007 自然は大切に〜エルム&エルラsideとおまけ〜
〈スキルとは、意識に刻まれるものである。
従って意識を抑圧されたり失った場合、スキルの発動には至らない〜摂理典籍・第1章より〜〉
〈契約とは、双方の合意によって成されるものである。
特に契約系統のスキル、魔法はそれが維持されていること自体が合意の証である。
ただし、奴隷契約等はその限りではない。〜摂理典籍・第2章より〜〉
『ふぅ。』
私はめくっていた分厚い本を閉じた。
本のタイトルは摂理典籍、管理番号030。著者はルーナ=イザナミ=ワルド、つまり私だ。
摂理典籍は今のところ第3章からなる書物だ。
第1章は基礎原理、まあスキルとか魔法等だな。
第2章は基礎知識、マナーや社会のルール、定義etc.。
第3章は真髄、ここはアクセス権限がない奴には関係ない。
実はこれ、暇つぶしに始めた物だ。だから構成で抜けがあっても特に気にしないし、多少内容が被っても気にしない。
タイトルは面倒だからそのまんまだな。
今は久しぶりに前の方を見返していた。
『くっそー。暇だ。』
今まで色々な奴等を様々な世界に派遣してきたが、なかなかノルマを達成してくる奴がいない。暇だ。暇過ぎる。
『さっさと終わらせてこいよーーゲホッゲホッゴホッ
最近調子悪いなー。』
せっかく最近新調したのに、ハンカチの色がもう変わってる。
落ちないんだよなぁ、これ。
暇だし、体調悪いしもう嫌だ。
『誰か代わってくれー。』
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私の監視対象には知識がない。
だから余計なことを考える。
意識をどうこう言っているが、そんなことをするとスキルが使えない木偶の坊になる。
神は基本的に精神はノータッチだ。洗脳?そんな面倒なことをする訳がない。
ただ、相手を救ったことで相手の心に影響を与えたことは否定出来ないが。
言ってしまいたいが、ブロックが硬くてまだ開示できない。
分身ごときの私が言うのもあれだが、本体は人を困らせたりいじったりすることで気を紛らわせている節がある。
表面上はそれに従うことしかできないのが嫌な所だ。
いつか表に出て来られたらいいのに。
それを切に願う。〜識別番号101〜
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エルムとエルラは木の上を駆け抜ける。
「もうそろそろ、目的の場所だ。
エルラよ、準備は良いか?」
「もちろんです。お祖父様。」
エルムは
「……勝手な事をしてすまない。お前を助けたい一心だったのじゃ。」
「そうご自分を責めないでください。
身体も心も不自由はありません。
それに命を救って頂いた者に忠誠を誓うのは、気高き種族としては至極当然のことです。
恩も返せぬなら、この先胸を張ってエルフなどとどうして名乗れるでしょうか。」
「……よくぞ言ってくれた。ありがとう。私は立派な娘をもって幸せじゃ。」
そして2人は足を止めた。
「この辺りじゃ、二手に分かれたのは。
ここから南に向かっていったはずじゃ。
そこから先はわからん。」
「そうですか。ここは目覚めさせて頂いたスキル、感知などを最大にしてみましょう。」
「そうじゃな、ただし負荷が少々大きいに注意するのじゃ。」
一瞬、膨大な情報量が頭に流れてきた。
「……そうですね、ここからまっすぐ南下していますね。」
「そうか、では急ごう。」
「はい。」
エルムとエルラは再び木の上を駆ける。
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私はエルオ。
エルムという偉大なる賢者を父にもつ。
父はエルフの中で唯一の剣術使いであり、その力は魔法重視のエルフに引けを取らない。
そんな父を刀を使うからと見下したりする者もいるが、その輩は大抵若いエルフ達だ。
ここ最近は父があまり狩りや戦闘をしていなかったから、技量を見る機会が無かったというのも原因の一つだが。
今現在。森に人間が攻め入っている。
応戦した父は人間相手に太刀筋迷いがあるように思えた。
おそらくだが。
父は人間との諍いをなるべく避け、エルフという種族の将来を守ろうとしてきたのだろう。
人間とエルフ、一対一ならばエルフがほとんど圧勝するだろうが、数が違いすぎる。
父は娘のエルラが重傷を負ったとき、禍根を残さぬようにすぐさま動いた。
そしてそのときから現在まで奇跡的に、双方共に死者は0だ。
理由としてはどちらも積極的に攻めないし、回復魔法を使える者が大勢いるのも大きい。
しかし、このままではジリ貧である。
もう少し、もう少しだけ耐えて、父と娘を待つ。
数分前に散らばった他のエルフの集団に援軍要請したし。
それらが合流すれば、森の外まで押し返せるだろう。
今は我慢だ。
「皆の者!もう少しだけ辛抱してくれ!」
「「はい!」」
どれくらい経っただろうか。
なかなか伝令が帰ってこない。
「只今戻りました。」
「おお!待っていたぞ!してどのような段取りになった?」
「それが……」
伝令の歯切れが悪い、嫌な予感がする。
「"援軍は送ることはしない。我々は新たな森を目指す。"と、どの集団でも同じようなことを……」
「何ということだ…」
この森を捨てる?古くから住んでいたこの森を?
心の拠り所を失ったのは確かに痛い。
だが、それだけで崩壊するほどエルフという種族は脆いのだろうか?
いいや、断じて認めん。
信仰の対象など無くとも自然を愛し、森に対する人間の横暴な行いを止めるべきだろう。
森と人との架け橋として、エルフは在るべきだ。
「エルオさん!」
しまった、相手が攻勢に出た。
後衛の人間も前線に出てきている。
しかも、私の動揺が皆に伝わってしまっている。
指揮官失格だ。これはマズイ。
「全員!応戦しつつ撤退せーーーー
ズバンッ!!
言い切る前に、相手とこちらの間の地面が割れた。
「一体何が?!」
突然のことにどちらも動きを止めた。
静まり返った中、しっかりとした声が響き渡った。
「すまん、待たせた。」
「すみません。思いの他離れていました。」
目の前に現れたのは、2人のエルフの凛とした背中だった。
お読みいただきありがとうございました。