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 そして繋がる物語(3)


 テオは精霊っぽい力を使えないみたい。感覚がわからないらしい。だから、空間を渡るためにはまず、テオに『花散らし水面』の中に入ってもらわないといけない。その『花散らし水面』をアタシが取りこんでから、空間を渡るの。


 アタシが行き来できる空間はいくつかある。うまく説明できないけど、このアテル王国がある空間、東京のある空間、あと、アタシとアタシが許可を出した存在しか入ってこられない空間の三つがあるって思って欲しい。

 

 ホントはアタシの空間と、人間社会の空間にまたがる中間のとこもあるんだけど、そのへんになってくると、ホントに感覚でしか伝えられない。あと、説明するのめんどくさい。


 アタシは空間に手を伸ばして『向こうがわ』に入った。


 ××××××××


 あの日のアタシが走ってた。


 らっきぃ!偶然だけど、上手くイイトコにでられたっぽい!

 剣の空間からテオの手を引っ張って、アタシの隣に出て来てもらう。これで、テオにもあの日のアタシが見えるようになった。


「……一体どうしたのかい?」


 あの日の自分より、周りの景色を見てたアタシに、テオは笑いながら首を傾げた。アタシが懐かしい景色を見てるって、わかってるくせに。


 あの日は……あの日は、こんなに普通の日だった。

 すっごく晴れてるわけじゃない。いい風が吹いてた、とか、すっごく寒かった、とか、雨が降ってた、とかそんなことはなにもない、普通の日だった。


「アオイと待ち合わせしててね、それでアタシ、あのマンホールにつまづいたんだよ」


 出かける直前にテレビ見ちゃって、それで遅刻しかけたんだっけ? 遅刻するとアオイに怒られるから、それで、急いで走ってたんだ。

 

 ……ここに戻りたいともう思わなくなったのは、テオがアタシの隣に居てくれるからだよ。


「……え?あれ?」


 マンホールの上をあの日のアタシが普通に通り過ぎていっちゃった。


 走ってた場所に間違いはないし、景色はあの日とまったくおんなじ。時間を確認したわけじゃないけど、日時にだって間違いはないっていう確信もある。


 なのにアタシは何事もなく、走りすぎて行った。


 アタシの全身の血の気が引いて行くのがわかる。

 なにか、おかしな事が起きてる。


「今度は、どうしたのかな?」


 あの日を知らないテオは、また不思議そうに首を傾げた。


「あれじゃ……」


 あれじゃ、あのアタシはテオに会えないじゃないか。


 きっと今、アタシの顔はこわばってる。何も言えなくなっちゃったアタシと、過去のアタシを交互に見てから、テオはアタシから少しだけ離れた。さっと手を出して、公園を走るあの日のアタシの片足をぐいって掴んだ。


 そのせいで、過去のアタシが、派手に転ぶ。


「っひゃぁ!?」


 ぎゅん!!


 過去のアタシが転んだとたんに、アタシは強く何かに引っ張られた。

 ぶつかる!


 過去のアタシの隣にいたテオが目を見開いてた。アタシは精いっぱい手を伸ばし、蔓も伸ばしてテオと剣を離さないようにした。

 した、つもりだ。


 ××××××××


 ……ここ、どこ?


 ちょっとの間、アタシは気を失ってたみたいだ。

 目が覚めたそこはずいぶん狭くて、ちょっと息がしにくくて、暗い。


「テオ?」


 テオの気配が遠い。


「テオ……?」


 両手を伸ばしたくらいの広さしかない……?

 ここはどこなんだろう?


「テオ?」


 え?……出られない?


 手を伸ばしても、空間を渡れない。


 どうしよう。


 ここは、どこだろう。

 ……テオはどこ?


「アラステア!!!……ねぇ!どこ?」


 うっすらとは感じるんだ。テオは、アラステアは近くにいるはずなんだ。


「……うぁ?」


 この声はアタシじゃない。

 声がしたのと同時に、やっとアタシは辺りの風景を見ることができるようになった。


 ここ。


 ここ、アタシが、初めて落っこちて、レリオと出会った森だ。


 カサ、と音がして、振り返った過去のアタシがスライムを見つけた。

 なんとなく感じるのは殺気ってやつだ。

 このころのアタシは、スライムってやつさえ知らなかったんだっけ。


「ぶみゃぁぁ!」


 自分の声でもちょっとこれは言わせて……ちょっと、これは、この悲鳴、不細工過ぎない!?

