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今日は楽しい?

作者: 海東翼





 見えているようで見えていない。

 聞こえているようで聞こえていない。

 伝えているようで伝わっていない。


 僕らの間はいったい何で繋がっているのだろう?



「……僕の姿は見えていないのかな? 誰の目にも」



 見えているようなフリをするけど、見ているのはきっと人の向こうにある景色。


 人を見ているようでも、本当に見ているのはその人の価値や能力。


 誰も見ていない。

 目立たないから誰も見ない。



「聞こえていないのかな……僕の声」



 声を聞き取れるのは耳だけだ。

 言葉は聞こえるのに聞こえないフリをしている。


 音楽に乗せて同じ言葉を繰り返し聴いているのに、聞こえない声がある。


 興味が無ければ、存在しないのと同じ。



「もう、嫌だ……」



 ──僕はこの世界に居たいのに。世界は僕を認めない。






 居ても居なくても同じなのが一番怖い。


 居ない方がいい人間は、避けられるから。

 避けられるということは、"それ"を認識しているということ。


 何の反応もなく、ただ通り過ぎる方がつらい。



「でも僕は、誰かを傷つけてまで人に見てもらいたくない……」



 嫌われるのも怖い。


 怖いものだらけだ。


 だからこうして殻に籠もり、心を閉ざす。




「明日……起きたら何か変わっているのかな……」



 だけど時間は全ての物事を解決してくれない。

 今日出来ないことが明日出来るようになるなんてことは、無いから。


 だから僕は……何もしない。




 何かをすることが怖いから。

 何もしなければ、何もないことが怖くなくなる。


 見られないのは当然だ。

 何もしていないのだから。


 聞こえなくても当然だ。

 なにも言っていないのだから。



 その当然はとんでもなく寂しい。


 何もできなくても、何かをしようとしていた時の方がマシだった。


 目を閉じて耳をふさいだら……何が好きで何が嫌いだったのか、忘れてしまった。



「バカだ……。僕はバカだ……」



 何も無くなってしまった。本当に何も。

 残っているのはこの命くらいだ。


 消してしまおうか。全部。

 そしたら、見えなくても、聞こえなくても、動けなくても、何も考えられなくても……


『それが当然になる。』




 ……いや、それは違うのかもしれない。

 生きているから僕は苦しんでる。


 どうして僕は、楽を望む?


 なんで、全部捨てたのに、それでも楽になろうとする?



 苦しむことができるなら、どんな痛みを感じることだってできる。

 その痛みは……生きたいのに死んでしまった人の痛みよりも小さい。



「帰ろう……あの場所へ」



 未来に夢を見ていたあの頃の僕は居ないけど、まだあの場所は残っている。


 あの日、僕らはそこに居た。



「ああ……お前も来たのか」


「……どうして……まさか君達も……?」


「まあな。ここにいる奴らはみんな、同じだろうな……きっと……」



 あの時から、僕らは同じ道を辿っていたのかもしれない。



「それなら、どこか行こうか。僕らの知らない、どこかへ」


「……そうだな。行こう」



 あの場所で過去を取り戻し、その思いと共に、未知の世界を旅する。


 朝も夜も、共に歩く。


 そうして気づく。



「まだ知らない景色がこんなにあるんだね」


「ああ。俺達はいつからか、同じ場所を行ったり来たりするようになっていたからな」



 今まで見えていた世界は小さく。一歩踏み出すだけで知らないものに溢れている。


 それを見るだけでも、いいんじゃないだろうか。


 見えるものだけ見るんじゃなく。自分の足で見に行くんだ。


 気持ち一つで、見えるものも変わる。

 その時によって、聞こえるものも変わる。


 僕らは皆、できる範囲で生き過ぎたから。

 だから自分自身が見えなくなった。



 出来たとか出来なかったとか、見えたとか見えなかったとか……。

 人に認められるとか、馬鹿にされるとか……。


 それはずっと後に結果が残るものであり、今はまだ、旅に出たばかりなんだ。



「ねぇ……一つだけ、きいていいかな?」


「……ああ」


「今日は楽しい?」







 ──終。




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