顔の近くでニコニコ。

 テーブルのみなさんもわたしをじっと見てますね。

「喜んでるがね」

「そうじゃそうじゃ、ポンちゃんは喜んでおる」

「私も喜んでるように思うがねぇ」

「絶対喜んでおる」

 って、職員さんもやってきて、

「ポンちゃんタヌキだから、人じゃないし」

「そうじゃ、そうじゃー!」

 パチパチ、拍手はくしゅ!

 職員さん~覚えてろ~!


「もう疲れました」

 で、老人ホームのお手伝いが終わって学校です。

 わたしの愚痴の聞き手は千代ちゃんなの。

「老人ホームで楽しそう~」

「千代ちゃん、聞いてました? モフモフされるんですよ」

「ポンちゃんあきらめたら?」

「はぁ? 嫌なものは嫌なんですー!」

「なんですー!」

 あ、千代ちゃん、わたしのマネしてます。チョップですチョップ。

「千代ちゃん、ちゃかさないでください!」

「ポンちゃんお姉さんなんだから、ちょっとは我慢……」

「しっぽは嫌なんです、ヤなんですー!」

「でも……ねぇねぇ」

「??」

「ほら、ちょっと見て見て!」

 今は休み時間なんですが……千代ちゃん指差すの。

 黒板の前でみどりが他の女の子となにか話しているみたい。

 あ、一人の女子がみどりのしっぽをモフモフしてます。

「みどりちゃんは別になんともないみたいだけど」

「みたい……ですね」

 千代ちゃん、わたしの隣で黙々と絵を描いているレッドに近寄るの。

 そして千代ちゃん、レッドのしっぽを触るんです。

 千代ちゃん、レッドのしっぽに指をからめながら、

「レッドちゃんも関係ないみたいだけど」

「みたい……ですね」

 千代ちゃん、わたしをガン見して、

「ポンちゃん、気にしすぎなんじゃない?」

「千代ちゃんはしっぽないからわからないんですー!」

「ですー!」

 またマネしてますね、チョップですチョップ!