 そして、過去のアタシは走りだした。


 今のアタシの声は届かなかったし、アタシは不思議な力で過去のアタシを操作する方法を知らない。


 ……こうやって、レリオと出会うことになったんだなぁ……。

 出会ったレリオが記憶の中の、最期に会ったレリオよりもすっごく若い。今となってはもう、懐かしいな、くらいの感覚の時代。……でも、どう頑張っても、アタシには二人を見てることしかできないっぽい。


 テオは、どこなんだろ。近くに気配は感じるのに、どこにいるのかがさっぱりわかんない。


 過去のアタシ、うららが気を失った。また、アタシには周りが見えなくなった。


 ××××××××


 レリオのほうから、テオの気配がする。『花散らし水面』はお店で買ったのかと受け取ったときは思ってた。けど、あとで聞いた話だと、レリオが作って、そしてアタシにくれた剣だ。貴重な品物だったらしいし、この時はレリオが持ってたのかもしれない。


 アタシはきっと、過去のうららに吸い込まれちゃったんだ。リクツはわかんない。……ねぇ、おんなじことが、テオと『花散らし水面』の間でも起きてたとしたら?テオは、今、どんな状態なんだろう?


 テオに会いたい。


 テオの顔を見られたら、このよくわからない不安なんて、きっとすぐになくなるのに。

 テオ。テオ。ねぇ……アラステア。ねぇ。今、ホントはどこにいるの?その剣の中にいるの?

 それとも、どこか遠く?


 蔓や根っこを伸ばすときみたいに、アタシは意識を広げる。レリオが持ってるハズの『花散らし水面』にむかってできるかぎり、手を伸ばした。その剣、こっちにちょうだい。……そこにテオがいるかもしれないの。


 そして、過去のうららは剣を受け取った。


 アタシは一生懸命テオを呼んでみた。


 テオの気配はそこにあるのに、見えないし、声も聞こえない。


 うららの手に置かれた剣はまだ真っ白で、名前をつけてもらってない状態だった。ダメ。これじゃ足りない。とりあえず、レリオが作った剣なんだから、レリオにこのうららの保護者になってもらおう。そして、テオ……この時代のアラステアにうららを会わせなきゃ。


 レリオと離れちゃダメ。

 森に入るのはまだ早いと思う。

 このときのアタシ、まだ社会のことわかってないよね?じゃあ、保護者の言うこときいておきなよ!


 レリオとの『繋がり』は細くて、いつうららが電池切れになって倒れちゃうのか、ハラハラした。せめて、と声が聞こえないのはわかってたけど、うららに何か伝わって欲しくてアタシは叫ぶ。


 うららがどんどん弱っていくのをただ見てるのも、なかなかしんどいものがある。今のアタシなら大地に張り巡らせた根っこから直接、エネルギーみたいなものを吸収できる。このときのうららにはまだそれができてない。


 ……しょうがないか。大地との繋がりもまだできてないし。

 鞘にアタシとうららの魂が入ってても、剣の方は魂が足りてない。誰かと契約して、魂をもらうだなんて、昔は思いつきもしなかった。


 アタシから過去のうららに力をわけてあげられたらいいんだけど。でもそれをやると、アタシのほうの存在がどうなるかわからない。……テオを探さないといけないし。


 アタシはできるかぎり、力を溜めた。


 聖水だとか、土地にあふれる魔力だとか霊力を使ったら、アタシも短い時間だけ、表に出ることができた。


 過去のアラステアを見ることもできた。

 アタシのテオにはまだ会えない。


 ……テオ。


 低くて、柔らかなテオの声。綺麗な顔。お肌がすべすべで、抱きしめてくれるとあったかくて、いいにおいがして、


「テオ……」


 テオは、どこ?


 レリオと、ブレンダンと、アラーナさんと、アラステアと見たアテル王国のあちこちを、アタシはうらら越しにずっと見てた。


 そして、このうららはなぜか、契約相手にアラステアじゃなく、レリオを選んだ。


 アラステアを選べなかった、過去のうららの心がきしむのが伝わってくる。そんなに悲しむくらいなら、なんでアラステアを選ばないのっ!?てアタシも突っ込みたい。


 ……けど、うん。そうだった。アタシもぎりぎりまで悩んでた。

 アラステアには王様でいてほしかった。


 レリオを選んだアタシは、まぁそれなりに暮らしてた。アテル王国もそれなりに普通で、そのうららはレリオの魂を完全に取り込まなかった。


 レリオが死んで、うららを知ってる人がいなくなって、うららはだんだんみんなから忘れられて、宝物庫に置かれて、錆びて、消えた。


 アタシは外に出ることができないまま、ずっと見てた。


「……テオ、どこに行っちゃったの?どうしたらアタシはここから出られると思う?」


 どうせだれも見てない。アタシは下を向いて、ちょっと泣いた。誰も見てないなら、ちょっとくらいなら泣いたって許されるハズだよね?


