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アテル王国の宰相たち

『なんかね、このインクがスゴいらしいよ』の辺りでボールドウィンがうららに書かせた謎書類について、とかボールドウィンさんについてのあれこれを少し


のつもりがだいぶはなしがずれた

アテル王国の女王トリシアが不慮の事故で亡くなった時、彼女には三人の夫と二人の妻、五人の息子がいた。


トリシアの死と同時に、トリシアの側近たちは王位継承権第一位の座にいたトリシアの第四子、キアランを玉座につけるべく動いた。


しかし、それに異を唱える貴族たちが現れる。彼らはトリシアの長子、王位継承権第二位のクラレンスこそが玉座に相応しいと言い出したのだ。

背景として当時、クラレンスが14歳、キアランはまだ5歳だったということが理由のひとつとしてあげられる。


「キアラン様が戴冠できるお歳になるまでの間だけ、クラレンス様が仮の国王になられてはどうか」


そう言う者までいた。


キアランの父の実家が、辺境の小さな領地を治める、あまり権力を持たない領主だったということもあったかもしれない。

対する王位継承権第二位のクラレンス。彼の父の実家は国の中央政治にこそあまり関わってはいなかったけれど、大きな権力を持っており、ちょうどそのころ勢いを増していた。


それでも、神殿よりもたらされる王位継承順は貴族にとって絶対だ。なんとか戴冠式を済ませた幼い国王は、結果として暗殺の危険にさらされることとなった。


微妙に不穏な空気を漂わせながらも王朝は動き出す。


キアランに対して暗殺を企む動きがそこここにあったものの、キアラン国王とその兄弟仲は悪いものではなかった。宮廷で実家同士や派閥同士が争っていても、キアラン国王兄弟や父たち母たちの仲は良いままだった。

キアラン自身が幼すぎたせいもあり、キアラン国王の国政の方針は年長の者たちで決めるような空気が出来上がっていた。


その頃はキアランに対する不穏な動きがあったので平和とは言いきれないけれど、だいたい平和な日々が続いていた。


そんな中、クラレンスが『不慮の事故』で死亡した。


クラレンスが死亡するまで、クラレンスの父は実家に逆らい、キアランの即位や国政に反対していなかった。しかしクラレンスの死亡を境に「クラレンスの死はキアランの陰謀である」と言い出し敵対的な立場を取り始めた。


