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19 ■いや、人違いでは……?■




 ん、眩し……


 気がつくと、ふかふかの大きなベッドに寝かされていた。体を起こすと、ふわりと木の香りがする。

 すぐそばには大きな窓があって、太陽の光がさんさんと差し込んでいる。外にはひたすら森が広がっており、鳥たちがさえずる声が聞こえている。


「お目覚めになりましたか、裁縫師殿」


 窓とは反対の方から声がしてそちらに目をやると、ドアのそばに立っている男性が目に入った。

 男性にしては長めの髪は深い緑色。濃いめのグレーのスーツを着ている。長身にその細身のスーツはすごくよく似合っている。

 そういえば、この世界にきて初めて、洋風の服を着ている人を見たな……


 足音をたてずにベッドのそばまでやってきた彼は、少し心配そうな顔をして私の目をのぞきこんでいる。瞳の色も髪と同じ深い緑色だ。

 鼻筋も通っていて、私の目をのぞきこむためにかがむと少し垂れる髪の毛が色っぽい。

 すっごくかっこいいひとだ。……じゃなくて。ちょ、近い近い。


「気分が優れないなど、ございませんか」


「な、ないです。大丈夫です」


「あ、心配しないでください。襲ってなんかないですので」


「へっ? ……あ、はい」


 何を突然。

 丁寧な言葉遣いに上品な身のこなし。そして長身イケメン。この人の口からそんな言葉が飛び出すと思わなかった。


「……え、えと、あの……ここは、どこ……」


「ここは、地の国の王宮でございます」


「地の国……?」


 初めて聞いた。いや、違う。確かこの世界へ来たとき、ばば様が口にしていた気が……

 他になにか詳しいことを聞いたことがないかと記憶を探るが、結構時間がたってしまっているうえに寝ぼけているせいか、全然思い出せない。


「……まさか、ご存知ないのですか?」


「……すいません」


 自分の国のことを知られていないというのは、さほど愛国心豊かな者でなくとも気分を害するものだ。

 私は腹をたてられることを覚悟して頭を下げた。


「それはなんと……」


 そう言ったきり沈黙が続く。これはまずいな。きっと、なんてやつだってなじられ……


「そっか、知らないか。あはははは……その可能性を忘れてたよ。なら、もうちょっと丁寧な方法もあっただろうにね。ごめんね、ははは」


 いや、わけわかんない。彼は突然笑いだし、さっきまでの丁寧すぎる言葉遣いはどこかへ飛んでいってしまったようだ。


 私が困惑の渦にのみこまれ、彼がひたすら笑い続けていると、ノックもなしに扉が突然開いた。


「メープ。客人じゃあるまいし、何を丁寧に挨拶なんかしてる」


「たまにはいいじゃないか。こういう話し方をしてみるのも、案外面白いよ。くく」


 いたずらっぽく笑うメープと呼ばれた彼。さっきまでの丁寧な言葉遣いは暇潰しの遊びだったということだろう。

 こめかみをおさえ、ため息をついている女性にはなんとなく見覚えがある。


「それにサリナ。あんた、彼女に謝らなきゃいけなくなったみたいだよ」


「は? なぜ私が」


 そうだ、私この女の人に襲われたんだ……やっとはっきりと目が覚め、その事実を思い出すと頭の中にあのときの映像がフラッシュバックしてきた。

 自分に向かってきた砂の塊。意識が遠のきそうになったとき、サリナと呼ばれた女性が再び口を開いた。


「お前に会いたいと仰せの方がいらっしゃる。目が覚めたのなら、早く準備しろ」


 そう言い捨てるとすぐに去っていってしまった。

 あんたが私を拉致してきたくせに。目が覚めたのなら早く準備しろって、何よ。


「彼女はサリナ。最初はちょっと怖いかもしれないけど、まあ悪いやつじゃないから心配しないで」


 とりなすようにメープがそう言ったが、自分を襲った相手を恐れるなという方が無理だろう。悪い人じゃないなら襲わないでしょうが。

 それに、目覚めたときにそばにいて、助けてもらったような錯覚にとらわれていたが、よく考えればこの人だって敵なのだ。


 それにしても、なぜ私を。


 私が怒りにも恐怖にも震えていると、その様子を見て、またベッドのそばに近づくと私の肩に手をおいた。


「僕はメープね。よろしく」


 彼はきらっと効果音がなりそうな笑顔になって、ウインクした。








「こやつが、あの裁縫師かっ!」


 入り組んだ王宮をメープさんに案内されて移動し、大きな広間にたどりついた。広間には様々な装飾品がかざってあり、ここが王宮であることをやっと意識する。


 私の目の前にいるのは肩あたりまで伸びた金髪をふわふわとさせた少年だった。金色の瞳は私を見てきらきらと輝いている。


 って、私? なんで私を見て目を輝かせてるわけ?


「こちらは我が国の王子であられる。王子は空の国から密輸されるrainbowというブランドの服を見て、作った人物に会いたいと仰せであった」


 少年、いや王子様の隣に控えたいかつい風体の男性がそう告げる。


 お、王子様……私に会いたいだなんて、そんな、光栄です……


 じゃないよ。ちょっと待って。理解できない。どうしてこうも理解能力が低いかな、私。


 まず、突っ込みどころが多すぎる。

 作った人物を間違えてますよ、あなたたち。私、まだそんなに服作ってないし。rainbowの服のほとんどはばば様の作った服だよ?

 それに、密輸って言ったよね。それも王子様の前で。もし王子様関係なくても、この王宮うろついてるってことは常識的に考えても国の重要な人たちですよね。……そんな人たちが認めちゃってるじゃん。それもう密輸じゃないじゃん。


「おい娘。いつまで頭をあげている。さっさと頭を下げて、名を名乗れ」


 姫様の横で偉そうに胸を反らしている男が鋭い目付きで睨んでくる。

 でも、私、名乗る必要あるのかな。だって……


「いや、あの……人違いだと思います」


「……は?」


 その場にいた全員が間抜けに口を開けたが、サリナさんが真っ先に声を荒げる。


「そっ、そんなはずがあるか!」


「サリナ。王子の前だ」


「なんじゃ、どういうことだ? サリナ、こやつは裁縫師ではないのか?」


 王子様が困惑した様子でサリナさんの服を引っ張る。


「王子、申し訳ありません。しばらく、お待ちください。……おい、お前、ちょっと来い」


 サリナさんは頭を下げると、きっと私を睨み付けると手を掴んで広間から連れ出した。







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