××××××××


「……一体どうしたのかい?」


 すぐ近くでテオの声がしたから、アタシはばっ!とそっちを振り向いた。


「テオ……テオ!」


 テオだ。


 ぎゅっとしがみついて、ぬくもりと匂いを堪能する。テオだ。今までどこに行ってたの?


「あ、うららさんだ」


 ……へ?


 そこは、あの日の公園だった。

 アタシは辺りを見回したけど、ここにはレイと呼ばれ慣れたアタシと、テオと名乗るようになったアラステアしかいない。

 この時間に渡ってきている精霊は、アタシたちだけしかここにはいない。


 ……どういうこと?


 アタシが公園を走り、またテオが転ばせた。

 アタシは何かに強く引っ張られて意識を失い、またうららの中から出られないようになって、今度のうららはボールドウィンを選んで、錆びて、滅んだ。


 そして、


 アタシはまたあの日の公園にいた。テオに会った。アタシはぎゅっとテオにしがみついたまま、自分で手を伸ばしてうららを転ばさせた。


 ××××××××


 今度のうららはアラステアを選んだ。

 アタシ達みたいに隠居生活を送って、旅をしてた。

 そして、時空を渡ろうとした。


 テオが、剣に入る。アタシがそれを取り込んで、時空を渡る。


 ぼとっ。


 重い音を立てて、『花散らし水面』がじゅうたんに落ちた。

 レイと呼ばれているアタシはそれを拾う。


 ……外に、出られた。


「テオ……テオ!……ねえ、アラステア!ねぇ!どこ!?」


 アタシだけが、外に出られた。


 テオは、眠ってしまったみたいだ。何の反応もくれなくなってた。

 何ヶ月か様子を見て、テオらしい気配にはなにも変化がないのを確認した。アタシは王城に行くことにした。テオはもう大賢者として働けないって伝えておかないと。国への手続きは、ちゃんと、しないと。……しんちゃんの時みたいに。しんちゃんが、死んだ時みたいに。


 ××××××××


 今の王様を即位させたのって、アタシだ。でも、一回しか会ったことがない王様は他人って感じがする。


 執務室の場所はテオが王様の時から変わってない。さすがに内装は全然違う。でもとても同じ場所だとは思えなかった。なんとなく居心地が悪い。


「精霊様!?突然どうされましたか!?」


 空間を渡ったから、むこうからしてみたら、前触れもなくいきなり姿を現したことになる。国王はガタタッて立ち上がったし、側近ぽい感じの人たちはその国王を守るみたいに立つ場所を変えてた。


 ……ねぇ、様、だなんて呼べれても、テオと違ってアタシにできることは少ないんだよ?


「テオ……大賢者の称号を持っていた夫がいなくなったって、王様に伝えにきました」


 王様はすっごいびっくりしたんだと思う。目を見開いて、何回か口をぱくぱくさせてた。それからハッとして、綺麗な姿勢でアタシに頭を下げた。


「お悔みを」


 もしもアタシに大賢者のお仕事を振られたら困るから、手続きに来ただけだもん。そんなこと言われたくないもん。そんな言い方、なんか、テオを本当に失ったみたいじゃないか。


 がっつり気持ちがへこんだ。

 死んでないもん。ただ、姿を確認できなくて、声が聞こえなくなっただけだもん。気配だけならちゃんとあるもん。きっと寝てるだけだもん。


 上手く言えなくて、それで、アタシは王様たちがいる窓のほうから目をそらした。

 なんだか、部屋の壁の一面に箱がたくさん積んであった。その近くの棚とかはちょっとからっぽになりかけてる。この感じは……まるで、


「なんか、ここ、引っ越しでもしそうな雰囲気ですね」


 いきなりの話を変えちゃったけど、王様は同じほうを見て、感じよくうなづいてくれた。


「ええ、ゴルのほうに新しい城を建てたのです。……新しい城にも、精霊様のお部屋はご用意しますよ」


 新しいお城、ねぇ……。そっちに行っても、日向ぼっこと水遊びしかやることないし。日向ぼっこと水遊び……ちょっと……ううん、かなり魅力的な生活だけど、こころ惹かれなくもないけど、でも、テオはその新しいお城にはいないしなー。


 古いお城はつくりが頑丈だからそのまま残して、とりあえず倉庫にするつもりらしい。引っ越しが終わって、ほとんどがらんどうになったお城の中庭で、アタシは今日も日向ぼっこをした。


 「アタシ、このままここに住んじゃおっかなぁ……」


 



『うららちゃんはゲームをやらない』から始まったうららちゃんのお話はこれでおしまいです。


近日中にレオリールのお話を連載しようと思います。レオリールのお話はそんなに長くならない予定ですが、そこにレイが出てきます。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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