第143話「ポン吉の家出」
わたし、コンちゃんの腕をしっかと捕まえるの。
「だからコンちゃんを連れて来たんですっ!」
「は?」
「早くゴット・サーチで探すんですよ!」
「えー」
今日はコンちゃんと一緒にお豆腐を貰いに来ます。
「なぜわらわも一緒なのじゃ」
「たまには行くんですよ」
「面倒なのじゃ」
「いつもわたしの仕事なんですよ」
「今日もポンだけで行けばよいのじゃ」
「ムカつくからコンちゃんも一緒なんです」
「ふん、器の小さい先輩なのじゃ」
まぁ、本当にいつもわたしばっかりだからコンちゃんも誘ったんですけどね。
うーん、ポン太がいつも「コン姉は?」って言ってさみしそうなのもあります。
「コンちゃん、ポン太がコンちゃんを好きなのは知ってるんだよね」
「知っておる」
「じゃあ、なんで会ってあげないんですか」
「わらわはなんとも思っておらん」
「ちょっとはサービス精神ってないんですか?」
「わらわは神ゆえ、サービスされる側なのじゃ、お供え物をされる側なのじゃ」
「……」
「豆腐も配達させればよいのじゃ」
このグータラ女キツネは……
って、わたしの上に裸電球点灯するの。
「コンちゃんコンちゃん、揚げたての油揚げゲットできますよ」
「!」
「行くの、楽しみになりました?」
って、コンちゃんの目が少女漫画みたいになってるの。
気持ちがすぐにわかっちゃう……かわいいもんです。
コンちゃんわたしの目に気付いたのか、プイッってそっぽを向いて、
「ふ、ふんっ! しょうがないので行っているだけなのじゃ!」
「……」
「揚げたてお揚げにつられてなどおらぬのじゃ!」
「はいはい、早く行きますよ~」
「揚げたてはサクサクで格別なのじゃ~」
ああ、コンちゃんスキップです。
しっぽ振りまくり。
うわ、獣耳になっちゃってます。
どんだけテンション上がってるんでしょ。
むー、帰りにお鍋を持つの、任せられませんね~
そんな事しているうちにお豆腐屋さん見えてきましたよ。
「アニキのバカーっ!」
「ポン吉がもうちょっとしっかり……」
「出てくかんなーっ!」
って、ポン吉がお店から飛び出して行っちゃいました。
静かになったお豆腐屋さん、なんだかちょっと入りつらいかな?
って、コンちゃんはさらに目をランランとして、
「何があったのかの? 何かの? どうしたのかの?」
「コンちゃん、本当にワイドショー好きだね」
「ポン吉が出て行ったのじゃ、ケンカな雰囲気だったのじゃ」
「ですね、どうしたんでしょ?」
ちょっと心配になってきました。
さっきポン太の声もしてたから、お店にはいるんでしょうね。
あ、ポン太、のれんを押して顔を出します。
「ねぇねぇ、ポン太、どうかしたの?」
「あ、ポン姉、コン姉……」
「ポン吉飛び出して行ったけど」
「見てたんなら止めてくださいよ」
「そんな事言われても……」
って、さっきまでワクワクだったコンちゃん、今は冷静を装って、
「これ、ポン太、一体何があったのじゃ」
「はい……」
ポン太、コンちゃんを見て一瞬は明るくなったけど、すぐにシュンとして、
「ボクがポン吉を注意したんです」
「?」
「ポン吉、学校では寝てばっかりだし、宿題はやらないから」
「ポン吉らしいですよね」
って、わたしが言ったらポン太にらんでます。
ポン吉が怠け者なのは今に始まった事じゃないのに。
「で、今日も帰って来て真っ先にあぶら揚げを始めちゃって」
「仕事してていいのに」
「あぶら揚げならボクでもできます、ポン吉は勉強です」
「うーん……」
そりゃ、ポン吉は確かに勉強して、「ちょっと」は真面目した方がよさそう。
でもね、わたしが心配になるのはポン太の方。
ちょっと子供のくせに真面目すぎませんかね?
そりゃ、昼休みにドッチボールとかしてるけど……
ポン太はまだまだ遊び足りなくないです?
もうちょっと遊んでもいいと思います。
わたしとしてはレッドと遊んでくれると超うれしい。
レッドの世話しなくていいから!
