表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/45

36 ■間抜け顔■




「到着です」


「……あ、どうも」


 ここまで連れてきてくれた小柄な少女とは対照的な、目の前にそびえ立つ大きすぎる扉。両脇に控えた体格のいい男たちのこちらを見る眼光は鋭い。

 彼らに上から下まで散々舐め回すように見られたあと、扉は嫌な金属音と共に奥へと開かれた。


 城に入れば、本当に逃げられない。


 勇気を出して、一歩踏み出し……ん?


 さっさと行け、という風に男たちはじろじろと私のことを見ている。


 少女は男たちの脇に控え、頭を下げていた。


 えーと、これはもしかして……


「私、お城に来るの初めてで。広間の名前教えられてるけどわからないんです。案内、頼んでもいいですか?」


「えっ……わ、わかりました」


 やっぱり。私を城まで連れてくることは指示されていても、城の中まで案内することは予定外だったのだろう。少し戸惑った様子を見せながらも、彼女は前を歩き始めた。


 だってしょうがないじゃん。この前来たときだって城の中動いたのは逃げるときだけだし、あれもハヤテに引っ張られてただけだし。

 というかさ、普通表まで出てこない? 一応正式な使いとしてここまで来てるんだからさ……


 床にはすべて絨毯が敷かれているため足音はほとんどせず、自分がちゃんと歩いているのかどうかも分からなくなってしまいそうな妙な気分だ。


『大丈夫』


 みんなにそう言って空の国から出てきたけど、足を動かし続けているとだんだん、かなり不安になってきた。


 いや、本当はずっと不安だ。でも何かしてないと、何をすればいいのかわからなくなってしまうから。


 私は小さな背中を追いながら、今回の交渉の手順を頭の中で何度も確認した。









「こちらです」


「すいません、ありがとうございました」


 豪華な広間に通され、そこで待ち受けていたのは――


 間抜け顔。

 口をだらしなく開けたとんでもなく無防備な顔がこっちを見ている。


「皆様、空の国からのお客様をお連れいたしました」


 下を向いたまま早口にそう言い、下がろうとする少女に待ちな、と声が飛ぶ。


「な、なんでございましょう、サリナ様」


 ひくっと身体をひきつらせて振り返る。元々小柄な身体をさらに縮めていて、サリナさんを怖がっていることが一目でわかる。


 わかる、わかるよ。サリナさん、確かに怖かったもんなー……


「空の国からのお客様、ってのは、こいつのことか?」


「は、はい。さようにございます」


「…………」


 私をじろ、と見たまま静止してしまった。

 久しぶりだ、この感じ。蛇に睨まれてるみたい。もちろんこの場合私は蛙なわけだけど。


「人違いじゃない、よね?」


「も、もちろんです。間違いありません」


 あら。メープさんも怖がられてるのね。身内にはばれてるんだ、さすがに。


「あ、そう? ならいいよ、下がって。ごめんね?」


「いえ、あの……では、失礼します」


 にこ、とメープさんが優しく微笑むと、少女はぺこりと頭を下げ、弱々しい態度からは想像できないほどのすさまじいスピードで部屋から出ていってしまった。

 ど、どんだけ怖がられてるの……


「お前、バカか。なんで戻ってきた」


「正式な使いだっていうから、わりとしっかりと準備してたのにねー」


 なっ、失礼な。さっきから、けなされてばっかりな気がするんだけど。


「私が正式な使い、なの」


「だから拍子抜けしてるんだよこっちは。わざわざ迎えまでやったのが、バカみたいだ」


 そう言いながらサリナさんはひとつにまとめていた髪の毛をほどき、手ぐしを通している。

 真面目に交渉する気をなくしたかのような態度だ。

 くっ、腹立つなあ、もう。


 呆れやらイライラやら、いろいろなものが混じった視線の中にひとつだけキラキラとした視線を感じる。


「いや、僕はツムギが来てくれて嬉しいよ! また会えて、本当によかった」


 満面の笑みを浮かべる王子様だ。もう周りにキラキラオーラがあふれでてしまっている。


「何の情報もないから心配してたけど、無事帰れたんだね。手紙くらい送ってくれればよかったのに」


 いや、ちょっと無理がありますよそれは。王家に手紙出せるって私どんな身分なんですか。


 すみません、と笑いながら心の中で突っ込みを入れる。


「私も王子様に会えて嬉しいです!」


 言葉を交わす私たちの隣でサリナさんが盛大にため息をついた。

 あからさまもいいところだ。


「よしなよ、サリナ。相手がツムギちゃんでもやることは変わらないだろう。夕食をとりながら話をしよう」


「あーあたしは勘弁してよ。こいつと一緒に夕食なんて信じらんない」


「サリナ、ごはんは多くの人と食べるのが旨い、と教えてくれたのはお前だぞ?」


 王子様がいたずらっぽく笑う。ぐっとつまったサリナさんを見ると、メープさんが奥の扉へと歩き出す。


「じゃ、みんなで向こうの部屋へ移動しようか」











 移動した部屋にあったのは白い布のかかった丸いテーブルと長い背もたれの椅子。テーブルの上には豪勢な料理がたくさん並べられている。


「さて、無駄話はいらないだろう? 早速本題に入ろうか」


 全員が椅子に座るとメープさんがそう言った。世間話をしてから話すのかと思っていたけど、そんな野暮なことはしないようだ。


 私としても助かった。このメンバーで会話を弾ませられるほど、話し上手じゃないもの、私。

