第132話「プリン!プリン!」
「外国のお菓子とか……ここで作れないのよ」
「え? だって検索で『パッ』と作り方、出るんですよね」
「材料どうするの?」
「あー!」
うーん、ミコちゃんお手製の外国のお菓子、食べてみたいかな?
ふう、観光バス、行っちゃいました。
パン屋さんはガランとしちゃいますよ。
わたし、トレイやトングを片づけながらコンちゃんに、
「嵐のようでしたね」
「観光バス、おそろしや」
「でも、観光バスが来ないとパン屋さんつぶれちゃいますよね」
「確かにのう~」
コンちゃん、うんざり顔で定位置のテーブルでぐったり。
手伝ってくれないのは残念だけど、コンちゃんいつもの事だから、しょうがないか。
って、奥から足音が聞こえてきます。
柱の陰からミコちゃんがチラっと顔を出すの。
「もうお客さんはいないのかしら?」
「うん、観光バスが行っちゃったらすっからかん」
「あらあら……でも、パンはすごく出たみたいね」
「うん、今日はもう店終いかも」
「でも、まだちょっとあるから、お店は開けてないとね」
「コーヒーとクッキーくらいですけどね」
ミコちゃんニコニコ顔で、
「じゃあ、私達もおやつにしましょうか」
「3時のお茶……ちょうどいいかも」
って、コンちゃんつっぷしてるのに耳がキツネです。
「おやつの時間かの?」
ああ、つっぷしたままなのに、キツネ耳がピクピクしてるの。
おやつ、すごい楽しみみたい。
ミコちゃん引っ込んで、すぐに戻って来ました。
「今日はプリンでーす」
「やったー!」
プリンなんてひさしぶり!
最近食べてないんで、わたし、好物っての忘れそう。
ああ、コーヒーカップに入ったプリン登場。
一瞬ミコちゃん製かと思ったけど、表面の艶を見たらわかるんです、これは「素」で作ったヤツなんです、スーパーで売ってる3個セットのと同じ味なんです。
スプーンでひとすくい。
口の中でとろける甘さ。
「う……ううっ!」
「ちょ、ちょっとポンちゃん、大丈夫!」
「うむ、ポン、泣いておるのじゃ」
「ミコちゃんもコンちゃんも……わたし、プリンひさしぶりな気がする」
「大袈裟ね」
「ミコちゃん、わたし、最近プリン全然食べてないんだよ」
って、ミコちゃん視線が天井を泳いでいます。
視線、わたしに戻って来ました。
「だ、だってレッドちゃんが友達連れてくるし……」
「いつもの事だから、よけいに作ってほしい~」
「そ、そんな……」
って、ミコちゃんの表情がちょっと険しいの。
「ポンちゃん老人ホームの配達で食べてないの?」
「あ、たまにミコちゃん、老人ホームでごちそうになってって言うよね」
「うん、おやつの時間に配達に行ったら出してもらえない?」
「ミコちゃんいつもそう言うけど……」
「?」
「わたし達、配達で行ってるんだよ」
「そうね、それが?」
「老人ホームじゃ、職員さんのお手伝いなんだよ」
「そ、そうね……」
「おじいちゃん達と一緒におやつってわけじゃないんです」
「そ、そうなんだ……レッドちゃんなんか一緒に食べてるからつい」
「レッドはお子さまだから~」
まぁ、気を取り直してプリン食べましょ。
ふふ、甘々で黄色でプルプルなプリン。
口の中でとろけるの、最高です、ああ、喉を通り過ぎるの感じます。
「これ、ポン」
「なに、コンちゃん」
「おぬし、いいかげんにせぬか」
「なにを?」
わたし、しみじみ味わってるだけです。
「私も……やっぱり大袈裟じゃない?」
「ミコちゃんまでなにを」
「プリン食べる度に泣くの、大袈裟よ」
「だって、本当に涙が出て来ちゃうんです」
ふたり、心配そうな顔でわたしの顔を覗き込んでるの。