その頃キアランは18歳。他の兄弟、父母たちも王宮を去っていった。書類上の関係であったキアランの最初の妻も同時期に死亡したとされている。


××××××××


クラレンスの父とトリシアの間にはもうひとり息子があり、それがキアランの弟でもあるクラークだ。

クラークはクラレンスの次、王位継承権第三位。クラレンスの死と共にキアラン国王の次王の権利を得ていた。


クラレンスの父は実家や、その派閥と共にキアランの退位を求め始めた。


揺らぐ宮廷を一時的に落ち着かせたのは、キアランとカサンドラの結婚だ。幸せそうに見える若い夫婦の姿は権力争いに疲れた貴族を束の間、和ませた。


カサンドラの実家がアテル王国の王宮内で影響力を持つ家柄だったことは、大きくキアラン国王に味方した。


しかし、キアランが成人と共にもうひとりの妻デメトリアを得た頃、カサンドラの実家はクラレンス実父の実家の策略でかなり権力を削がれていた。

クラレンスとクラークの父の実家は。

国政に直接関わらなくとも、それだけの権力と実力を持つまで成長していた。

そういう政争の中、クラークは成人した。


クラークが実家や父ではなく兄についたことは、キアラン王にとって最も大きな力になった。

さすがにクラークの実家も、クラークが王位継承権を放棄し実家とは縁を切る、と宣言すればどうすることもできない。

クラークはキアランの死後も独身のまま、宰相としてキアランの息子アラステアに仕えている。


××××××××

××××××××


「アラステア」


アラステアとボールドウィンは比較的仲の良い兄弟だ。周囲はともかく二人はそう思っている。


ボールドウィンの方が歳は上。しかしアラステアが国王でいることに、何の不満も疑問もない。

幼い時からそういうものだと思っていたし、父親キアランを支える叔父、クラークの姿に幼い時から憧れている。


自分もあの偉大な叔父のように、この弟を支えていきたい、と。

弟は優秀な政治家であり、偉大な魔法使いだ。神殿に認められた国王でもある。


ただ、唯一、不満があるとすれば、アラステアが騙すようにして妻にしてしまった少女の扱いだけだ。


小柄で、ふわふわしていて、元気な少女。

彼女はアラステアを嫌っているように見えた。それを無理矢理アラステアは妻にしてしまい、今は軟禁に近い状態にして館を与え自由を制限している。


……いや、俺は知っている。

うららちゃんは大人しく閉じ込められているような少女ではない。

望めば異世界に帰ってしまうことができるし、カピバラに変身して王城内を散策している事だってある。


……しかし、アラステア以外の人間と二人きりになることだけは禁じられている。


「うららちゃんを、もう少し自由にしてやってあげてはくれないか」


そう言っても、アラステアは聞く耳を持とうとしない。アラステアは幸せそうに微笑んで、執務室から見える中庭の池へ視線を向ける。

たまにカピバラの姿をしたうららちゃんがそこにいることがあるからだろう。今はいないようだが、それでもアラステアは満足らしかった。


おそらく、今、うららちゃんはボールドウィンの母デメトリアに音楽の授業をしてもらっている。


「ボールドウィン、うららさんは好きで、私の腕に囲い込まれているとは思わないかな?」


「そんな筈が無いだろう」


言葉の下から否定する。


何故なら旅をしていたとき、うららちゃんは何度も俺の傍にいたい、と解釈できる言葉を俺に向けて言っていたからだ。


俺だけが、うららちゃんから慕われている、筈だ。


アラステアとの婚姻を全力で嫌がっていた姿を思い出し、弟とはいえこんな男と夫婦にさせられた少女に胸が痛んだ。


「……それなら、試してみるかい?

うららさんが私を選ぶか、ボールドウィンとの未来を選ぶか」


私を選ぶに決まっているけどね、とアラステアは勝ち誇ったように目を光らせた。


××××××××


結局、うららちゃんはアラステアを選んだ。


いまだに、俺にはそれがうららちゃんの本心なのか、仕方なくそうしたのか、の判断がわからないでいる。


……だからどうしてもつい、期待してしまう。


ネェッロ王国に向かう、出港準備の書類を片付けながら、俺は俺が絶対に手を伸ばしてはいけない女性を盗み見た。


文字の読み書きが怪しい彼女は俺が差し出した書類にサインをするのが精一杯だ。こちらの文字に不馴れでほとんど書類が読めないせいもあるが、俺を信頼しきっていて何が書いてあるのか見ていない。


ふと思い付いたイタズラ。


俺は婚姻の書類を他の物に混ぜて差し出した。まんまとそれにうららちゃんはサインする。魔力を持ったインクが色を変え、事務処理されすれば法的な効力を持つ状態になった。


俺と、うららちゃんの婚姻が、この紙の上でだけ成立した。この国では重婚が認められている。国で管理している台帳に、こっそりこの書類を差し込みさせすれば、法的にだって俺たちは夫婦になれてしまう。


ん?と疑問を持ったらしいうららちゃんがその書類が何か、を理解する前に、俺はどこにも受理させるつもりのない、誰にも見せる訳にはいかない書類を大切に保存した。


××××××××


アラステア国王、そしてアラーナ女王と二代に続けて仕えた宰相、ボールドウィン・グム・オウロ・アウルム。


彼は『グム・オウロ』がつくことからわかるように、王家の由緒正しい血筋の王子である。


彼は知性に優れ、非常によく王家に仕えたという。

王位継承権というものは、だいたい神殿が定めるものなのだが、それでも余計な争いを生まぬ為にと生涯独身を貫いた。


ただ、彼が無くなったとき、遺品の中からアラステア国王の妃レイとの婚姻誓約書が出てきたという噂がある。そのことからアラステア国王、ボールドウィン宰相、レイ王妃との間で恋のさや当てがあったのでは……という物語を連想する者は多い。




ボールドウィンさん、思い込み激しすぎ。

そしてボールドウィンさんはうららちゃんへの恋心をひた隠しに隠して、うららちゃん(と国)に尽くす事を決意したのでした。


さすがに婚姻誓約書のくだりではちょっとわたしも引いてます。でもそれが、ボールドウィンさん生涯の心の支えだったの。多目に見てあげて……。

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