「注意したら飛び出して行っちゃって」
「それで……ポン吉のほっぽり出したあぶら揚げをポン太が?」
「油使ってるから、途中でやめられないし」
「真面目~」
ポン太、慣れた手つきであぶら揚げをどんどん作ります。
そばで見ているコンちゃんが「出来たて」をつまみ食い。
コンちゃんとポン太の目と目が合います。
って、ポン太、赤くなって目をそらすの。
ほれた弱みですね、コンちゃん美味しそうに食べてますよ。
「ふむふむ、あぶら揚げ満足なのじゃ」
コンちゃん、今度は「並んでいる」のをつまみます。
ニコニコ顔で口にしてから、
「ポン吉の事じゃ、腹が減ったら帰ってくるであろう」
「だったらいいんだけど……」
「どうしたのじゃ、ポン太よ」
「なんだか嫌な予感が……」
「違うとでも言うのかの?」
「ポン吉、たまにしでかすから」
今でも飛び出して充分しでかしてますよ、まったく。
わたし、お豆腐をもらってお家に帰ります。
コンちゃんは包んでもらったあぶら揚げをモグモグしながら、
「ポン吉の家出、長くなると思うかの?」
「え? ポン吉?」
聞かれてわたし、考えちゃいます。
その前に……
コンちゃんの手にしている包みからあぶら揚げを一ついただいじゃいましょう。
あ、一枚取っただけなのに、コンちゃん髪がうねる怒りっぷり。
何枚も貰ってるみたいだから、一枚くらいいいでしょ!
うーん、あぶら揚げはキツネうどんに入ってたらおいしいかな。
こう、単品だと物足りない?
でも、コンちゃんは美味しそうに食べてます。
「うーん、ポン吉だから、お腹空いたら帰って来るんじゃないです」
「わらわもそう思うのじゃ」
「ポン吉、子供ですから」
「そうじゃの、心配してもしょうがないかの」
でも、コンちゃんちょっと不安そうな顔。
どうしたのかな?
「わらわもそう思うのじゃが……」
「心配なんですか?」
「ポンはさっき、あぶら揚げを食べたであろう」
「はい……で?」
「ポン太とポン吉では、ポン吉の方がうまいのじゃ」
「え? あぶら揚げですよ、わたしよくわからない!」
「ともかく、ポン吉の方があぶら揚げはうまいのじゃ」
「そうかな~」
「ポン吉には早く店に戻ってもらわねば!」
「ねぇねぇ、コンちゃん、わたしはポン太の方がおいしいと思うよ」
「おぬしの舌はダメじゃ!」
「えー!」
コンちゃん、文句言いながらもあぶら揚げモリモリ食べてます。
「おぬしがポン太を推すのは、あやつが真面目だからであろう」
「……それはあるかも」
「たしかにあやつの作った豆腐・醤油・味噌・酒は絶品じゃ」
「でしょ、でしょ」
「しかし、あぶら揚げは奥が深いのじゃ、真面目だけではダメなのじゃ」
「はぁ……」
「ポン吉には早く帰って来てもらわんとな」
でも、きっと夕飯には帰って来ますよ。
あのポン吉ですから。
次の日です。
ミコちゃんが学校の配達から帰って来ました。
「ポンちゃんポンちゃん、ポン吉くんが家出って知ってた?」
「え……昨日飛び出すのはコンちゃんと一緒に見たけど」
「そうなの……家に帰ってないらしいのよ」
「え、そうなんだ」
わたしびっくりです。
だってお腹空いたら絶対家に帰るって思ってたもん。
「何事なのじゃ、ポン吉がどうしたのじゃ」
ああ、コンちゃん、ワクワクしてるの丸わかり。
しっぽフリフリ、獣耳出てるもん。
ミコちゃん困った顔で、
「ポン吉くんが家出しちゃったのよ」
「わらわも見ておった……そうか、まだ帰っておらんのか」
「そうなの、学校でポン太くんから相談されたの」
「ふむ、ポン太は何と言っておったのかの?」
「帰って来ないって」
「それだけかの?」
「うん……」
わたし、うなずきながら、
「まぁ、帰ってないなら、それしか言えないでしょうね」
「ねぇねぇ、ポンちゃん、何があったの?」
「ポン太が厳しい事言ったんですよ、ポン太真面目だし」
「そうなの……そうなの……」
「悪いのはポン吉なんですよ、遊んでばっかり」
「そうなんだけど……ね」
ミコちゃんすごい心配してる風。
わたし、コンちゃんを見て、
「探しに行こうか?」
「何故わらわがポン吉を探しに行くのじゃ」
「ポン吉早く帰って来ないと、おいしいあぶら揚げ食べれませんよ」
「むう……しょうがないの」
って、ミコちゃんの顔がぱぁっと明るくなるの。
スキップしながら行っちゃうミコちゃん。
柱の所で振り返ると、
「今日はいなり寿しも作っちゃうわね」
「うむ、ミコ、わらわにお任せなのじゃ」
さて、コンちゃんと一緒に捜査開始。
