それは幸せなのか
ざっぱとかいたなにか
ふうっと息を吐く。白い息。
世間はもうすぐクリスマスだ。陽気なBGMが流れ、街は明るくなっている。
そんな雰囲気なんて関係ない。と言うような感じの僕。
まあそれは当たり前。クリスマスって言うと、なんだかんだあってだいたい僕の周りで誰かが人が死ぬ。付いたあだ名がブラックサンタ。
サンタは何処から来たのか、まあそれは僕の名前を別の読み方にすればそうなるってやつ。
そんなくだらない事を考える、と言うか、それを説明した人物は、路地歌の怪しげなサンタ。
「そうか、つまりはそう言う事だからクリスマス楽しくねえ的な感じなのか」
街、サンタ、そこから連想されるものは、バイトでプラカードとチラシ持って、付け髭にサンタ帽にサンタ服を着た人物。
だけど目の前の人は、普通の服にサンタの着ぐるみの頭を付けただけの不審者。
「まあでもよ、お前さん、確か元刑事つったろ?刑事への恨みとかじゃねえの?」
「それもあるでしょうけどね。そうだとしても、偶然が重なると必然になるのですよ」
「うーん、よくわからねえや」
そもそも僕はなんでこの不審者と、街の路地裏で話しているのだろうか、そんな気分になってきた。
ちょっとタバコでも吸いに行こうかと思ったら、なんか変なのがいたから話しかけてみたらこれである。
クリスマスの不幸、今年はこれなのだろうか。
「まあでもきっといいことあるって。な!」、背中をバンと押されてもその頭はある種怖い。
「てか俺捕まるのか?ちょっと泥棒しに行くだけなんだけど」
ああ、これ本当に犯罪者だったのか。ただの不審者かと。
「なあ、ちょっとだけ!ちょっとそこのショッピングモールに爆弾置くだけだから!」と、指を指したのは、僕が今から夜ご飯を買いに行こうとした場所。
なるほど、クリスマスの死はこっちか。ならば今年はたくさん人が死ぬな。
27歳の時は、同僚と祝うはずで居酒屋に。そこが運悪く強盗団に入られて、まあなんやかんやあって同僚含めて大勢死んだ。
最初は4歳か5歳くらいだったかな。病気で祖母が死んだ。病気だから、僕は関係ないだろうって?でも今の僕は自分のせいだと思っている。
「それともあれか?!その前にお前さん元刑事つったから俺の事捕まえるか?」
「まあ捕まえるというか、現刑事さんに差し出すというか」
「じゃあなんで俺なんかと話してんだよ!」
もっともである。
「うーん、とりあえず話したかったんでしょうね。なんだか話し相手欲しい的な」
「俺みたいな不審者でいいのかよ!」
自覚はあるんだ、その姿が不審だと。
「どうせ捕まるならまあいいかなーって」
「捕まる事前提!ひでえ!」
「ひどいのはあなたのその恰好ですけど、何とかなりません?頭の巨大さに対して体が貧弱なんですけど」
「あー。これな。着ぐるみ使えるかなーと思ったらよ、1回着たはいいけどよ、頭のこれだけ抜けなくなったんだわ」
「……なるほど」と、大爆笑の男に冷静に返した。で、抜けなくなったからもうこれでいいや、と言う感じなんだ。きっと。
「お前のマフラーくらい貸してくれよ。な、いいだろ?」
「不審度が上がりますよ」
「じゃあコートも!」
「下は?」
「あー、さすがに下を貸してくれって言うのはあれだし…そこにあるゴミ袋着ればいいんじゃね!」
そのままゴミ捨て場に捨てて行きたくなる格好ですね。なんてツッコミを飲み込んだ。
トータルで考えると、頭にサンタの着ぐるみ(でかい)、首に青と白の縞々マフラー(僕の)、上半身に白のもふもふコート(僕の)、下半身にゴミ袋(道端の)。
……うん、更なる不審者だ。
「靴はこの着ぐるみのがあるけどでかくてよ…。今は俺自身の靴だわ」
「へー」
この不審者と仲良くなった?のは、きっと、『クリスマスには死が訪れる』と言う必然のためのフラグだろう。
爆弾を使えば僕自身も死ねるだろうけど、なぜかいつも死ねないんだよな。首を吊ろうとしても、手首を切るんじゃなく切り落とそうとしても、屋上から飛び降りても、なんやかんや生き残ってしまう。
ならば、この爆弾デパートの人たちが死ぬか、この不審者自体が死ぬか、それとも別の人なのか…。
「まあとりあえず行ってくるぜ!」
「いや、駄目ですよ」
「……やっぱり?」
「はい」と、僕は笑顔で防犯ブザーを作動させた。
「あっはは!!やっべえ!!」
大爆笑しながらも、彼は爆弾を大通りに向かって投げた。
もう、死には無関心なはずだったけど、刑事時代の名残なんだろうか、僕はそれを体で受け止めいた。
