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「もう、止めてくれ」
懇願するような声音は、今にも泣きそうに揺らいでいる。
止める。一体何を止めると言うのだ。
「これ以上、罪を重ねるんじゃない。この娘は、由美子じゃない」
父はそう言って、マネキン人形を抱えると、納屋を出て行く。無様に取り残された僕は、ようやく身なりを整え、彼を追いかけた。
納屋の近くに、井戸がある。もうずっと使われておらず、祖父の代には枯渇していたというものだ。
父はそこまでマネキン人形を運んでいくと、一度彼女を座らせ、木製の蓋を両手で開き、大きく溜息を吐いた。
深夜だ。あたりは森閑としている。
「俺が悪かったんだ」
ぼそりと呟いた彼の声が、夜気に吸い込まれ、消えた。
ドスン、と音を立てて着地した人形は、もう上からは、暗闇に飲まれて形を成さない。
ふわりと浮かんだ腐敗臭が鼻を突く。
また、由美子が増える。増やしているのは、僕か、父か。
「狂ってる」
それが、いつから、誰が、そうであると示した言葉なのか、判然としない。
ただ、僕も、父も、本当はずっと昔から、そう願えば、面白いミステリー小説が書けるのではないか。
そんなことを、思った。
由美子を殺したのは、誰だったろうか。
朝、薄闇の中で、目が覚める。