コンちゃんがハンカチでわたしの顔を拭いながら、
「ポンは幸せじゃの、プリンくらいで」
「だって好きなんだもん!」
ミコちゃん、あきれた顔で微笑しながら、
「そこまで喜んでもらえるとね」
でも、ミコちゃん、また難しい顔になって、
「でも……ちょっと……相談なんだけど……」
「?」
ミコちゃんが相談なんてめずらしい。
なんでも出来るミコちゃん、相談ってなんなんでしょうね。
「ポンちゃんはよろこんでくれるけど……」
「??」
ミコちゃんシリアスな顔で語ります。
「レッドちゃん、たまにつまらなさそうな顔をするのよ」
「なんの話ですか?」
「おやつの話よ」
「おやつの話……ですよね」
「そうよ」
「レッドがつまらなさそうな顔をする……おやつの時に?」
わたしが言うと、ミコちゃんコクコクうなずくの。
わたしとコンちゃん、頭に「?」浮かべちゃいます。
「ねぇねぇ、コンちゃん、どう思う?」
「わらわもおかしいと思ったのじゃ」
「でしょ」
「レッドはいつも、おいしそうに食べておるのじゃ」
「でしょ、でしょ」
わたしとコンちゃんは同じ意見みたい。
ミコちゃんため息つきながら、
「ポンちゃん達は見てないのよ」
「?」
「レッドちゃん、食べる前にちらっと笑顔が消えるのよ」
「そ、そうなんだ」
ミコちゃんよく見てるなぁ~
わたし、全然気づきませんでした。
うーん、よく思い出してみます。
むむむ……やっぱりわかりません。
「ねぇねぇ、コンちゃん、そんなの気付きました?」
「むむむ……わらわも全然気付かなかったのじゃ」
「ねぇ、ミコちゃん、それって本当?」
「うん……残り物のパンがおやつの時あるじゃない」
「ええ、ありますね、しょうがないですよ」
「三日くらい続くと、一瞬そんな顔するのよ」
「あのレッドが……」
「それに……」
「それに?」
「正直言うと、私、もうおやつのレパートリーがっ!」
ミコちゃんはもうおやつが思い浮かばないみたいですね。
それで思い悩んでいるんでしょう。
「ミコちゃんは新しいおやつを出せば、レッドが喜ぶって思うんですね?」
「そう、ポンちゃんわかってるじゃない」
わたし、コンちゃんに目をやるの。
コンちゃんもそんなわたしに気付いたのか、ちょっと考える顔。
ミコちゃんは相変わらず眉間にしわを寄せて、
「こう、おやつのレパートリー、増やしたいのよね」
わたしも考え込んじゃって眉間のしわ、移っちゃう。
「ミコちゃん、レパートリーもうないんですか?」
「うーん、どうかしら……」
「ほらほら、ミコちゃん、この間の老人ホームで」
「?」
「爆発する……ポン菓子って知ってます?」
「知ってるわ……でもあれは家じゃできないわ」
「知ってたんだ……わたし、知らないかと思ったのに」
コンちゃん、渋い顔でミコちゃんを見ながら、
「ミコは見た目は若くともご長寿だからの……それもハンパないのじゃ」
「でした、ミコちゃんは卑弥呼ですもんね……それってなに時代?」
「時代劇よりずっと昔じゃ、マンモスのおった頃に近いのじゃ」
「そうなんだ」
コンちゃん、ミコちゃんをじっと見ながら、
「ミコ……おぬしの長生きをもってしてもレパートリーが枯れるかの」
「コンちゃん……しょうがないじゃない……アイデア尽きちゃうの」
って、わたしの頭上に裸電球点灯なの。
「ミコちゃんミコちゃん、学校に行きましょう!」
「?」
「時代はインターネットなんです、インターネット!」
「インターネットがどうしたの?」
「学校のパソコンで検索したらどうでしょ」
「ああ……はいはい」
「すごくいっぱい出てくると思うんですよ」
「そうね……うん……でも……」
