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016 黒鳶団

 今、俺の前に凄い光景がある。


「ヘリス様! 凄い事になりましたよヘリス様!! 」

 エルラがはしゃいでいるのだ。それはもう、色々揺れるほどに。

 揺れる揺れる弾ける。……すまん、青年の心には毒だ。感知の範囲を何とか逸らそうするが、意識が吸い寄せられる。


 エルフの服はゆったりした物で、エルラも成長途中であるから酷い事にはなっていないが、あまり心が穏やかではない。


 まあ、この眺めは良い。いや、これはまだマシな光景と言う意味の、良いである。


 興奮するエルラをなだめつつ、辺りを見回す。

 すまん、代行者に任せた俺が馬鹿だった。


「我ら漆黒なる赤き月の黒鳶団は! ヘリス=ワルド様に忠誠を誓います!! 」

「「「忠誠を誓います!!! 」」」

 樹木刀を上に掲げるエルフ達。全員がフード付きの黒装束に身を包み、怪しい格好をしていた。


 漆黒で黒鳶とかどす黒いな、そもそも月と鳶はどっから来たとか、そんな突っ込む気力も無い。

 頼む。お前ら元に戻ってくれ。真剣に。


  ※


 これは代行者から聞いた話だ。

 俺は意識をエルムに傾けてたので薄っすらとしか知覚していなかったのである。

 始まりは、代行者のバカトリオへのお仕置きだった。

 全てをことごとく防いだ代行者は、三人を土魔法で土葬。

 しばらくして地表に出すとまた暴れたので、犬神○ポーズの上半身土葬。

 鬼畜な代行者の所業に慄いたエルフ達は跪いてしまった。


 それから淡々と話が進み、エルフは周りの樹の上にツリーハウスを建てて住む事になったらしい。


 そんな時、隅でコソコソと何やらしていたエルラがやって来た。


 エルラの右手には黒い布、左手には黒い袋。それを興奮しつつエルラが説明し始める。


 エルラ曰く服と鞄を作って改良していくと、それぞれユニークウェポンになったらしく、黒鳶装束と魔法鞄へと変異したそうだ。


 ユニークウェポンとは何ぞや? と聞くと、曰く神に認められた道具の事らしい。ウェポンの和訳って武器じゃね、とは突っ込んではいけない様だ。代行者の無言から察するに、駄女神が適当につけてる感じである。


 兎に角解析すると、結構凄かった。

 黒鳶装束は着てフードを被るだけで、[ステルス][潜伏][夜目][消音][狙撃][暗殺]のスキルを付加するの機能があるらしい。ステルスは感知系のスキルや魔法に引っかからないスキル。

 狙撃と暗殺は一体どこから来たんだ。


 魔法鞄は大きさと、作る時に込められた魔力、魔素の量によって容量が変化する物らしい。今は大きさの十倍の容量だそうだ。

 便利すぎるだろ。


 そして、代行者は勧誘を始める。

 エルラに黒鳶装束の性能を実践させ、エルフの興味を引く。

 そして自分で試させて、テンションが上がったところで招き入れる。ここからが問題で、普通に招き入れるのならば何も問題なかった。そう、普通に招き入れるならば。


 代行者は井の中の蛙であるエルフに、とある病を感染させた。それも若い奴等を中心に、ノリノリで集団名まで与えて。


 そこからは代行者が"企業秘密です"とか、昔の漫画のネタみたいなアホな事を抜かしやがりました。


 代行者が伝染させたは、"動かしやすいから"とか言う碌でも無い理由だったりする。正直、洗脳や扇動の方がしっくり来そうだ。


「ヘリス様。凄い事になりましたね! 」

 笑みを浮かべてエルラが言った。


 うん、凄い事になったね。うん。

 よく見るとみんなが手に持ってるの樹木刀じゃねーし、黒樹刀とか言う上位版だし。いつの間にか黒樹弓とか黒樹盾とかあるんですが。え? 戦う気満々ですか?