「でも……」

 ふむ、千代ちゃんの言うのも……どうなんだろ。

 わたし、自分のしっぽを自分でモフモフ。

「どうしたの、ポンちゃん?」

「うん、自分でモフモフしてもなんともないし……」

 千代ちゃん、わたしの隣に来て、一緒になってモフモフ。

「うーん、確かに今はなんともないかな?」

「でしょ、気にしすぎなんじゃ?」

 千代ちゃんモフモフします。

 でも……真顔だった千代ちゃんの顔が悪くなったの。

「ポンちゃんのしっぽ、超楽しい~」

「千代ちゃん、悪意感じます、怒りますよ!」

「だって超楽しいもん!」

「チョップですチョップ!」

 わたし、しっぽを奪い返して、

「悪意があると、それを感じられるみたい!」

 千代ちゃん、びっくりした顔。

 でも、すぐに真顔になって、

「レッドちゃん悪意あるのかな?」

「……」

 レッド、わたし達を無視して絵を描いてます。

 むー、思い出してみるけど……

「レッドに悪意ってあるんでしょうか?」

「なんでも『すきすき~』だし」

「いやいや、たまに悪意あります」

「そうなの?」

「レッド、コンちゃんと一緒のキツネですから、ズルいんです」

「えー、そうかなー」

「……」

「ポンちゃんの方が悪そう~」

 チョップですチョップ、本当に千代ちゃんはモウ。

 わたし、レッドのしっぽを触りながら、

「だって学芸会なんかで『どら焼き』連呼するし」

「そう言われると……そうかも」

 千代ちゃんもわかってくれました。

 って、わたし達がレッドを見てると、その手が止まりました。

「かんせー!」

 レッド、描いた絵をわたしに見せてくれます。

「はい、ポン姉かいた」

「おお、わたしですか」

 クレヨンで描いたわたし。

「むー、画伯がはく」

「なにですかな?」

「これはみどり?」

「ポン姉ゆえ」

「これはポン太?」

「ポン姉ゆえ」

 むー、タヌキって判るのはしっぽだけですよ。

 千代ちゃんがニコニコしながら、

「ポンちゃんポンちゃん、メガネしてないでタヌキしっぽ」

「ああ!」

 わたし、レッドに見せながら、

「ねぇ、レッド、これ、ポン吉にも見えますよ」

「!!」

 レッド、じっと自分で描いた絵を見ています。

 と、教室の引き戸がガラガラ鳴って、

「おらー、授業始めるぞー」

 吉田先生登場です。

 教壇に行くと思いきや、レッドが手招きしているのにやってきます。

 さっき描いた絵を見せながら、

「せんせー、これ、ポン姉にみえる? ぽんきちにみえる?」

「ポン姉だろ、よく描けてるじゃねーか」

 わたし、吉田先生をチョップ。

「何すんだよ」

「これのどこがわたしなんですか」

「よく描けてるじゃねーか」

「ポン吉とわたしと区別なしですか」

「いや、これ、お前だろ、ポンちゃんだろ」

「えー!」

 わたしが不満そうにしていると、吉田先生腕組みして、

「なぁ、レッド画伯よ」

「なになにー!」

「写真みたいに描いてみるか?」

「おお、しゃしんみたいにかきまするか?」

「おうよ、出来るだろ」

「らじゃー!」

「ほら、鉛筆だけで描く、できるな」

「おまかせゆえ」

 レッド、スケッチブックと鉛筆を手に、

「ポン姉、ちょっとまつゆえ」

「むう……ちゃんと描けるんでしょうね?」

「レッドがはくゆえ、おまかせゆえ」

 レッド、描き始めました。

 わたしはモデルだから待ってないといけないみたい。

 ポーズとかしないでいいみたいだから、ぼんやり座ってましょ。

「よかったね、ポンちゃん」

「千代ちゃん、なにが?」

「レッドちゃん、絵、上手だよ」

「さっきのへたくそでしたよ~」

「あれはあれで子供はあんな絵だよ」

「そうですけど……って、本気出したらすごいんですか?」

「まぁ、私も一度描いてもらった事あるよ、家に持ってかえっちゃった」

「そうなんだ、見たかった」

 真面目に描いているレッド。

 わたし、頭上に裸電球点灯です。

 真面目に描いているレッドのしっぽを触りまくり。

「どうだー、参ったかー」

 って、どんなに触っても嫌がりません。

「ねぇねぇ、レッド画伯、しっぽなんともないのー!」

 つまりません、レッドしっぽ触っても無反応。

 真剣な顔で鉛筆を動かしてるの。

 なんだかわたし、バカみたい。


 はっ!

 いつの間にか寝ちゃってました。

 目覚めると……まだレッド、頑張ってますね。

 でも、わたしに気付いて、

「かんせいゆえ!」

「おお、どれどれ、見せてみせて~」

 レッドの差し出すスケッチブックを受け取るの。

「!!」

 わたしのバック、暗転。

 光る稲妻。

 衝撃の出来栄えです。

 レッドの鉛筆絵、本当に写真みたい。

「な、なんですかこのクオリティ!」

「レッドがはくとよんでくだされ」

「た、確かにたいしたもんです」

 吉田先生や千代ちゃんも覗きに来ました。

 千代ちゃん目を輝かせて、

「レッドちゃんすごーい!」

「えっへん、がはくゆえ」

 吉田先生も腕組みして、

「画伯、やりゃ出来るじゃねーか、2~3万で売れるぞ」

「おっほん、はがくゆえ」

 わたしはちょっとこっぱずかしい。

 だって寝ているわたしの絵なんだもん。

「うつらうつら」している時の横顔のわたし。

 確かにすごい画力です、まるで写真みたい。

 うーん、ケチのつけようがないんですが……

「ねぇねぇ、レッド」

「なになにー!」

「この絵はダメですね」

「えー! なにゆえー!」

「ダメなものはダメなんです」

「なにゆえ? どこゆえ?」

「よーく見てください」

「?」

 レッドだけじゃなくて、吉田先生も千代ちゃんもスケッチブックを覗きこむの。

「なにゆえ? どこゆえ? いつゆえ?」

「ねぇねぇ、ポンちゃん、私、すごくよく出来てると思うけど」

「俺もなかなかと思うんだがな」

「みんなは絵がなんたるか、わかってません」

「!!」

 これには教室のみんなも注目してきました。

 わたし、スケッチブックを取り上げて、

「絵画とはなんでしょー!」

 みんな、ポカンとしてます。

「絵画とはハートなんですよ、ハート」

「!!」

「この絵が見た目にはすごいです、子供のレッドが超スゴです、でも!」

「でも!」

「この絵にはハートが、心がないんです!」

 みんな首を傾げちゃうの。

「絵画とは、見た人に感動を与えるものなんです、つまりはこの絵には感動がないんです」

 千代ちゃん、ポカン顔で、

「私、すごいと思うけど」

「千代ちゃんの目はふし穴です、ふし穴」

「ふ……ふし穴……」

「レッド画伯っ!」

「は~い」

「この絵には心がないです、ハートが」

「いっしょうけんめいかきましたけど?」

「消しゴムと鉛筆……わたしが指導します」

「おお、ポン姉が! どこをどーしますゆえ?」

 ふふ、簡単です。

 まず、修正個所を消しゴムで消しけし。

「描きなおし」

「は?」

「描きなおし」

「ここをかきなおすゆえゆえ?」

 ゆえ、2回言ってますよレッド画伯。

「ふむふむ、では、コチョコチョ」

 鉛筆でサクサク描いちゃうレッド。

 でも……チョップです。

「なにゆえー! なぜゆえー!」

「わかってませんね、レッド画伯!」

「なにゆえ?」

「胸、ちっちゃいでしょ、胸、大きく描く」

 ああ、なんだか教室に北風が吹く音が聞こえます。

 吉田先生が、

「おいおい、ポンちゃんあんまりじゃねーか」

 千代ちゃんも、

「ポンちゃんかわいそうだよ」

「黙らっしゃい!」

 わたし、レッドの頭をナデナデしながら……力いっぱいでね。

「ほら、レッド画伯、直す、胸なんて見慣れてるでしょー!」

「……」

「ミコちゃんやコンちゃんの胸をコピペすればいいんですよ」

「……」

 レッド、わたしをジッと見て……瞳に涙がたまるの。

「ウソはだめゆえ~」

「……」

「うわーん」

 わたしの両脇を吉田先生と千代ちゃんが固めるの。

「ポンちゃんが泣かせた、ひどーい」

「お姉さんのする事かよ、まったく」

 吉田先生、携帯を手に電話。

「あ、ミコちゃん? ポンちゃんがレッド泣かせてるぜ」

 途端に宙が光って……ミコちゃん降臨!

 片手に電話の子機。

 片手に包丁。

 ミコちゃんの目が……炎なの!

 でも、いつもみたいに優しい笑みで、

「今夜はタヌキ汁かしら?」


 ダンボールの刑でした。

 ミコちゃんこわい。


『ボス、我々の戦力では●●組には勝てません』

『むう……サツの連中もうるさいというのに』

 そこにメガネのインテリやくざ登場です。

『我々が●●と警察を相手にするのではなく、●●と警察を戦わせるのです』

 おお、次回はどうなっちゃうんでしょうね? ね!


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