「でも……どうしたんです?」
「それはやってみたのよ……私も学校に配達に行くし、村長さんにも相談したの」
「なんだ、やった事あったんだ」
「でも……ね」
「?」
「外国のお菓子とか……ここで作れないのよ」
「え? だって検索で『パッ』と作り方、出るんですよね」
「材料どうするの?」
「あー!」
わたしがうなずいていると、コンちゃんがうなだれて、
「そうか、そうじゃったの、材料がないのじゃ」
「ど、どうしてコンちゃんがっくりしてるんですか?」
「だって、わらわ、外国のお菓子とか食べてみたかったのじゃ」
「コンちゃんの欲望なんですね」
「ポン、おぬし、外国のお菓子、食べてみたくないかの」
「むう……」
外国のお菓子、食べてみたいかも。
でもでもよく考えたら……
「わたし、外国のお菓子、よく知らないから、どうでもいいかな」
「ポンはしょうがないのう」
コンちゃんため息まじりにミコちゃんを見て、
「ここに最高の料理人がおっても、材料がなくてはのう」
まぁ、わたし、おやつに不満ないから、この話題どうでもよくなってきました。
プリンをニコニコ顔で食べているとコンちゃんが、
『これ、ポン!』
『うわ、なに、コンちゃんテレパシーで!』
『おぬし、どうでもいいといった顔になっておるぞ』
『まぁ、どうでもいいかな』
『バカ者ーっ!』
『テレパシーでもうるさいよ、コンちゃん』
『ポン、おぬし、ミコをよく見るのじゃ!』
『?』
言われてミコちゃん見てみます。
むむ、すごい考えてます、悩んでるんですね。
『ポン、おぬし、何とも思わぬのか』
『むー、でも、ミコちゃんが悩んでもどうしようもないのに、料理全然のわたしが考えてもなにも出てきませんよ』
『ポンは一番先輩と思っておったのに、心の冷たい先輩なのじゃ』
『だって、しょがないモン、わたし役立たず』
『いいのかの、わらわ、知らん…いや……困る』
『なにが困るんですか? コンちゃんも料理ぜんぜんだよね』
『ポン、おぬし、ミコが悩むとどうなるかの!』
『?』
『あの不機嫌顔で料理したらどうなると思うかの!』
『!』
『わらわ、きっとまずい料理になると思うがの』
『!!』
言われるとそんな気が!
あんなに悩んで料理……きっといつもの味じゃなくなるんです。
ミコちゃんの悩みを解決って……わたしも料理全然なのに!
『これ、ポン、おぬし、タヌキの頃にもなにかなかったかの?』
『むー、千代ちゃんにゴハンもらってました……甘いものもあったかな』
『よく思い出してみるのじゃ』
と、言われても……
人間になった今、千代ちゃんに貰っていたの……チョコとかマシュマロとか。
『ダメです、普通にお菓子だったから!』
『どうするのじゃ、今夜のゴハンがダメになってしまうぞ!』
ミコちゃんのシリアス顔がみんなに移っちゃいました。
わたしとコンちゃんも、ミコちゃんを見て不安でいっぱいなの。
そんな空気の時、駐車場に一台の車がやってきました。
中から「のほほん」とした顔で配達人登場。
カウベルがカラカラ鳴って、
「ちわー、綱取興業っす」
今夜のゴハンがピンチというのに、この男はなんで「のほほん顔」なんでしょ。
でも……
ちらっとコンちゃんを見ると、コンちゃんもわたしと同じ気持ちみたい。
ミコちゃんを見れば、まだウンウン固まってます、悩みすぎ。
わたしとコンちゃん合図もなしに同時立ち。
配達人の両脇を抱えてお店の外に出ます。
「うわっ! なんでっ!」
「配達人さん、ちょっとお話があります!」
「そうじゃ、話があるのじゃ!」
「人生相談?」
「そんなんじゃないよ」
「だって二人ともすごい真剣」
「そりゃ、夕飯がかかってますからね」
