第131話「ポン菓子が来る!」
シロちゃんの銃撃。
そして千代ちゃんのお誘い。
今回はポン菓子を買いにお出かけです。
で、ですね…
ポン菓子ってなんですか? わたし焼かれちゃうんですか?
わたし、レッド、みどり、店長さんでテレビを見てるんです。
台所ではミコちゃんが夕飯の準備をしてるの。
わたし、手伝おうかと思ったけど「カレーだからいいわ」だって。
そんなわけで4人してさっきからテレビなんです。
むむ、クライマックスです。
恩返しに来た仔キツネを猟師が撃っちゃいます。
ああ、仔キツネ死んじゃいましたよ、かなしいお話です。
みどりは店長さんに、レッドはわたしにしがみついているの、
レッド、わたしの体をゆすりながら、
「うわーん、おんがえしにきてただけなのに~」
「人間なんてそんな生き物なんですよ~」
「てんちょーも?」
わたし達が店長さんを見ると、力無く笑ってますね。
「そうなんです、店長さんも人間なんですよ」
「てんちょーもうっちゃうの!」
「そうなんですよ、レッド悪い子だと撃っちゃうんです」
「いいこゆえ、うたれませぬ」
「本当にいい子ですか~?」
「うう……」
わたしとレッドがそんな事を話していると、みどりが店長さんに、
「ちょっとアンタ! 本当なの!」
おお、みどり、ナイスアタック。
店長さんをゆすりまくりなの。
苦笑いしながら店長さんはわたしをチラ見して、
「ポンちゃん、どうなるかわかってる?」
「店長さんはいつもそうです、逃げるんです」
「は?」
「いいですか、今の話、見ましたか」
「今の話……最後に猟師が恩返し仔キツネを撃っちゃう……それが?」
「仔キツネはキツネの姿だから撃たれちゃうんですよ」
「そ、そうだね」
「人間の姿だったら撃たれないわけですよ」
「まぁ、人間の姿だったらね、いきなりは撃たないかな」
「でしょ! でしょ!」
わたし、レッドとみどりを両脇に連れて来て、
「わたし達は人間の姿です」
「そうだね」
「みんな恩返しに来てるわけですよ」
「えっ!」
「店長さん、今『えっ!』って言いませんでした? ねぇ!」
「う……恩返しだったっけ?」
「そうですよ、恩返しなんですよ!」
わたし、レッドとみどりの肩をゆするんです。
二人はちょっと考える顔。
まずはレッドの頭に裸電球が灯りました。
「パン、おいしかったゆえ~」
そうですよ、レッドはお供え物のパンに一命をとりとめたんですよ。
レッドの答えにみどりは頷きながら、
「ゴハンやお散歩してもらったわね……」
みどりはここに連れて来られての事みたいですね。
では、最後にわたしです。
「わたしは店長さんにパンをもらって助けてもらったんです!」
「だ、だったね」
「その恩返しに、人間の姿になってやってきた訳ですよ」
「で?」
「そろそろ結婚してもいい頃と思いませんか?」
「……」
「毎日まいにちパン屋さんで働いて……それもタダで……レッドやみどりの面倒も見て……」
「……」
「そろそろ結婚でしょ、結婚!」
「……」
「鶴の恩返しだってそうでしょ!」
「あれって恩返しだけで結婚してたっけ?」
「文句あるんですか、ええ、ああん?」
ここで弱気を見せたらダメです、一気に押しちゃえ。
わたし、レッドとみどりをほっぽって、店長さんに腕をからめちゃうの。
「さぁ、結婚です、ウエディングです」
「ダンボール準備するかな」
「むー!」
と、カウベルが鳴る音が聞こえました。
足音が近付いて来て、コンちゃん・シロちゃん・たまおちゃんのご帰宅なの。
「あの保健医、マージャン強いのじゃ!」
「きっと積み込んでいるであります」
「3人でかかって負けちゃいましたね……どうしてでしょうか、お姉さま」
どうやら保健の先生と一緒にマージャンやってたみたいです。
3人の疲れた顔を見ると負けちゃったんですね。
むう、3人テレパシーでグルになって負けちゃうんだ。
って、そんな3人と目が合っちゃいました。
途端に店長さんが、
「助けて! タヌキに襲われてるんです!」
たまおちゃんは興味ないのか、さっさと行っちゃいました。
コンちゃんはムスっとした顔で腕組みして、
「ポンも懲りんのう」
シロちゃん、銃を取り出して……
「強姦はタイホであります」
でも、なんかいつもの銀玉鉄砲と違って大きいの、本物風。
「ちょ、ちょっと! シロちゃんの銃、ちょっとすごくないですかっ!」
ぱっと見本物です……もしかして本物!
