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10 □争いと和解□


「お前が、止めてやってくれ」


 誰にも止められないと言いつつ、俺なら止められるけどなと思う。まあそれはガチの時。


 しばらくは無理だよと言っていたが、雨の双子たちにも背中を押されてツムギはそろりと一歩踏み出した。


「あの……」


 馬鹿か、こいつ。止めろと言ったのは俺だが、本当に止めようとするなんて。もし本気の時だったら死ぬぞ。

 ……まあ、止めようとしてくれないと困るんだが。


「喧嘩は、あんまりよくないかと……」


 ツムギの声は距離と言い合いの声に負けて、全く届かない。


「そんな声じゃ聞こえるわけないだろ。離れすぎ」


 きっとこちらを睨み付けるその目からは「じゃああんたがやりなさいよ」という台詞が聞こえてくるようだ。


 だめなんだよな、それじゃ。お前が止めなきゃ意味がない。お前が止めようとしなきゃ意味がないんだよ。


 そうこうしている間に二人はどんどんとヒートアップしていき、周りの人々も彼らを恐れてわずかにだが後ずさっている。

 当たり前だ。二人の力は皆が知っている。


「表出やがれこの野郎!」


「もう表ですよ。今日は広場でやってるんですから」


「うるせぇっ」


 熱くなり、顔を真っ赤にしているヒナタとは対照的に、ウレンは変わらず微笑んでいる。


「全く、穏やかならないですねぇ。せっかく伝説の少女がお見えになっているというのに。……ね、ツムギさん」


 ツムギに顔を向けずさらりと言うウレンに気づいてたの、とツムギは薄ら笑いを浮かべたが周りは違う意味でひきつった笑みを浮かべていた。

 ウレンは一度もツムギの方を見なかった。それなのに、なぜ……

 俺は種を知っているからなんとも思わないが、一般人からすれば恐ろしすぎて歯の根も合わないだろう。


「あの、お二人とも、喧嘩は、よくないかと……」


「いくら伝説の少女だろうと、俺は侮辱されたんだ。簡単に引き下がるわけにはいかねぇな」


 ツムギはほら、と言う風に俺の方を見つめる。私なんかで止められるわけない、と非難の色が見える。


 お前なんかが首を突っ込んで収まる喧嘩なら、まず喧嘩にならねえよ。


 心のなかでさっき口にしたことと逆のことを思うがそんなこと教えてやるわけがない。

 助けてよ、という意味合いのの視線も感じる気がするがそんなものはきれいにスルーだ。


「じゃあ、伝説の少女の前で、どちらが強いか見てもらいましょうか」


 嘘、と双子が声をもらす。今までこんなことはなかったのに、と驚いている。

 当然だ。いつでも冷静沈着。頭のキレるウレンがこんなことを言い出すなんて明らかに異常事態だ。


 ゴオオゥッ


 返事もなしにヒナタが火だるまを飛ばす。大きさこそないが、かなりの高温であることは辺りの温度が一瞬であがったことからすぐに分かる。


 ジュッ


 さっと水の玉をぶつけて火を消したウレンがヒナタに向かって不敵に笑う。


「おや、突然攻撃とはこれはまた……」


「勝負なんだろ。なら、遠慮もマナーもあったもんじゃねえ」


「そうですか。その言葉、口にしたことをどうか後悔しないように」


「するわけねえだ……――ろっ」


 ゴオオオオオオウッ――ジュジュッ


 話し終わった瞬間には火玉が飛ぶがまたしてもウレンはさっと水の壁を作りだし、消してしまう。


 小ぶりの火玉を数多く飛ばし、大きな火玉を飛ばし……


 水の壁で防ぎ、水の玉を自在に操り……


 さすが、それぞれ長なだけある。すごいパワーだ。むしろ、いつもより強力なパワーが出ている気さえする。


 辺りは高温になったり、湿度が急に上がったり、散々だ。

 周りの人々は本格的にパニックになり、逃げ惑い始めた。


