エピソード10
「ここがアーカム・・・・・・か」
サタンとの話から1週間が経ち、俺は人間族領の北西にある町の一つアーカムに到着していた
このアーカムは俺が魔王だった時代には無かった町で迷宮があるため、凄腕の冒険者が集まる所らしい
「とりあえず・・・・来てみたは良いもののどうしたものか・・・・・」
サタンはこの町に向かってみるといいと言っていたが、具体的に何をしろといった指示は出していないのだ
それはつまり
「ここからの選択次第では悪い結果とやらに繋がる可能性があるということだな」
とりあえずまずは情報収集かね
集めるべき情報は「魔族」についてと、「ここ16年間でいきなり現れた強い冒険者」についてだ
レイを含め、魔族は見た目だけは人間にそっくりだから冒険者として活動している可能性が高い
なので、16年以内に頭角を表した
または
16年以内に登録し、瞬く間に有名になっていったなどの条件で見つかる可能性がかなり高い
そして情報を集めてみた結果だが・・・・結果は空振り
魔族も、いきなり強くなった冒険者なんてのもいなかった
よく考えればいきなり頭角を表せば怪しまれるだけだしある程度頭が回ればそんなことはしないか・・・・
「ふむ・・・・・・それでは別の視点で考えるべきなのか?」
だとしたらどこを変えるべきなのだろうか?
野党や盗賊について探って見るか?
そんなことを考えていると
「隣いいかい?」
情報を整理するために座っていた酒場の席で声をかけられる
ちらりとそちらを見るとフードを目深に被った・・・・声からして女がこちらを見ていた
「どうぞ」
別にこちらの邪魔をしないのなら問題はない
そう思って了承する
「魔族について・・・・知りたいというのは君かい?」
席に座った瞬間に俺にだけ聞こえるように伝えられたその言葉に俺は思わず女を凝視する
「そんなにじっと見られたらお姉さん恥ずかしくなっちゃうよ」
そう言って体をくねくねさせる女
正直気持ち悪い
「マスター、こいつに一杯適当に頼む」
「おっ、話せるねぇ・・・・まぁ、未成年で飲酒はお姉さんあんまり感心しないけど」
更にその言葉に眉をひそめる
この世界では16歳から成人と認められて飲酒ができる
そして俺は普段から落ち着いた雰囲気を持っていると言われ、自分の年齢より多少上に見られることはあっても下で見られたことはない
現に、ここのマスターにだって年齢確認はされなかった
「何を言っている?俺は16歳は越えているぞ?」
「でも二十歳はまだでしょ?日本人・・・・・いや、勇者君?」
その言葉に俺は再び女を凝視する
「この世界には黒髪黒目の人はそういない・・・・その特徴だけでも君が最近昼によって召喚された勇者だとわかる」
なるほど・・・・そう言えば俺も数々の人間を見てきたが勇者以外の黒髪黒目は見たことが無かったな
女は酒を全て飲み干すと
向こうで話そうか
と先に歩き出す
そして路地裏に来たところで
「さて、君は魔族のことを知ってどうするつもりなのかな?」
「それを知ってお前はどうする?」
俺の問いに対する問いに、女は
「場合によってはあんたをここで叩ききらなければならないね」
フードをはずした
そこにあった顔を俺は忘れることはないだろう
多少年を重ねてはいるように見えるが、その特徴的な黒髪と黒目は変わることがない
俺を打ち倒した勇者が目の前に立っていた
ここに第一の再会と、俺の選択の時がやって来た