「ちょ、ちょっと! まさか駐在さんから本物をもらったとか!」
「これは本物ではないであります」
「だって銀玉鉄砲じゃないよね!」
「これはスプリングガンであります、銀玉鉄砲のすごいバージョンであります」
「そ、そうなんだ……って、撃たないでーっ!」
「タイホ!」
シロちゃん、すごい悪人顔で引き金引くの。
パンパン音がして!
け、煙まで出てます!
わたしの体に玉が当たって弾けるの!
い、痛くないけど、音と煙にびっくり。
わたし、瞳孔開きっぱなし。
レッドとみどりもコンちゃんの陰に隠れてるの。
「ちょ、ちょっとシロちゃんひどい!」
「なにがですか?」
「音するし、威力あるし」
「でも、バネは弱いヤツであります」
って言いながら周囲を見回して、ふすまに向けて「パン」!
見事に穴が開きました。
「やっぱり痛そう!」
「これではタヌキを殺せないであります」
殺す気だったのか……
って、ミコちゃんやって来て苦笑いしてます。
「シロちゃん、ふすまに穴を開けたわね」
ダンボールの刑、決定ですね。
「ポンちゃん、また店長さんを困らせて」
「え、わたしも!」
「そうよ」
「そ、そんな~」
「ポンちゃん大人しくしていればいいのに、なんで思い出したようにアタックするの」
「だ、だって、たまに迫ってないと、店長さん奪われるかも!」
「……」
ミコちゃんはシロちゃんとコンちゃんを見ます。
「大丈夫よ」
その二人が大丈夫ってどーゆー事?
コンちゃんは美人だけ……グータラ。
でも、シロちゃんは美人で真面目です……撃ちたがりですけど。
わたしが不満そうにミコちゃん見てると、力無く笑いながら、
「一番の敵は誰でしょうね」
「ミコちゃん、誰って……まさかミコちゃん!」
わたし、店長さんをにらみます。
店長さん疲れた笑いで、
「ミコちゃん結構したたかだからな~ 裏表あるからな~」
だ、そうです。
そう言えばレッドがここに住めるようになった「おとうさん」発言はミコちゃんの入れ知恵でしたね。
「まぁ、一晩ダンボールで考える事ね」
むう、時間はたっぷりって事でしょうか。
「大体シロちゃんがいけないんだよ」
「本官は店長さんの依頼で銃を抜いたであります」
「銀玉鉄砲だったら問題なかったのに!」
「銀玉鉄砲のすごいバージョンであります、スプリングガン」
「『すごい』がよけいなのー!」
夜のダンボール、今日は眠る前にもめそうです、もめてます。
月明かりに照らされて青白いわたしとシロちゃん。
肩を寄せ合っているんですね、山の夜は寒いから。
でも、そんなわたしの背中にはレッドがしがみついてます。
ダンボールの刑なんですが、レッドはこれが好きみたい。
「キャンプー」なんて言って、一緒してるんです。
お外でお休みのどこがいいんだか……子供はわかりません。
もう寝ちゃってるし。
「そうそう、シロちゃん」
「何でありますか?」
「さっきのミコちゃんが言ってたの」
「?」
「気になりませんか?」
「ミコちゃんの言ってたの……??」
シロちゃん首を傾げてます。
「ほら、『一番の敵』ですよ『一番の敵』、誰と思います?」
「ああ、あれでありますね」
シロちゃんちょっと視線が泳いでから、
「本官、『一番の敵』はコンちゃんと思うであります」
「だよね」
「コンちゃんは何もしませんが、それだけであります」
「だよね」
「そこで本官思ったであります」
「?」
シロちゃん、わたしの背中で寝ているレッドを抱っこ。
立ちあがってから、銃を抜きます。
「本官、『一番の敵』はコンちゃんと思うであります」
「な、なんでわたしを狙ってるの?」
「『一番の的』はポンちゃんであります」
「は? 的と敵でかけてるの? 小話なの? なんで!」
月明かりに照らされているシロちゃん。
もう警官の顔じゃないです。
殺し屋の顔ですよ~
さっきわたしを撃ったスプリングガンを「チャッ!」
「先ほどはバネが弱かったであります」
一度軸線をずらして「パン!」
ダンボールに穴開いちゃいました。すごい威力。
「今回のは強力なバネであります」
ああ、すごいコワイ笑み。
「タヌキ狩り、開催であります!」
わたし、脱兎のごとく駆け出すの。タヌキなんですけどね。
「シロちゃんの人殺しーっ!」
パン! パン! 銃声なの!
