【超短編】今日の僕は明日の彼女
電車を降りると、僕は駅から自宅までの道を全力で走った。なんとしても十二時までには帰り着かなければならない。ぜいぜい息が切れる。しかし遅れるわけにはいかないのだ。
やっとのことで自分の部屋までたどり着いた。十一時五十九分。ぎりぎり間に合った。ああ、よかった。僕はそのままベッドの上に転がった……
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朝目が覚めると、あたしは男物の服を着たままベッドに寝ていた。飲み過ぎたようで、ちょっと頭が痛い。そういえば、どうしても断れない飲み会があると言ってたわ。よほど急いで帰ってきたのね。ごめんなさい、あたしのために……
一ヶ月前、あたしが交通事故に遭って臨死状態になっていたとき、あの人の声が聞こえてきた。
―― 神様、お願いします。僕の命を差し上げますから、彼女を助けてあげてください。
あたしは驚いて、必死で叫んだ。
「だめよ。あなたの命と引き替えにあたしが生きるなんてできないわ。あたしが死んでも、あなたは幸せになってね。お願いだから」
それでもあの人は、神様に向かって同じ願いを繰り返していた。何度も何度も……
しばらくすると、どこからか不思議な声が聞こえてきた。
―― おまえたちの願いを半分ずつ叶えてやろう。おまえたちは一日交替でこの世に生きるのだ。夜中の十二時に入れ替わってもらうことにする。
あたしの身体は火葬された。ところがその翌日の朝、あたしは同棲していた彼のマンションの部屋で目を覚ました。男物のパジャマを着ていた。それでようやく、臨死状態の中で聞いた声を思い出した。
その日から、あたしとあの人は一日ずつ入れ替わって生きている。夜の間に身体もあの人からあたしへ、あたしからあの人へと変化する。
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朝目が覚めると、昨日の彼女のメッセージを録音したボイスレコーダーを再生した。昨日の彼女は今日の僕になり、今日の僕は明日の彼女になる。直接会えないのは寂しいし、生活も不便だが、それでも僕は満足している。