 ちなみに、黒くなったのは凝縮した結果だとか。これはもう、木っていうより金属ですわ。もちろん樹木刀以上に。


「ヘリス様。我等に力を与えて下さりありがとうございます。これならばB級モンスター等簡単に屠れることでしょう。」

 エルフの一人がこう言った。


 〔お、おう。ただし使い方を間違えるなよ? 〕

「はっ! 」

 ごめん、こんな事言うのが精一杯。てか、ランクの詳細をもうそろそろ知っとかなきゃまずいな。

 話が合わなくなる前に確認しておこう。おーい、代行者。


 そして意識に浮かび上がる、謎の表。


【魔物の目安。】


 脅威ランク倍率(D級を100とした値)

 〔応戦可能推定戦力〕

 N.D.級 : ∞

 ダークライン〔連合軍撃破限界〕

 S+級 : 2^7×6/5(15360)

  S級 : 2^7 (12800)魔王

 S-級 : 2^7×4/5 (10240)

 レッドライン〔一国撃破限界〕

 A+級 : 2^5×6/5(3840)

  A 級 : 2^5 (3200)悪魔

 A-級 : 2^5×4/5 (2560)

 イエローライン〔レイドパーティ撃破限界〕

 B+級 : 2^3×6/5(960)

  B級 : 2^3 (800)

 B-級 : 2^3×4/5 (640)

 グリーンライン〔パーティ撃破限界〕

 C+級 : 2^1×6/5(240)

  C級 : 2^1 (200)

 C-級 : 2^1×4/5 (160)ゴブリン集団 オーク集団

 ブルーライン〔単独撃破限界〕

 D+級 : 2^0×6/5(120)

  D級 : 2^0 (100)

 D-級 : 2^0×4/5 (80)ゴブリン単体 オーク単体

  E級 : -∞


 ※冒険者のランクもこれに統一され、A級冒険者のレイドパーティー又は軍隊でようやくA級モンスターを対処可能。



 ああ、レインボー。いや、一番上はパープルラインでしょうよ。


 じゃなくて!!


 ごめん。さっきから謝ってばっかりだけど、話について行けない。


 これが何? 脅威の目安って事? 底は二で指数が零から奇数で上がって行くって、何それ。

 ランクの間に開きがあり過ぎるだろ馬鹿野郎。


【魔物の伸び代が凄まじいというのは有名な話です。】


 いや、知らんがな。しかも、一番上N.D.級というのは何だ? 説明して貰おうか。


【計測不能】


 は?


【計測不能】


 何て?


【N.D.級は上限が計測不能な脅威です。】


 ふざけんな。


 わからないのが一番怖いとか、まともだけど何かイラっと来るんだが?

 ダークラインとかふざけてんの? 要らないよな?


【お先真っ暗。】


 ……。


【……。】


 ちょっと話し合いが必要だな?


【必要性を感じません。】


 こいつ。


【この世界にランク制を導入したのはマスターです。】


 ああ、それを聞いて納得した。

 N.D.はあいつのためのランクだ。あの駄女神以外使う事は無いだろう、なら良し。


 それより問題は、目安の上から下まで凡そ190倍の開きがある事だよな。

 人類負けんじゃね? いや、負けるだろうよ。魔王とか何やってんの?


【ポテチ喰って寝てます。】


 ……。


【魔王や魔族は寿命が無いので、とても大らかな心の持ち主です。】


 えーっと? 人類を弄んだりは?


【飽きました。今はムファルスと皇国がいつ戦争するか賭けてますね。勿論不正無しで。】


 いらねえ情報ありがとう。あ、じゃあ勇者。勇者は何やってんの?


【魔王が何もしなくなったからニートになって、今はどっかのカフェのオーナーをしているとか。】


 ……うん、気を取り直そう。今はムファルスと皇国の戦争に注意するだけだ。

 厨二武装エルフの集団や不吉なランクとか、無害な魔王と引退した勇者とかはこの際放っておこう。

 ポテチが何でこの世界にあるのかとか、すんごい食べたいが無視で。今は無視で。それよりこれからの事を話合わねば。


 〔実はな、今エルムが帰って来てるんだけど、合流したらドワトランに行かせるつもり何だが……〕

 控え目にエルラに言うと。


「行きます。」

 はい、即答でした。困ったな。こんな事なら馬を貰えるだけ貰っときゃよかった。


 〔何か、馬みたいな移動手段って無いか?〕

 エルラにそれとなく聞いて見ると、エルラは少し考えて口を開いた。


「ありますね。少しお時間いただけますか?」

 〔あるんだ。時間はまだまだあるから準備してきてくれ。〕

「わかりました。」

 そう言って、エルラは黒鳶団を連れて何処かへ行ってしまった。


 そこでふと思う。あれ? 全員で行くんだ? 何か嫌な予感。


  ※


 エルラ達が帰ってきた。黒鳶団も帰ってきた。狼も来た。


 えーと? 何この化け物。


 黒鳶団の周りには体高・・が2m、全長が3mほどの厳つい黒い狼が群がっていた。その数10体。


 これはも○のけ姫のイノシシの方が可愛気がありそうだ。こんなのどっから呼んできた。てか仲良くできるの? 大きさからして人類や亜人獣人も捕食対象に入ってるよな?