「そうなのじゃ!」
配達人、それを聞いてお店の中のミコちゃんに目をやります。
「二人とも、何か悪さしたの?」
「違いますよ!」
「じゃあ、何?」
「ミコちゃん、おやつのレパートリーに悩んでるんですよ」
「はぁ、おやつのレパートリー?」
「もう尽きた……みたいで……」
「ふーん、そうなんだ、適当にローテしてもいいと思うんだけど」
「ミコちゃんはレッド好きーだから、レッドがちょっとでも機嫌悪いとへこむんだよ」
「レッドの機嫌が悪いなんてあるの?」
「よくわからないけど、みたいだよ」
「気のせいじゃないかな~」
配達人、ニコニコ顔で、
「でも、まぁ、ここでポイント稼ぎでもするかな?」
配達人、すぐに出て行っちゃいます。
わたし、コンちゃん、一緒になってうなずいて、配達人の後を追います。
配達人は車で何か探し物……すぐに顔を上げます。
ダンボールを抱えてやって来ました。
「なにかあるんですか?」
「そうじゃ、何かあるのかの?」
「ふふふ……これでミコちゃんの機嫌をゲット!」
配達人、わたし達に箱をくれます。
「こ、これは!」
わたしの手に「抹茶プリン」。
コンちゃんには「マンゴープリン」です。
「ポンちゃんコンちゃん、これ、ミコちゃんに見せたら喜ぶよ」
「そ、そうですね!」
「そうじゃの!」
でも、わたし、足が止まっちゃうの。
すぐに配達人に疑いの目を向けるんです。
「なんでミコちゃんに直接渡さないんですか?」
「ふふ、俺の分もちゃんとあるもんね」
ダンボールの中にはほかにもプリンがあるみたい。
配達人がニコニコ顔で取り出したのは「黒ごまプリン」。
「うわ、いっぱいあるんですね」
「うん……で、ここでポンちゃん・コンちゃんに貸しを作っとくのもいいかな~ってね」
「こ、こわい……配達人こわい」
「ふふ、貸し1だかんね、ふふふ」
むむむ、この「抹茶プリン」を喜んでもらっていいのやら。
でも、コンちゃんからすぐにテレパシー。
『ポン、早く行くのじゃ』
『でも、配達人、なんか悪い顔してますよ』
『いいのじゃ、「貸し1」かまわんのじゃ』
『も、もしかしたらわたし達にエッチな要求してくるかも!』
『わらわにエッチはあってもポンにはないのじゃ』
『今、わたしの拳、硬くなってまーす』
『ポンはすぐ叩くでのう……いいかの、ポン、。配達人が変な要求してきたらじゃ』
『してきたら?』
『踏み倒せばよかろう』
「……」
わたし、コンちゃんをじっと見ます。
「ですね、考えるまでもなかったです」
わたし達がプリンのパッケージを見せると、ミコちゃん途端に笑顔えがお。
「きゃーん、これでレッドちゃん、喜ぶわ!」
すぐに抹茶プリンの素を持って奥に引っ込んじゃいました。
レッドもですが……
「わたしも抹茶プリン食べてみた~い」
「うむ、わらわも食べてみたいかの」
配達人、いろんなプリンの素の入ったダンボールをテーブルに置きながら、
「でも、このプリンの素って全部4個なんだよね」
「え?」
「業務用ってないから、1つの素で4つなんだよ」
「4つ……」
わたし、すぐにレッドとみどりを思い浮かべるの。
うーん、おまけにポン吉がすぐに……
あと、いつもグダグダしているコンちゃんで4人?
「わたし、抹茶プリン食べれる日、ずっと先のような気がしてきた」
「わたし、コンちゃんの巫女姿なんて見てない、コンちゃんもコスプレしてないよね?」
「コスプレ」辺りでお父さんとコンちゃん嫌な顔します。
「わらわ、神楽の時にちょっと巫女服着たのじゃ」
「そんな事、ありましたね」
「でも、あの時はこんなノーマルタイプの巫女服ではなかったのじゃ」




