表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

彼女と別れて半年が経ちました。

作者: 御宮ゆう

 三年間付き合った彼女と別れて半年が経った。


 あれから調子はどうですか。元気にしてますか。

 そんな言葉さえ、もう僕はかけることができない。


「あなたといるのが一番落ち着くわ」と彼女は言った。


「私のことを分かってくれる人なんてあなただけよ」と彼女は言った。


 半年が経った今、僕の隣には誰もいない。

 畳の部屋で、一人で座る。

 朝起きて仕事に行き、八時間ほど働き、寝る。


 君と別れてから、僕の生活は驚くほど単調なものとなってしまった。


 君がいない生活が、こんなにも色の無い世界になるなんて。


 付き合っている時によく行った、あんなにキラキラと輝いてた海も、もう僕には見ることができない。


 世界は信じられないくらいモノクロで、まるで埃っぽい密室に閉じ込められたかのように。

 まるで狭苦しい密室に閉じ込められたかのように。


 僕の世界はストンと小さくなってしまった。



「好きよ」


 そんな言葉が脳裏をよぎる。


「私にはあなたしかいないわ」


 そんな言葉が脳裏をよぎる。


「愛してる」


 そんな言葉が脳裏をよぎる。


 付き合っていた頃の幸せな言葉。

 彼女の柔らかい声、表情、手触り、何もかも。

 もう全て、過去の話。


 ああ、もっと大事にしたら良かった。

 失って気付くことがある、なんて有り触れた言葉。

でも心にこんな穴が空くなんて、誰も教えてくれなかった。



 僕の何がいけなかったんだろう。簡単な仕事をこなしながら、いつも頭の中はそのことで一杯だ。


 顔か、性格か、それとも金か。


 彼女は僕の何が嫌いになったんだろう。


「別にあなたのことが嫌いになったわけではないの」と彼女は言った。


「ただ、もうこの関係を終わりにしたいだけなの」と彼女は言った。


 僕は言われた時、頭が真っ白になった。

 大事な話って、そんなことなの。

 僕と別れたいって、そんなことを言うために家へ呼んだの。


「ちゃんと直接、言いたかったから」


 そんなの、余計辛かった。

 いつも僕に優しい微笑みを見せていたその顔が、いつもとは違う表情で。

 喉まで出かかっている言葉を、なんとか絞り出そうとしている、そんな表情で。


「私、仕事で遠くに行かなきゃならなくなったの」


 何も、聞こえなかった。


「あなたと別れるのは寂しいわ。でもね」


 聞きたくなかった。


 彼女が僕から離れていってしまう。重要なことはそれだけで。


「この仕事が終わったら、私ねーー」


 釈明弁明、聞きたくなかった。




 彼女が僕の元から離れていって、半年経った今でも。


 あの時の言葉が僕の頭を支配する。


 半年経ったのにこんなことをずっと考えてるなんて、どうかしているだろうか。


 僕はもう、彼女と手を繋ぐことはできないのだろう。

 僕はもう、彼女に笑いかけてもらうことはできないのだろう。

 僕はもう、彼女に会うことすらできないのだろう。


 ううん、最後は違うかもしれない。

 僕はそろそろ、多分彼女に会いに行ける。


 あの分厚い扉が、そろそろ開く頃だ。


 カツン、カツン、と足音が聞こえる。


「十八番、時間だ」


 僕の名前が呼ばれる。


「被害者に、何か想うことはないか」


 これが最後になるであろう質問に、僕はいつものように答えた。




「僕は彼女を、愛しています」






 



 さあ、今から逢いに逝くよ。















「私、この仕事が終わったらねーー」










 あなたとずっと、一緒にいたいわ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 事件から逮捕、裁判、執行までが半年か〜早いねぇ 日本も事故以外の殺人はこれくらい早く殺処分しても良いのにw
[一言] ハッピーエンドの場合も書いて欲しい
[良い点] まさかのラストにゾワっとしました! いつものミーさんの作品とはまた違う味わいがあり良かったです。 愛は人を盲目にしてしまいますよね……。 読み直すと違う見え方がするのもすごい良くて、1作品…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