「やめ……ださ…………」


 ツムギはまだ小さな声でぶつぶつと言っている。だから聞こえないって。

 やっぱお前には無理だったか。俺の見当違いかな……


「やめてって言ってるでしょーーーーーっ!」


 突然辺りに響き渡る大声をあげたツムギに人々は静まり返り、視線が集まる。

 もうすでに飛ばされる直前にあった火玉とその場に現れかけた水の壁は一瞬で消え去った。


 ぞくぞくする。


「なにがあったか知らないけど、みんなを巻き込むのはやめなさいよ、危ないじゃない! 火はびゅんびゅん飛んでるし水しぶきはかかり放題だしっ」


 私なんか見てて意味わかんないのに、とぶつぶつと言ったあと、またすっと息を吸い込むと大声をあげた。


「とにかくっ! 喧嘩するならよそでやってっ!」


 辺りが静まり返るのにも構わず、ツムギはそばのテーブルに乱暴に座り込み、手元にあったサンドイッチを頬張った。


「案外勇敢なお嬢さんですね、ツムギさんは」


 静まったその空間のなかで、初めに動き出したのはウレンだった。嫌みたっぷりに聞こえるその言葉に今さら我に返ったのか、ツムギはあたふたとし始める。

 確かにお前、二人の長相手に敬語もなにも使わなかったんだもんな。……やっぱり馬鹿だ。


「あ、いや、その……ごめんなさい」


「すまなかったな」


「……え?」


 いつの間にかウレンの傍らにはヒナタがいた。気まずそうに鼻の頭をかいている。


「お前のおかげで我に返ったぜ。俺たち長なのに、みんなのこと考えずにぶちギレちまった。ったく、大人げねえや」


 ツムギはえっと、とかその、とかぶつぶつ言いながらわかってくれたならいいんです、と小さくなっている。

 それもそのはず、長の喧嘩を止めたということで周囲の目は徐々に尊敬の眼差しへと変化している。


「今度はなんの騒ぎですか」


 静まり返っていた広場に一人の男が現れる。またもやコンターレの店長だ。


「あっ、いや、なんでもねえ。なんでもねえよ」


 周りを見ればなんでもないのは明らかだ。椅子や机は焦げ、倒れている。

 しかし店長はギロリと周囲を見渡して全てが片付いたのならよいですが、と背中を向けた。よくわからない男だ。


「あっちゃー……これ、俺らが片付けなくちゃならねえみたいだぜ」


「俺ら、というのは、ヒナタと誰を指すのです?」


「そりゃもちろん俺とおま……」


「寝言は起きているときに言うものではないですよ、ヒナタ」


「なっ」


「机や椅子を焦がしたのはすべてあなたです。私はあなたが放った火玉から身を守るため消しただけで攻撃はしていません」


「せっこいやつだな、おい」


「事実を言ったまでですよ?」


 双子たちが隣でクスクスと笑っていた。






「ねえ、ハヤテ。ツムギさんって、いい人だね」


 頼んでいたサラダを持ってきたハルトが俺を見上げてそう言った。

 お前は付き合ってもらってたもんな、毎朝。そりゃその女が喧嘩止めるところを目撃したら……さぞかし面白い展開になるだろうな。


「そうか?」


 適当に返して、サラダを頬張る。シャキシャキの新鮮なサラダはうまいけど、俺の腹を満たすことはない。まあいいさ、帰ったら肉食うから。


「聞いて、僕ね、火をつくれるようになったんだ。ツムギさんのおかげ」


 悪いけど知ってるよ…

 そう思いながらさっとうなずき、立ち上がる。


「それなら早く俺に火の通ったものを食わせてくれ」


「なにそれ、ひどいなー」


 そんなこと言うなら、お前も毎日サラダばっかり食ってみろ。


 そう思いながら背中を向けた。まだ、ひとつ、行くところがある。





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