「タヌキ狩りであります」
パン! パン! また撃ってきました!
「わ、わたし、怒るよ!」
パン! パン! し、しつこいっ!
「いつもの事であります」
「ま、まったくモウ!」
「せっかく邪魔の入らないお外でお休みであります」
「え、まさか、こうなると見越して!」
「であります」
シロちゃん、わたしを狙いながら、
「レッドが邪魔でありましたが、とどめであります」
今までもてあそんでいたようですね。
シロちゃんの目が喜々としてます。
引き金にかかった指が動くのが見え……
「ゴット・アロー!」
シロちゃんの体を光の矢が貫きました。
ああ、シロちゃん崩れ落ちてビクビク痙攣。
ミコちゃんやって来て、
「騒がしいと思ったら、何を遊んでいるの!」
「ミコちゃん、わたしが遊んでいるように見える?」
「ポンちゃんが黙って撃たれていれば、鬼ごっこしなくていいのよ」
「お、鬼ごっこに見えるんだ」
「犬は逃げると追っかけるものなのよ」
ミコちゃん、シロちゃんの手から銃を取り上げ、レッドも救出。
「シロちゃん、計画的だったわね、レッドを人質にとるなんて!」
ミコちゃん、シロちゃんの腕を捕まえると引きずりながら、
「ねぇ、ポンちゃん!」
「な、なに! わたしは犠牲者! 被害者!」
「一番の敵は誰と思ってる?」
「!!」
わたし、しばらく考えます。
「まさか……たまおちゃんとか?」
「ちがうわ」
「わかりません~」
「店長さんとベトベトしてるのはみどりちゃんやレッドちゃんよ」
「!!」
次の日、わたしはレッドと千代ちゃんとお散歩です。
「昨日の夜はそんな事あったんですよ」
「へぇ、シロちゃんがパトロールしてないと思ったら、そんな事があったんだ」
「です、今頃まだお布団の中でぐったりしてるんです」
「ゴット・アローって痛そう?」
「すごく」
わたしは真剣に言ってるのに、千代ちゃん笑ってるの、モウ!
「あ、でもでも」
「何、ポンちゃん?」
「千代ちゃんお誘いなんだけど……」
そう、今、一緒にお散歩しているのは千代ちゃんがチラシを持って来たから。
わたし、そのチラシを見ながら、
「このポン菓子ってなんです? ポンって辺りがわたしと一緒でちょっと嫌」
「お菓子だけど」
「ドラ焼き?」
「ポンちゃん……」
千代ちゃん呆れてます。
そうそう、さっきからレッドは黙ってますが……レッドは「お米」を持ってるの。
おかげでしっぽをつかまれないでいいんですが、
「お米はどうするんです?」
「ポン菓子に使うの」
「お米を? おせんべい?」
「うーん、ちょっと違うかも」
そんなお話をしながら老人ホームに到着です。
玄関前には配達人の姿と、何か機械みたいなのがあるの。
おじいちゃんおばあちゃん達が集まって盛り上がってるみたい。
機械の近くには配達人と村長さん。
二人が操作してるみたいですね。
「なんだか盛況ですよ」
「ポン菓子、おいしいよ」
「そのポン菓子ってなんなんですか!」
「ポン菓子はポン菓子……」
千代ちゃん、ニコニコしながらレッドの腕を引き寄せるの。
「レッドちゃん、ちょっとちょっと!」
「ちよちゃ~、ひっぱらないで~」
千代ちゃん、ニコニコしながらレッドの耳を手でふさぐの、なにかな?
