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28 ■帰還■


 あれ、あんまり怖くなかった……


 というより、気づけば周りの景色が変わっていた。

 風に乗るのはあんなに怖かったのに、飛ぶのはあんまり怖くないんだ……


「ってーな、早くどけよ」


「へっ……? あ、ごめん!」


 気づけば私はまたハヤテの上に乗っかっていた。

 でも今のって、私のせいじゃなくない……?


「やっと帰ってきたな……」


 太陽は輝き、風は爽やかに私たちの間を通り抜けていく。

 飛んできたのは、二人で一緒に花火を見た場所だった。周りの屋台とかがなくなってだいぶすっきりとしているけれど、時計台の見える方角や地面に生えた草花が確かに祭りの日にいた場所だってことを示している。



 いたっ、と聞きなれた声が背中から聞こえ、続いて足音がする。


「ハヤテ! ツムギさん!」


「ハルトくん……リンちゃん……」


 二人は私たちのもとへたどり着くと膝に手をついて、息を整えた。


「二人とも、なんで……」


「リンが風の声聞いたって言うから、僕慌ててみんなに知らせて……ね、リン」


「うん……たぶんそのうち……みんなも、来ると思うよ」


 肩で息をしながら、二人は笑顔を見せた。


「ハヤテさんですよね、風に声乗せたの」


「……あぁ」


「途中で途切れちゃったけどハヤテさんの声だったから、きっとそうだと思って」


『広場にツム……』


 風に乗った声はこだまのように何度も響くらしいが、途中で途切れるから半信半疑だったそうだ。でもその声がハヤテのものだと気づいて急いで一緒にいたハルトに知らせてやってきたというわけか。


「それはこいつが途中で……」


「ツムギっ」


 ハヤテがなにか言おうとした途端、違う声がハヤテの言葉を遮り、ハヤテは露骨に顔をしかめる。


「コユキちゃん! サユキちゃん!」


 二人はいつもの綺麗なツインテールもせずにぼさぼさの髪の毛を振り乱して駆け寄ってきた。


 二人とも無事だったんだ。私みたいにさらわれてたらどうしようかと……


「ツムギ……ほんとに、ごめん!」


 二人は私のもとへ来た瞬間、勢いよく頭を下げた。

 ハルトくんとリンちゃんも気まずそうに顔を背けている。


「え、なんで、謝るの?」


「……あたしのせいなの! ツムギが襲われたのは、さらわれたのは、あたしたちの……」


 どういうこと? 私が地の国へさらわれたのが、コユキちゃんたちのせい?


「サユキがあいつらにさらわれて、あたしがツムギのことを……」


 ……あのとき、様子が少しおかしかったのはそのせいだったんだ。

 てっきり子供たちがいなくなって動揺してただけだと思ってた。


「私を地の国に売った、ってこと?」


「違う! あたしが気を抜いてたから悪いの! コユキを責めないで」


 続いてサユキちゃんが声をあげる。


 ちらりと横に目をやると、ハヤテはそっぽを向いていた。ハヤテは、知っていたんだろうか。


 目を戻すと二人はまた頭を下げている。地面にはわずかに水玉模様が見えて、震える二人の背中からも二人が泣いていることがわかる。


「別にいいよ。なにもされてないからさ」


「え……」


「ツムギ。もっと怒ってもいいんですよ」


 ふと気づけば傍らにはウレンさんがいて、厳しい顔つきで私のことを見つめている。


「ううん、ほんとに怒ってないの。それより、サユキちゃんが無事でよかったよ」


 きっとハヤテが先に私に話していても、私は同じ答えを出していたはず。

 ハヤテは分かってたんだよね、きっと。


「コユキちゃんもサユキちゃんも、変に気負わなくていいから。今まで通り、仲良くして?」


「なんで……あたし、ひどいことしたのに……」


「自分の家族のためだったら、誰だってそうすると思うよ。もちろん私だって、そうすると思うし」


 もし、誰かを引き渡してお母さんが帰ってくるなら、ひどいかもしれないけど私はその誰かを引き渡してしまうと思う。


「でも、ひとつだけお願い」


「なに?」


「なんでもするよ。ツムギためなら」


 二人は決意のこもった目で私を見つめた。別にそこまで必死にならなくてもいいんだけど。


「私の修行に付き合って? 私も、強くなりたいの」


 私も強くならなきゃ。自分の身くらい、自分で守れるように。

 二人は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにその意味を理解したのか力強く頷いた。


「わかっ……」


「待ちなさい」


 ウレンさんが厳しい口調で口を挟む。


「あなたたちには自分たちのの修行があります。2つを一気にやるのは力的に限界ですよ。ツムギ、そのお願いは……」


「嫌です! なんでもするって決めたんだから」


「限界なんてないよ!」


「あなたたちがそんなことをするなら、代わりに私がやりましょう」


「それじゃ意味ないっ」


 三人が激しい言い合いを始めてしまった。そんなに無理なお願いじゃないと思ったんだけど、駄目だったか……

 雨の民一番の切れ者だって言われてたもんね、修行だって大変じゃないわけがない。


「冷静になれ」


 ハヤテがふいに口を挟む。少し低めのよく通る声。たいして声を張ったわけじゃないのに、三人は言い合いをやめてしまった。


「根本的に無理だ。こいつは雨の民じゃない。お前らの術を習得するのは不可能だ」


「あ……」


「お前らは服のことでも手伝ってやればいいじゃねえか」


 今どんなものが流行ってるのかとかデザインのこととか、教えてもらえば……


「それ嬉しい! コユキちゃんとサユキちゃん、すっごくおしゃれだし!」


「いいの? それで……」


「うん!」


「でもツムギ。修行はどうするんです? 一人ではあまり出来ないでしょう」


 今はこんな格好だけどね、と苦笑いする二人の隣で、私のお願いを断ったのは自分だと言うのがあるのか、ウレンさんは心配そうに私の方を見つめた。


「俺がやるよ」


「え?」


「俺がツムギの相手するって言ってんだよ」


 ハルトくんがずるい、と声をあげるがハヤテはさっと睨み付けて店があるだろと一言で片付けてしまう。


「こいつ黒髪だし、たぶん風の民よりだろ。まだ望みはあるからな。それに……」


 一瞬目を泳がせるとハヤテは続けた。


「いや、別になにも。とにかく、俺が付き合ってやるからこっちは心配すんな」


「私もいけるときには様子見に行きますね」


 ウレンさんも少しほっとした表情で言った。


「ツムギ、頑張ってねっ」


「頑張ってねってお前ら、完全に他人事かよ」


 ハヤテが呆れたように呟くとコユキちゃんたちは揃って唇を尖らせた。


「えーだって私たちが頑張るんじゃないしー」


「あ、私たちも頑張るから、頑張って、だね!」


 二人は気づけばいつも通り。やっぱりコユキちゃんたちはこの方がいい。










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