舌切りなんとか
「あれ?あれれ?あれあれ!?」
山奥の竹林の中、ジェニクタクホンボルンソメイサ指令本部に勤めているプリンが焦っていた。
それもそのはずで、さっきまでモニター室で仕事をしていたのだ。それが気付いたら竹林の中にいるなんて、こんな事一生に一度あるか?
「ロモちゃーん…?」
か弱い声で読んでみる。が、返事はない。
風で竹の葉が擦れる音しかしない。
そんな中、少し奥の方の地面でガサガサと物音がした。
「え?なに…」
恐る恐る近づき覗き込んで見るとそこには、足をケガしたスズメがいるではないか。
「あ。スズメだ。ケガしてるの?」
と近づき何かあるわけでもないポケットに手を入れると、
「なんだこれ?」
取り出すと、小さな包帯とハサミとテープが出てきた。
「なんで入ってるの?」
それらを使いケガをしている足に巻いてあげた。
「よし、できたよ」
と言うと、
「ありがとうございました。これで帰る事ができます。それではさようなら」
と、スズメは飛んで行ってしまった。
そしてプリンはスズメの飛んでいった方をボーっと立ち尽くして数十秒。
「しゃべった……」
そして、スズメが飛んでいった方になんとなく歩き始めた。
歩いていくと、なにやら緑色をした壁が見えてきた。
「なんだろう…」
近くまで行くと何かが分かった。緑色の壁かと思ったのは、竹で出来た門だった。
その門がやけにデカい。高さは3メートルくらいあり、長さは辺りが竹林というのがあるからか、端っこが見えない。
そして、門の表札には<竜宮>と書かれている。
「確かに絵にも書けない何とやらです。緑ばっかりで…」
すると、スズメが上を飛んで来た。
「あ。あなたは先ほどの」
と、プリンを見つけて下りてきた。
「君はいったい…」
「申し遅れました。私はこの竜宮の後続人の東豪山弦之仁烝と申します」
「え?」
「つまり、この竜宮の主になるのです。あなたは?」
「えっと私はプリンと言います」
「ではプリンさん。さっそくですが、お礼をしたいので、この竜宮へお入り下さい」
「え?あ。悪いんですけど、帰り道を探してるんです」
「お急ぎですか?」
「はい…。ちょっと」
「そうでしたか…。それならちょっと待ってて下さい。渡したい物があるので」
と言うと門の中へ飛んで行ってしまった。
しばらくすると門の中から綺麗な着物を着た女の人が三人出てきた。真ん中の人の肩には先ほどのスズメが止まっている。右の人は玉手箱を持っており、両手で軽く持てる大きさだ。左にいる人は背中に背負うような形の、それなりに大きい箱を持っている。
そして真ん中の人が、
「先ほどはこちらの東豪山弦之仁烝様をお助けいただき誠にありがとうございました」
「いえいえ私はそんな大した事は…」
「そこで、この二つのどちらかを差し上げたいと思いまして用意いたしました」
と両脇にいた人が箱を前に出した。
「じゃあ小さい方を」
と、右の女の人から箱を受け取った。
「帰り道はこの門を真っすぐ歩いて行けば帰れます」
と、真ん中の女の人が左の方を指差して言った。
「分かりました。ありがとうございました」
プリンは門の壁にそって歩き始めた。
長い竹の壁がまだまだ先に見える。
プリンはまだみんなが門の前にいて、見送ってくれているのかを見ようと振り返った時、辺りが風でザーっと音を立てた。
「あれ?」
プリンは箱を持ったまま立ち尽くした。
辺りには竹が一本も無く、林になっている。
「え…?あ」
と、持っている玉手箱に目を向け、地面に座り開けてみる事にした。
ふたを開けると、また箱が中にあった。
「あれ?」
またふたを開けると箱が入っている。
これが何回も続きプリンの周りには大きさの違う箱がいくつも置かれていた。
そして、今プリンが持っている箱は指で挟める程度の大きさになってしまった。
「さすがに何か出てくるでしょ」
と願いながら箱を開けると、折り畳まれた紙が入っている。
プリンはそれを広げた。
『またいつかお会い出来る日まで 東豪山弦之仁烝』
「手紙か…」
プリンは地面に横になりウトウトしてきた。
そのまま時が過ぎて行く……。
「プリンちゃんプリンちゃん」
誰かプリンを呼ぶ声がする。
体が揺さ振られプリンが目を覚ます。
「あれ?ロモちゃん!」
プリンが目を覚ますと、ロモが隣に立っている。そして目の前には自分のパソコンがあり机があり、プリンは椅子に座っている。
まさしくジェニクタクホンボルンソメイサ指令本部のモニター室である。
「やっと起きたのね。そろそろ起きないと怒られちゃうよ」
と、ロモは自分の机に戻って行く。
「夢だったんだ…」
プリンは体を起こすとポケットに何か違和感を感じて、それを取り出した。
折り畳まれた紙が出てきた。
「え?」
『またいつかお会い出来る日まで 東豪山弦之仁烝』
思わず口元が緩んだ。
「あれ?何その手紙。ラブレター?」
ロモが聞いてきた。
「ううん。友達だよ」
「ふーん」
プリンは照れくさそうに手紙をしまい、机の引き出しからプリンを取り出し、いつもより嬉しそうに食べるのであった。