まずはお豆腐屋さんの前まで行きます。
ポン太がショボンとした顔で店番してるの。
「あ、ポン姉、コン姉……」
「ポン太、今からわたしとコンちゃんでポン吉探しに行きますよ」
「ありがとう……でも、見つかるかな?」
「ポン太、わたしをバカにしていませんか?」
「え? なんで?」
「わたしだってタヌキなんですよ、タヌキ、ニオイで探すんです」
「……」
ポン太、表情が曇りました。
一度奥に引っ込んでから、三角巾を持って戻って来ます。
「ポン吉のニオイはこれで」
「むう、パンツとか持ってきたら殺してたところです」
「でも……」
「なんですか?」
「ニオイでは無理かと……」
「わたしのタヌキ嗅覚でばっちりですって!」
「でも……」
クンクン……ポン吉は昨日飛び出して行ったんです。
わたしのタヌキモード嗅覚……すぐにポン吉臭を発見なの。
「ポン太!」
「はい?」
「わたしがポン吉を連れ戻したら、お豆腐とお醤油も欲しい」
「いいですよ、お味噌とお酒も付けます」
「ふふ、賞品ゲット確実なんだから!」
わたし、ルンルン気分でポン吉臭をたどります。
「わたしもタヌキなんです、ニオイをたどればあっという間」
でもでも、ちょっと行ったらポン吉臭が薄くなってきました。
わたしの額にあぶら汗。
「これ、ポン、大丈夫かの?」
「あわわ、ポン吉のニオイ、わからなくなりました」
「まったく、タヌキはタヌキでもダメタヌキじゃのう」
「うう……なんでなんで!」
って、わたしの背中をトントンしています。
振り向けばポン太が力なく笑いながら、
「あの、ポン姉、ポン吉はどんなキャラなんですか?」
「遊び人で釣りキチ」
「なんですけど……」
ポン太、ちらっと「ぽんた王国」を見ます。
藁ぶき屋根の「ぽんた王国」はお豆腐屋さん。
「ポン姉、ポン吉は一応ニンジャなんですけど」
「!」
「それもタヌキニンジャなんです」
「た、タヌキニンジャ!」
「ポン姉だってそうなように、ニオイにも敏感なんです」
「おお!」
「ポン吉は逃げる時、ボクに追われないように当然ニオイを消したんです」
「むむむ……ポン吉のくせに!」
いつも学校で居眠りして、休み時間になったら大活躍、勉強はさっぱり。
そんなポン吉が生意気なんです。
「だからポン吉は簡単には捕まえられないんです」
ポン太、手をヒラヒラさせながら行っちゃいました。
コンちゃんもため息一つついてから、
「これ、ポン、どうするのじゃ」
わたし、コンちゃんの腕をしっかと捕まえるの。
「だからコンちゃんを連れて来たんですっ!」
「は?」
「早くゴット・サーチで探すんですよ!」
「えー」
「『えー』じゃないっ! おいしいあぶら揚げ食べたくないんですかっ!」
「むう、それはそうじゃの」
「それに、ポン吉を捕まえたらお醤油・お味噌・お酒ですよ」
「うむ、お酒はよいのう、ふむふむ」
お酒はポイント高かったみたい。
コンちゃん指を弾いて、
「それ、ゴット・サーチじゃ、ポン吉の居場所へ案内なのじゃ」
火の玉が現れて、フラフラと飛んで行きます。
さすがゴット・サーチ、神の力!
ポン吉の捕獲も時間の問題です。
道を外れて……獣道を通って……発見です!
「なんだか小屋が出来てますよ」
「ふむ、炭焼き小屋風かの」
コンちゃん、むしろをめくって中を覗きます。
「ふふふ、寝ておる、バカめ」
って、ポン吉が横になってます。
コンちゃん拳を作って、そんなポン吉の頭を「ゴン!」
☆一つのダメージ!
「ううっ!」
でも、うめいているのはコンちゃんです。
どうしたんでしょ?
「ううっ!」
「コンちゃん、どうしたの!」
「あんの仔タヌキめっ!」
ああ、コンちゃんの拳、真っ赤に腫れてます。
ポン吉を見れば……おお、丸太になってますよ。
「こ、コンちゃん、これは?」
「代わり身の術じゃ、ポン吉め、やりおる」
さっきまで確かにポン吉が寝ていました。
わたし、ちゃんと見たんです。
それが今は丸太なんですよ。
「絶対見つけてブッ殺してやるのじゃ!」
ああ、コンちゃんの髪がうねりまくり。
「大体わらわのゴット・サーチをかわすとは、ゆるせんのじゃ!」
た、確かに神の術「ゴット・サーチ」から逃れるとは!
「も、もしかしたらポン吉、すごいニンジャとか?」
「なんでもよいのじゃ、わらわ、ゆるせんのじゃ!」
コンちゃんが指を弾きます。
「ポンも続くのじゃ、あの仔タヌキに鉄拳なのじゃ」
「う、うん!」
わたし、コンちゃんがポン吉を殺さないように着いて行く事にします、ええ!