 ちょっと気になるから解析。


 ──<解析>──


  名前 : no-data

 種族 : 黒狼(B+)

 組成 : 元素80、魔素20、霊素5

 種族スキル : [統率][嗅覚強化]

  スキル : ユニークスキル [餓狼]

  スキル[威嚇][潜伏][連携]

 魔法 :[闇魔法]

  霊法 :[闇霊法]

 称号 :[フェンリルの子]

 耐性 :[物理耐性][魔法耐性]



 ファー‼︎ フェンリルの子供! あかんやつですやん。


 何が駄目かというと、子供。体高が2m、全長が3mあって子供。乗用車よりデカイ奴がコドモ。


 種族の横にあるのは多分、いや確実にランク。それがB+っておかしいでしょうが‼︎ 表に照らし合わせるとレイドパーティが何とか倒せる感じか? 個体差あるらしいし。これが10体とか太刀打ちできねぇ。


 絶対戦いたくねーよ。あ、でもフェンリルはちょっと見てみたいかも。勿論1km先からとか、その辺りは後ほど考えよう。


 〔どうやって狼と仲良くなったの?〕

 一番の疑問をエルラに聞いてみた。狼って手懐けられる動物だったか?


「それは勿論、私が群れのリーダーに決闘を申し込みまして──。」

 エルラは世間話をする調子で話し始める。


 〔ストップ。今なんて?〕

「え? 狼のボスと決闘したんですよ。条件は一対一で何でもあり、そして勝者の言い分を聞くことです。」

 エルラはキョトンとした顔で説明する。


 〔誰が⁇〕

「私がです。」

 ドヤ顔しているエルラは放って置いて、一旦整理しよう。


 黒狼イコールフェンリルの子供。


 黒狼の群れのボスイコール? フェンリル⁈


 そしてフェンリル、バーサス、エルラ。勝者エルラ?


 〔……エルラ、フェンリルに勝ったのか?〕

「いいえ? ボスも普通の黒狼でしたよ。他の個体より一回り大きかったようですが。」


 残念。フェンリルまで成長してなかったようだ。

 フェンリルの子供という称号が付いてるってだけで、黒狼とフェンリルは別々に暮らしてるのか。


 〔エルラ、武器を使わず魔法で倒したのか?〕

 特に渡してなかったはず。杖擬きは役に立たないだろうし。


「いいえ? 魔法は使いましたが、武器も使いました。」

 〔な、何を使ったんだ?〕

 えげつない兵器でも開発してるんじゃ無いだろうな? そんな物があるなら即刻没収するが。


「使ったのはヘリス様にいただいたこの杖、樹木杖トレエ・ケインです。」


 木の棒が何の役に立つのだろうか? 俺はエルラに詳しく聞くことにする。あと、間抜け面を晒す心配が無くて良かった。何せ木ですから。


「この杖は魔導具として、しっかり機能しているのです。魔導具とは魔法や霊法の行使を補助する物で、例えば、魔法や霊法の詠唱を短縮又は破棄、座標指定の高速化、並列行使等々。種類によって様々な物があります。」

 〔へえ、それの作り方って決まって無いのか? 俺の枝を適当に削っただけだぞ?〕

「これは元々素材が素晴らしいのです。樹木杖は詠唱破棄に加えて、魔力の蓄積が今の所確認されている機能です。」

 〔……そんなに凄いのか?〕

 エルラはそんな俺の問いに、肘を曲げて腕をブンブン振るぐらい興奮して答え始めた。


「こんなの下手をすると大規模殲滅魔法、とまではいきませんが高等魔法を撃ち放題です! これはまだまだ発展途上ですが、上級魔法を何百発撃てることやら‼︎ それに、魔力を貯めるには本来なら宝玉やクリスタルが必要なのに! これには一切使われてません‼︎ 異常です!」

 〔お、おう。〕


 エルラ、それだけ情熱があるなら魔法の研究をお前に任せても良いと思った。ドワトランの技術を見た後は色々実験や研究をしてみたいと思っていたし。


 本音を打ち明けると、俺は前世で大学に入れなかったのが途轍も無く悔しい。自分の気になる実験や研究をして、将来は技術者や研究職に就いてみたいと思っていた。だが始める前に死んだ。