「パン!」
大きな音!
銃声です!
昨日の夜、さんざん聞いたから間違いありません!
わたし、千代ちゃんとレッドをかばうように抱きしめるの。
「凶悪犯がいるんです、もしかしたらシロちゃんが復活かも!」
「ポンちゃんポンちゃん、これは銃声じゃないよ」
「千代ちゃん、今のが銃声じゃなかったらなんなんですっ!」
レッドだって目を丸くしてます。
いくら耳をふさいでも、今の銃声は聞こえちゃう。
あれ?
「なんで千代ちゃん、音がするのわかるの?」
すると千代ちゃん、ニコニコしながらレッドの耳をふさぐの。
わたしもすぐに耳を押さえます。
「バン!」
千代ちゃんには音がするの、わかるみたい、なんでかな?
レッド、涙目になって千代ちゃんにしがみつきながら、
「おおきなおと~」
「はいはい、でも、きっとレッドちゃん喜ぶよ~」
「そうかなぁ~こわそう~」
「千代ちゃん、音がするの、わかるんですよね」
「あそこでポン菓子作ってるんだよ」
千代ちゃんの指差す先には配達人が手を振ってるの。
村長さんが機械からなにか出してますね。
なにかな……行ってみましょう。
「配達人さん、なにをやってるんですか?」
「ポンちゃん来たね、ポンちゃん来ないとね」
「なんでわたしなんですか?」
「だってポン菓子だし」
ニコニコ顔の配達人、わたしは首を傾げちゃうの。
村長さんが機械から出したのをわたしの前にやって、
「はい、ポンちゃんどうぞ~」
「これがポン菓子です?」
「そうよ~」
わたし、レッド、つまんでみます。
レッド、さっそく口にしてすぐに笑顔。
「おいしー!」
しっぽ振りまくり、獣耳になってるの。
「本当、おいしい……でもでも、これって……」
「何?」
「お米ですよね、ね」
「ふふ、そうよ」
村長さん、千代ちゃんからお米を受け取ると機械の中に入れちゃいます。
蓋をして火にかけるの。
千代ちゃん、レッドと一緒にそんな機械を見ています。
老人ホームのおじいちゃん、おばあちゃんも見守っていますね。
「村長さん村長さん」
「何、ポンちゃん」
「この機械に入れるとポン菓子が出来るんです?」
「そうよ」
「他に何か……砂糖とかまぶしてるんです?」
「何も足さないわ」
火の勢いが強くなって、配達人がみんなを見て微笑んでるの。
「いきまーす」
配達人の言葉におじいちゃん達、耳をふさぐの。
レッドは千代ちゃんに耳をふさいでもらってます。
「バンッ!」
またあの大きな銃声みたいな音なんです。
配達人、機械をひっくり返して……出てきました!
お米……ポン菓子になっていますよ!
「ふわわ、不思議~」
わたし、ついつい操作している配達人をゆさぶるの。
「何なに、ポンちゃん?」
「どうしてお米がこんなになっちゃうんです?」
「さあ、俺も言われた通りやってるだけだから」
「配達人さんもわからないと……」
「でも……」
「でも?」
「ポン菓子とポンちゃんって似てない?」
「ドラ焼きじゃないですよ?」
「じゃなくてさ~」
「?」
「ほら、お米を入れて火にかけてバンってさ」
「??」
「ポンちゃんすぐに怒るのに似てない?」
もう叩いちゃうんです、ポカポカ!
「わたし、怒った、バンバン叩いちゃうんだからモウ!」
「こわーい」
配達人、ニコニコ顔で言います。
わたし、固めた拳がプルプル。
「本気で叩きますよーっ!」
「こ・わーい」
えいえい、叩いちゃうんだから!
ポカポカっ!
「う……ううっ!」
「ちょ、ちょっとポンちゃん、大丈夫!」
「うむ、ポン、泣いておるのじゃ」
「ミコちゃんもコンちゃんも……わたし、プリンひさしぶりな気がする」
「大袈裟ね」