大丈夫。爆発しないさ。だって僕は…。
「……まじかよ」
僕は何をやっても死ねないのだから。
「何で爆発しねえんだ!」
「うーん、防犯ブザーは聞こえなかったみたいですね。偶然にも町内放送が…」
「俺は、俺は何をやっても幸運な男なのによ!!」
「……ん?」
…もしかして、この人。
「宝くじとかは当たらねえけどよ!こういう事なら少々の不幸はあるがいつだって成功したんだ!それなのになんで…!」
「……ふふっ」
「笑うなよ!」
「いや、その頭じゃ説得力ないなと思いまして」
「うるせえよ!」
「まあ、こんなとこで話もなんですから、僕の家来ませんか?」
「……飯食えるなら行く」
「じゃあどうぞ」
「おう」
とは言いつつ、上は着ぐるみは僕のコートで隠しつつ、裏路地から僕の家へ移動した。
……あ、ショッピングモール行き忘れた。
冷蔵庫にあるものでシチューを作った。あの着ぐるみは食事用にハサミでくりぬいてみた。
男はシチューをガツガツと食べている。お腹がすいていたのかな、
「食べながらでいいから、話聞かせてくれませんか?暇なんですよね」と、少しきつめの酒を飲む。
「……話したら、逮捕しねえ?」
「うーん、まあしないでおきましょうか」
「よし!つっても話す事か…」
「簡単でいいですよ」
「じゃあ簡単に」
「はい」
「俺は昔っからいろんな犯罪に巻き込まれるのと、何やっても死なねえ体質でよ」
…この人の場合は、周りが殺そうとしてもと言う意味だろうな。きっと、
「あと犯罪に関しては幸運体質ってのに17歳の時気付いてよ、親は俺の事殴るし無視するしだから犯罪で食っていけるんじゃね?つって」
すっと重い事言ったなこの人。
「そこからはずっと犯罪で生きてきた。つっても、俺の幸運体質は周りを巻き込むみたいでよ、やってきたのはほとんど盗み。殺人系とかさっきの爆弾とか、なーんかうまい事人が死なねえんだよな」
「でも犯罪は成立すると」
「そそ。例えば人質とっても、人質も俺も無傷で、俺は楽に金を奪って楽に逃げ出せるんだぜ」
「なるほど…」
「てかよ、お前の話も聞いてたけどよ、俺がいればお前さんの周りで誰もしなねえんじゃね?もちろん俺は死なねえよ」
「……たしかに、そうですね」
先ほどから考えていた。この人がいれば、諦めていたクリスマスパーティーが出来るのではないかと。もちろんこいつと恋愛するつもりではないけど。
「俺はさ、犯罪ってのは生きるためにやってんだよ。お前さんが俺を養ってくれるなら俺はきっぱり犯罪やめるぜ」
「……あなたは、やってみたいですか?」
「ん?」
「クリスマスパーティー」
「もちろんだとも!」
先ほどよりも少々大声を出し、ガッツポーズの男。
「うまい肉食って、シュワシュワの酒飲んで、でっかい木飾って、んでその上に星つけたりして、あとは綺麗な電球付けて。あとなんだ、ケーキ食ってクリスマスソング歌ってプレゼント交換か!」
「ですね」
「やりてえよ!俺は毎年クリスマスは犯罪パーティーだよ!」
「男2人だとなんかこう変な感じですけど、やりません?」
「やろうぜ!」
うんうん、と頷いて男と握手をする。
変な友情が生まれてしまった。
でも、悪くない。
「まあでも今年は今更無理ですし、来年ですね」
「じゃ、それまで俺はおとなしく反省してるぜ」
「なら犯罪をした分、内職をすればどうですか?」
「なるほど!」
「で、それを貯金して来年のクリスマスパーティー費用にすればいいんですよ」
「おお…頭いいなお前!」
何か犯罪を犯したら即警察へ突き出す。なんて考えは黙って笑顔を見せた。
そう、まるであれだ、ペットだ。中型犬のような。
「今日は普通のお酒ですが、乾杯しましょうか」
「え、俺酒飲めねえよ。そういう年だけど飲めねんだわ」
「……じゃ、今年は麦茶で、来年はシャンメリーにしましょうか」
「なんだそれ!船みたいでおしゃれでいいな!」
「ふふ。……メリークリスマス」
『人が死んでいるのに祝うなんて何事だ』。昔の言葉を思い出す。
もう僕にとって、クリスマスとは葬式。だけど僕は葬式でもはしゃげる人間だ。
クリスマスを楽しまないのは葬式だからじゃない。ただ、誰も死んでほしくないから。これ以上、誰も死んでほしくないからだ、
だけど、この人ならきっと…何も気にせずクリスマスパーティーが出来るだろう。
「おう、メリクリ」
こうして僕は、初めて誰も死なないクリスマスを過ごし、変な奴と友達になったんだ。
ただ1つ、この人の頭はいつまで抜けないままなんだろうか、と思った…。