 しかし俺は転生した。そして転生した今でも、俺は物作りが好きだ。だから今度はこの世界を探求して、ノルマをこなしつつ様々な物を発見発明したい。


 ドワトランにさっさと向かいたいのは、この世界の技術者に会ってみたいからだったりするのだ。生憎この辺りには鉱石の類いが乏しいので、自分でそっち方面の研究をするには限界がある。


 代行者の情報では、ドワトランは山脈の麓の大洞窟の中に繁栄した国家らしい。鉱石を採掘するにはもってこいだ。


 そしてドワーフの国という成り立ちから察するに、九分九厘、道具の製造が国家の一大産業。そして貿易の品もまた然り。ここで気掛かりなのは、資源の独占と技術の漏洩対策がどこまで行われているのかだ。


 技術は……トルラドの紹介状は使わずに、工房とかで見て盗むのもありだ。紹介状を使わないのは産業スパイの容疑を回避するためなのだが、あまり軽々しく使わない事に決めているからでもある。


 問題は資源。山脈の別の場所で、命がけで採る事にも許可が下りなければ、ドワトランから買うしか無い。ぶっちゃけると、トルラドからのお礼は貨幣に全振りしたかった。


 今では移動と運搬を担う黒狼と魔法鞄があるから、馬より貨幣、と言う思いがますます強い。

 だって、お金の方が便利だろ。ドワトランに早く向かいたいから馬を貰ったけど、馬は最悪食料にしか……いや、前言撤回。想像したらアウトだった。


 馬刺しは良いですよ? 食べてみたいよ? エルラは【調理】のスキルを持ってるからできない事はないさ。


 でもね、もしレイナ達がここに来た時が怖いんだ。

 明るい声で"あげた馬はどうしたの? "尋ねられて、"食べちゃいました。"ってなるのは駄目だろう。


 兎に角、馬は村で飼うとする。食料以外で役立ってもらう。


 ……あれ? エルラの言葉で気になる不吉な単語が。


 〔エルラ、大規模殲滅魔法って何?〕

「えー魔法には普通、上級、高等、大規模殲滅魔法とランクがあります。」


 最後だけ浮いてる。最後だけ殺傷目的の魔法ランクだって丸分かり。


「大規模殲滅魔法は別名、対軍魔法と呼称されます。悪魔や聖獣が使う魔法ですね。」


 〔あ、はい。よくわかったからもう良いよ。〕

 うん。それだけ聞ければ充分デス。


「そうですか? わかりました。」

 エルラは少し首をコテンと傾げる仕草をした。可愛い、じゃなくて。


 〔そっか、エルラは勝ったのか。で? 具体的には何を黒狼に要求したんだ? 〕

「え? ああ、それはですね。敵対しないことやこちらに協力する事です。移動を手伝って欲しいので子分を数体こちらに寄越せないかと。プライドが高いので渋りました。」

 〔なるほど、あっちは何を要求して来たんだ?〕

「それは──です。」

 〔……何で?〕

「実は──。」


 ほ、ほう。なるほど。そっか、黒狼が決闘を受けた理由がわかった。わかったが同意しかねるな。


 〔エルラ、エルムが帰ってくるまでまだ時間があるから、魔法の研究とか狩りの道具の開発を一緒にしないか?〕

「はい! 是非!」


 俺は気分を変えるためにエルラと研究する事にした。


 エルラがせっせと準備を始める中、俺はぼうっと考える。


 ──この体になってから体調を崩す事はないし、寧ろ気分が良い。

 ただ、体の機能が殆ど異なるので一次的欲求、即ち食欲や性欲などと言う生理的欲求が皆無。


 ──そしてその反動か二次的欲求、言わば心理的欲求が肥大してるかもしれない。

 食欲に代わり、エルムやエルラの感覚を介して、味覚などを味わうことが出来るし積極的に体験したいと思う。

 しかし、これはもう美味しく食べる事より味を知る事に重点が移っている。


 ──何か虚しい。あの駄女神め。予想以上にキツイ罰じゃねえか。


 更生目的の転生はジワジワ来るのだった。


 ヘリスはふと先程の会話を思い出す。黒狼の要求だ。


 ──まさか、エルフを数人献上しろとかふざけた事を。

 しかも目的が最悪だ。絶対仲良くできない。


 黒狼の話を聞いたエルラ曰く。












 "エルフは美味い"らしい。













お読みいただきありがとうございます。


黒狼は全力で避けたい(^^;;

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