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思い出の想起

中学生の僕と

大学生の俺と

永遠になった女の子と

変質な女の子と

生まれながらの殺し屋と

生まれてからの殺し屋と

そして名探偵

ふたり、あの窓辺で、


あの子は死ぬ前に見つめたろうか。


透明な花瓶に僕が刺したあのベツレヘムの星、白い花弁の美しい花を。


細くやつれた顔を少し綻ばせて、香りを嗅いだりしたろうか。


そしてこの窓の向こう、夏の日射しを肌にヒリヒリ感じながら、規則正しく並び立つ家々のそのまた向こうに見えるブルーの海岸線に、眼を細めたろうか。


「ねぇ」と話しかけてみるけど反応はない。お腹の上で折り畳まれた手も、ピクリともしない。表情も、なにもかも動かない。ベッドの上に置かれている冷たい何かが、ただそのまま冷たいだけだ。


物言わぬ彼女に手を伸ばした。そっとその頬に、指先を乗せるように優しく触れる。そして肌の上を這うように流して、そのまま唇へと向かわせる。でもそのちいさな膨らみは氷のように冷たくて、思わず喉元で悲鳴を上げた。やはりこの冷たい何かは君の肢体で、もっと言えば屍体だ。


「ごめんなさいね、ナユタくん。」


ベッドのそばに小さく腰掛けているおばさんが、顔を腕の中の埋めたままそうつぶやく。


「2日ほど前に、息を引き取ったわ。あなたが戻るまでは、がんばるんだって、そう言ってたんだけれど。ほらあの子、こらえ性がないから。」

だから、耐えられなかったの、とおばさんは言った。最後はもう、煙のように霞んでしまって、声か風かも判別はつかなかったけれど、僕には不思議と、明瞭に聞き取れた。目の前には死んだ女の子と、その母親がいて、僕は病室のどこにも自分の居場所を見出せず、入口の近くでぼう、としているしかない。突っ立っているしかない。

「トウコは、死にましたか。」だからそう呟いた。言いながら自分で息を飲む。息を飲んで。飲んで飲んで。飲みきれなくなった後、やっと涙が出た。君のための涙。それを流しながら、君と見た空の青さを思い出す。君のいないこれからを思う。

ただ灰色の空。

灰色の僕。

僕の好きな人が死にました。

僕の知らないうちに、僕の知らない男に胸を刺されて。

だから僕は灰色。


これが結論。

この物語の、悲しい悲しい終わり方。

そうして始まる。

そうして終わる。

特別なものの何一つない。

僕と彼女のお話。

トウコとナユタの、

殺害の話。









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