 メープさんの言葉にこくり、と頷いて一息吸うと、私は口を開いた。


「戦を、やめてほしいの」


「別にまだ戦っているわけじゃないよ?」


「仲が悪いだけ、なんでしょう? 殺し合いなんてしてない、って前も言ってた。でも、このまま行けば必ず血が流れる」


 私が話しはじめても、三人とも動かし始めた食事の手を休めることはない。

 いくらごはんを食べながら、なんて言っても、人の話を聞くときくらいはやめてほしい。

 王子様は形式的にこの場にいるだけなんだろうからいいとしても、サリナさんとメープさんくらい、真剣になってくれてもいいじゃない。


「話を聞いたの。宣戦布告したって」


「へぇ、そんなこと知ってるの。そういえばツムギちゃん、どんな身分?」


「私はただの一般人よ!」


 ……少なくとも、今はまだそう思わせて。


「あ、そう? ……とりあえず食べなよ。冷めちゃうから」


 突かれたくないところを突かれ、反撃する意欲も失った私は渋々と目の前に並んだ料理を口にする。


「ん、美味しい……!」


 見た目からして美味しそうだったけど、これまた反則的に美味しい。

 次々と口に運ぶ。そりゃ食事の手も休まらないわけだ……


「……毒入ってるかもとか、考えないわけ」


「えっ? 入って、るの?」


「バカ。入ってたらそんだけ食べた時点でアウトだよ」


「……」


 いいよ、もう。黙って食べるから。

 半分ふて腐れたところで、サリナさんがまた口を開いた。


「……まあ、そっちが宣戦布告だって受け取るならそうなるんじゃない」


「なっ」


「少なくとも、王家からの命令はしてない。聞いたこともない」


「言うとしたらうちの民がイタズラしてごめんねー、ってことくらいだねー」


「そんな……! でもあんな大規模なこと、誰でもできる訳じゃないんじゃ……」


「おっと、根拠のないこと言われても困っちゃうねえ。ツムギちゃん、うちの民に会ったことあるの?」


 それは……ない。


 私が言葉につまると、メープさんは少し笑って立ち上がった。


「今日はここまでだね。王子の就寝時間はもう過ぎてる」


「別によい。大事な話だろう?」


「よくありませんよ。王子より大事なものなど、ありません。国を背負う身なんですから、体調管理の術は早いうちに身に付けておかなければ」


「む……」


 うわーすごいお小言。こんなに言われてストレスたまんないのかな。


「ツムギちゃん。続きは明日の朝ね。君の部屋は用意してあるから、この部屋を出たところに控えてる女の子に連れていってもらって」


「……はい」


「あ、食べたいならまだ食べててもいいよ」


 いつの間にか見覚えのある男のひとが出てきて、王子様を連れていき、メープさんもすぐに姿を消した。


 食べてていいって言われても、ね。


 そりゃこんな美味しい料理だったら、目の前にいるこのひとみたいに本当にお腹がいっぱいになるまで食べたいけど、よそ様のとこでそんなことは……


「……なに」


「よく、食べるんですね」


 このひとみたいに周りの目を気にせずにぱくぱくやれたら、どんだけ幸せなんだろう。

 サリナさんは私のことを鼻で笑って、やっと最後の一口を口に入れるとすぐに立ち上がった。


「あのサリナさん……!」


 チャンスは、今だけだ。


「よかったら、受け取ってくれませんか」


 差し出したのは赤いチャイナドレス風ワンピース。昨日ばば様にアトリエを借りて作っていたのはこれだ。

 ドレスというにはカジュアルだが、セクシーさは抜群。そして肌の色とよく合うように、鮮やかだが落ち着いた赤色。


 右側の膝上辺りまで動きやすいようにスリットをいれ、これによりセクシーさもアップさせる。ところどころスパンコールのような輝く石をつけ、私の得意な刺繍で花を添えた。

 それでも派手すぎると嫌われることを避けるために、石と刺繍は生地と同じ色みの赤を使った。


「……お前、まさかほんとに」


「はい、作りました」


 一晩で仕上げたけど、手を抜いたところなんてひとつもない。むしろ集中して作ったから今までで一番の服になった自信はある。

 現時点の私にできる最高の服だ。


「お前……バカだな、ほんとに」


 そう言いながら光を透かせるように、私に背を向けてワンピースを掲げている。


 あれ。もしかして、笑ってる?


「まあ、せっかくだからありがたく頂いとくよ。じゃあね」


 ちゃんと顔は見られなかった。でもほんの少しだけど、いつもより口元が優しく緩んでいた気がした。


 よかった……

 なんとか喜んでもらえたみたいだ。


「そういえばお前、あの日大丈夫だったのか」


「え?」


 扉を半分開けたところで、サリナさんは振り返った。


「メープのやつ、そっちに向かったろ」


 あ、逃げ出したあとで、森で襲われたときのことか。


「はい。もう、ほんと……怖かったです」


「一応止めたんだけどなあたし。悪かったね、不意討ちみたいなことになって」


 サリナさんは頭をかくと、少し苦笑いしながらそう言った。


「……」


 あれ?


『サリナを連れてきたらやりすぎるから、置いてきたんだよ』


 メープさん、そう言ってたはず、だよね……


「ま、仮にも敵国に乗り込んでるんだから、気つけなよ」


 私がまだ返事をしないうちにきぃ、と扉の開く音がしてサリナさんは姿を消した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