旅商人
昔よりも旅が楽になった、とアルマンは思う。
街道の整備が進み、王都並に道が広くなり、石畳の敷き詰められている範囲が広まった。
『吹きだまり』に現れるモンスターの数は明らかに以前よりも減った。場所によっては『吹きだまり』が消滅したものまである。
消滅した『吹きだまり』は、以前、カッスローで見たときのようなやり方で、あのときのように賢者様たちや、戦える者たちが杭を立て、魔物と戦い、そうして新たな街道になったのだろう、とアルマンは想像する。
カッスローは神殿の近くにある、灯台のある街だ。
アルマンはカッスローのことを思い出すとき、ついでにそこで見た若い賢者レリオと、レリオと共にいた少女のことを思い出す。
胸が詰まるだとか、棘の刺さるようなものではないけれど、はっきりとアルマンはうららという少女に好意を抱いていた自覚がある。
……てっきり、うららさんはレリオ様かボールドウィン様あたりと結ばれるんじゃないか、と思っていたんだけどね。
アルマンは心の中でそう、呟く。
うららという少女。
いつもニコニコしていて、旅生活に忌避感を抱かず、そこそこ腕が立ち、客受けが良かった。
暇潰しなのか、よく、聞いたことのない歌を歌っていた。アルマンはその歌声が好きだった。いつまでも隣でその歌声を聞いていられたら、とアルマンは願っていた。
旅商人と夫婦になろうという者は少ない。
誰だって、安全な家に住み、暖かい風呂と柔らかな布団のある、土地に紐着いた生活からはなかなか離れたがらない。だから、旅を嫌がらない、同じ年頃の女性との出会いはそれだけでもう、非常に貴重なものだった。
せめて、街道に常駐の警備兵がもっといてくれたら、旅の危険が減っていただろう。危険が減れば、自分の恋人探しは捗っただろうか。
アルマンはいつも、そう思ってしまう。
実際、珍しいとはいえ、場所によっては自警団がある。
なぜ、国王様が国民の安全に人員をもっと割り振ってくださらないのか、アルマンにはわからなかった。
王都に近い『吹き溜まり』手前の村で、アルマンたちはいつも通り、商売をしながら情報収集にとりかかった。いつ、門が開くのか。現在の吹き溜まりの程度はどのくらいなのか。共に渡ってくれる者がどの程度いて、どの程度の力量なのかを総合して、いつ渡るのかを判断しないといけない。
「……吹き溜まりが、消滅しただって?」
それを教えてくれた村の男は明るく笑っていた。
「ああ。一応再発しないか警戒はしてるし、まだまだ柵は立っちゃいないがね」
たまに、『吹き溜まり』は移動する。
ある日いきなり現れて、いきなり場所を変えたりする。
「それは、よかった。あなたたちも楽になるだろう。……それで、どこに移動したかは知っていますか?」
「いや、わからない。この村の近くじゃないんだろうさ」
村人とは笑顔で別れ、テントの陰に入ってから、アルマンは土を蹴った。
一、二年耐えれば、吹き溜まりは移動する。別に道の一本が不便になったところで他の道を使えば良い。わざわざ自警団なんぞ置いて、怪我なんてしたくない……というのが、ほとんど旅をしないやつらの言い分なのだろう。
他のいくつかの『吹き溜まり』のように消えてくれたのなら良いが、この感じでは移動しただけの可能性もありそうだ、とアルマンは警戒した。
だからそこから三日に渡って旅人を中心に情報を集めた。そして、この次に向かう道筋には本当に『吹き溜まり』がないことを確認した。
最近、旅がしやすくなったとアルマンは思う。
確実に、吹き溜まりの数が減ってきている。だが、国全体となると……もう少し、情報を集める必要はありそうだ。
自警団が無いらしい理由