ミコちゃんが、
「ねぇ、ポンちゃん、大丈夫なの?」
「うう……それが……」
ポン吉捜索、逃げられまくりなの。
もう、ポン吉が家出してから三日。
「これ、ポンっ!」
コンちゃんは今日も「おかんむり」。
「今日もあやつの捜索に行くのじゃ!」
「コンちゃん、冷静になったらどう?」
「むかつくのじゃ!」
闇黒オーラをバックに拳が震えてます。
『ねぇねぇ、ポンちゃん、コンちゃんどうしてああなの?』
『ミコちゃん……』
『すごい怒ってるみたいだけど』
『いや、怒ってるんだけど』
『どうして?』
『いや、ポン吉家出してから三日だよ』
『そうね……お腹空かせてないかしら?』
『ポン吉は遊びの天才だから、釣りでもなんでもして、その辺は大丈夫と思う』
『そうなの……でも、コンちゃんはどうしたの?』
『毎日まいにち、ポン吉に逃げられて……だけじゃなくて……』
『?』
『ポン吉のトラップにはまったりしてるの』
『ポン吉くん、やるのね』
『わたしもびっくり』
ミコちゃん、それでも心配顔で、
「でも、やっぱりお腹空かせてないかしら?」
「へっちゃらですよ、ポン吉の秘密基地、どこでも食事の跡があるもん」
「でも、ちゃんとしたものじゃないんでしょ」
「まぁ、焼き魚とか、木の実とか、桃なんかも食べてるふう」
「やっぱり心配だわ」
って、そんな心配しているミコちゃんの背後でコンちゃんが、
「やっぱりポン吉にはムカつくのじゃ、ゴット・サーチ!」
いつも通りに火の玉が現れて……
「!」「!!」「!!!」
わたしもコンちゃんもミコちゃんもびっくり。
ゴット・サーチの火の玉、今までにないスピードで飛んで行きます。
わたし達もダッシュです。
「ふぎゃ!」
台所から声、ポン吉です。
行ってみれば、揚げたてからあげをつまみ食いしてる最中みたい。
ゴット・サーチの火の玉に当たってすすだらけなの。
「ポン吉、見つけたっ!」
「この仔タヌキめっ!」
つかみかかろうとしたわたしとコンちゃん。
その脇をすごいスピードでミコちゃん!
ポン吉をつかまえると、
「まったく、みんなに心配をかけてっ!」
「そうです! そうです!」
「そうじゃ! そうじゃ!」
「このバカ! バカ! バカッ!」
「……」
もう、ミコちゃん、椅子に座ると膝の上にポン吉をうつ伏せにして……
もう、あっさりとズボンとパンツをめくって……
もう、平手を高々と振り上げて、振り下ろすの……
「このバカ! バカ! バカッ!」
「ぎゃー!」
いまどき「おしりペンペン」です。
それも超本気。
見る見るポン吉のおしりは赤くなるの。
「そうです! そうです!」「そうじゃ! そうじゃ!」
まではわたしもコンちゃんもニコニコでした。
でも、今はコンちゃんがミコちゃんを押さえ、わたしがポン吉を救出です。
「これ、ミコ、ポン吉のおしりが無くなるのじゃ」
「いいの、このわからず屋は、叩かないと治らないの」
わ、わたしもそう思います。
でも、ポン吉のおしりを見るとゾッとするの。
「これ、ミコ、児童虐待なのじゃ!」
「ポン吉は悪い子だからいいの、それにタヌキだし!」
「では、動物虐待なのじゃ!」
「むう……」
コンちゃんがなだめるのに、ミコちゃんも落ち着いたみたい。
わたし、泣いているポン吉に顔を寄せると、
『ポン吉!』
『う、うえっ!』
『ミコちゃんに謝るんですよ、ほら、ミコちゃん泣いてますよ!』
『!』
ですです、ミコちゃんもボロボロ泣いているんです。
よっぽど心配してたんですね、こんなわんぱくタヌキに。
泣いているミコちゃんにびっくりしたのかポン吉、真顔に戻ってます。
バツの悪そうな感じでミコちゃんの前に行くと、
「ご、ごめんねさい……」
「わーん、もう家出とかしちゃダメよーっ!」
ミコちゃん、ポン吉を「ギュッ」としてます。
ポン吉はびっくりして、わたわたしてますね。
『一件落着ですね~』
『ふむ、ミコの機嫌も戻ったようでなによりなのじゃ』
『でも、ミコちゃんに美味しいところ、持って行かれちゃいましたね』
『ふむ、そうじゃの、確かに』
わたし達はなんだかガッカリな事ばかりなの。
ポン「はい、11クールめもおわりました!」
コン「うむ、おつかれさまなのじゃ!」
ポン「むー、こうして見返してみるとですね……」
コン「うむ、どうしたかの?」
ポン「むむむ、なにか大切な事、忘れているような……」




