11.街に、入れない
カレーを食べて門に向かう。
余談だが器も魔法で創造したものだから洗い物もしなくていいし本当に楽だ。
旅とか長くなるとだんだん面倒になってくるからな。
石壁で作られた門が見えてくる。
俺の視力で見るとどうやら門から端までは5kmくらいのようだ。
それほど大きな街ではないな。ウミも砦のようなものと言っていたから本当に前線基地のようなものなんだろう。
その代わり高さは6mほどあり、外敵の侵入を防げるようになっているようだ。
見える限り門は1箇所かな?1頭で牽いている馬車がやっと通れるくらいだからそれほど横幅はない。逃げるときとかどうするんだろう?裏門とかあるのかな?
門の両脇には鉄と思われる鎧を着た衛兵が立っている。なにか見せているな、あれが身分証明書か。
ない場合どうすればいいんだろう?ウミがのんきそうにしているからあまり心配していなかったが最悪暴れればいいか。
そんな事を考えているとウミが俺の顔を覗き込んできた。
「何を考えているかだいたい分かるけど心配しないようにね。この僕にお任せだよ!」
そう言ってそれほど大きくない胸をどんと叩く。
可愛い、抱きしめよう。そしてキスしよう。
ウミの顔が蕩ける。
「ウミ、蕩れ」
「なんだい、それ?」
「俺の世界で最上級に可愛いって意味だ」
「ふーん、そうなんだ?それは嬉しいね。キミに嫌われたら自死する自信があるからね」
「それは考えなくていい。俺はウミがとても魅力的だと思っている。どうか俺の方こそそばに居てくれ」
「それはもちろんだよ。それで、さっきの話だけど僕に考えがあるから任せておいてよ」
「ああ、楽しみにしておこう」
門の順番待ちをしながらそんな話をする。
突然いちゃつき出したためか周りの有象無象から視線が注がれていたがそんなものは何も気にならない。
俺の目にはウミしか見えてないからな。
そうしていると門番二人ががちゃんと音を鳴らしながら槍を交差させ道を塞いでくる。
「止まれ!見慣れない顔だが身分証明書を見せろ!」
「ああ、すまないが二人揃ってライセンスを失くしてしまってね。再発行のためにギルドに行きたいのだが通してもらえないかな?
「何を馬鹿なことを!AVRは冒険者にとって命の次に大事なもの!そんな物を失くすはずがあるか!」
「そう言われるとこちらとしても失くしてしまったとしか言えないのだけれどね。先程ジュリア某にも話しておいたのだけれど・・・。あまり期待しないほうがいいか、疑ってたし。それじゃあ確かアズールというものを呼んできてもらえないか?5年前の約束といえばわかるはずだ。アズールが何も知らないと言ったらおとなしく帰るよ」
「アズール?まさかギルドマスターか!?お前みたいな不審者と知り合いとは思えないが・・・。しかし日頃から俺を尋ねるものがいたらどんな不審なものでもとりあえず声をかけろと言っていたのも事実。ちょっと待っていろ」
俺、置いてきぼり。ウミさん偉い人に知り合いいたの?話を聞いててそれしかわからなかったがどこで知り合ったんだろうか?俺と会うまで化け物だったのに。
向かって右側の門番Aが詰め所のようなところに入って少しすると再び現れた。
「すぐに来るそうだ。俺たちは他のものの対応があるから邪魔にならないところでおとなしく待っていろ!」
しかし別にいいんだけど、コイツラさっきから偉そうだな。仕事なんだろうけどこういうポジションパワーを大きく出してくるようなやつは嫌いだな。まぁウミの顔を立てて大人しくしておくか
「僕の空になんて口の聞き用だ。こんな街滅ぼすのに5分もかからないんだぞ、今からでも滅ぼしてやろうか・・・」
と、思ったらウミの方が限界に来ていた。こんなに可愛いから忘れがちになるけどもとは化け物だしな。今まで我慢とかもしたことないんだろう。少しずつ人間世界の常識を教えていってやろう。
「ウミ、俺は気にしてないからあまり怒るな可愛い顔が台無しだぞ?もちろんウミに危害を加えるようなら俺が秒でこの街滅ぼすがご当地グルメとかも気になるしな。もうちょっと様子を見よう」
「ゴトーチグルメ?キミは時々よくわからない言葉を使うね?キミが言うなら僕は何も気にしないことにするよ。しかしキミが言うと本当に秒で滅ぼせそうだから自信なくすよ」
「俺だからな、自信を失くすことはない。実際枷を外さなかったら負けていたからな。生まれてから一番の苦戦だったかもしれない」
そんな事を話していると男がこちらに向かってくる。
禿頭、巨漢、筋肉質か。人間にしては強そうだな。40代といったところか。碧眼でコーカソイド系の顔立ちのため実年齢はわかりにくいが。体感にも芯が通っているし、ギルドマスターと呼ばれるだけのことはあるだろう。
「5年前の約束とお聞きしましたがあなたが黒鴉なのですか?」
そういって俺の方に話しかけてきた。
ん、なんのこと?