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帰りたい、ああ帰りたい、帰りたい。……  作者: 黒十二色


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読経ステレオ遊園地

  ★


 道中、一匹で散歩中の犬からも飛びかかられて、べろべろとなめられた。


 さんざんな目にあっている。


 ちくしょうなめんじゃねえよと言いたい。


 でもその前に風呂に入りたい。


 さいわい、地形は大きく変わっていないように見えたので、俺は自宅に向かうことにした。20分も歩けば風呂が待ってる。


 もしかしたら未来の自分に出会ってしまうかもしれない。


 まだ生きているんだろうか。このふざけた世界観では、タイムパラドックスはどう処理されるんだろうか。


 なんて、そんな心配は必要なかった。


 遊園地になっていたからだ。


 俺の家があった敷地は、間違いなく、この遊園地の中だ。


 雰囲気こそ遊園地っぽくはない東洋風の建築ばかりなのだが、大きなジェットコースターや観覧車が見えたし、入り口のゲートが明らかに遊園地のそれだし、入り口の奥には、テーマパークの全体図を示した巨大な地図が見えている。


 俺の家が残っているとしたら、立ち退きを拒否した飛び地みたいになった形だろう。俺がそんな選択をするとは考えにくい。


 ゆえに、これは、あまりに望みが薄い。それでも望みがないわけではない。俺は、わずかな可能性にかけて、入園料を支払った。


 この遊園地について、まず言いたいことがある。ネジやボルトがあちこちに落ちていて、スリルをあおってくる。


 しかも、お経がめちゃくちゃきこえてくる。


 そもそも、さっき東洋風の構造物と言ったが、もっといえば、全部ね、寺っぽい。


 そのわりに、来園客がわりと多くてアトラクションに並びが発生しているのは、未来は死にたがりがいっぱいいるってことなのだろうか。だとしたらこの未来はだいぶ失敗しているよな。


 まったく、いつからか知らんが、日本は葬式仏教ばかりだ。残念なことにそれは未来でも変わることはないだろう。


 こうしてステレオに響くお経をきいていると、あの世が近づいているのだと錯覚させられる。


 ああ、俺はここで死ぬのだろうか。


 というより、この未来に来てしまったことは、すでに死んでいるんじゃなかろうか。


 いいや諦めてなるものか。俺は必ず自分のいた時代に帰るんだ。


 勇気を奮い立たせ、俺は多くのアトラクションに乗った。


 普通に未来の遊園地に興味があったからということもある。ネジやボルトが落ちていることも手伝って、かなりのスリルを楽しめた。


 そして、ゆっくりと観覧車に乗ったときに、わかったことがある。まずはけっこうな窪地で、観覧車の見通しが悪い。そして四方をお寺に囲まれていた。お経がステレオできこえてきていたのはそのためだ。


 観覧車もそろそろ頂上が近づいてきたところで、突然、知らない声がした。


「――どうだろうか。この遊園地は」


 誰もいなかったはずのゴンドラ内に人間があらわれた。年配の男性である。


「え、どこから出てきたんですか?」


 その人はごほんと咳払いしてから、誇らしげに言うのだ。


「足元のアルミの板が貼ってある謎空間に隠れてたのさ」


「だから何のために」


「愚問だな。決まってるだろう。ドアを開けるためだ」


「中から? 普通、そういうのは外からやりません?」


「おニイちゃん、ラッキーだぜぇ。おれは誰よりもこのテーマパークに詳しいからな」


「うーん会話が成り立たない」


 思わず敬語を失うほどに、俺は苛立ちを覚えていた。


 怒りを収めるために景色を眺めようとしたとき、窓の外を紙片が横切っていったような気がした。


 前のゴンドラを見上げると、頂上を過ぎている最中のゴンドラから、坊主頭の僧侶が花びらの形をした紙をばらまいていた。何事かときいてみると、「観覧車からの散華(さんげ)だな」と答えてきた。


「正月にはゴンドラに力士を詰めて餅でも撒いてそうだな」


「その通り。さすが」


「おい、その通りなのかよ。こわいよ。けっこうな高さから落とすから当たったら怪我するよ」


「ええ、毎年救急車が複数待機しております」


「日本の祝賀イベントは狂気だよ」


「おや、今ごろお気づきで?」


「まえまえから気付いてたよ。人間は特別な日に変になりたがるんだよ。だから日常的にこんなことをしてるお前らは本当におかしいよ」


「またまたぁ」


「なれなれしいな。急に距離縮めてくんな」


「ふふっ、なかなかのツッコミです」


「これが未来の会話ペースか。この世界で生きていけるだろうか」


「いいんですよ。あなたはそのままで」


「あっ、まてまて、この世界で生きたくないよ! あぶない。一瞬とらわれかけた」


 そして、頂上付近になったところで、俺はたずねた。


「俺も、何かばらまいた方がいいかな」


「お客様の自由です」


「さっき行ったスーパーのチラシでも投げとくか」


 そうして俺はポケットから薄汚れたチラシを取り出し、手早く紙飛行機をつくって投げた。ふわっと浮かんで空に飛んで行った。


「かなりの重罪ですよそれ」


「それって、どれだよ」


「観覧車から許可なくものを投げるのは」


「じゃあ止めてよ。何で止めないんだよ。投げた後言っても遅いんだよ。お前が自由とか言ったんだろ。ゴミ投げ捨て幇助罪だよ」


「うわ、あららら、スーパーの店員が心をこめて作ったチラシをゴミなどと……」


「罪悪感をあおってくるな。『では法廷で会いましょう』とか言いたげな気持ちよさそうな笑顔を作るのをやめろ」


 そう言ったとき、開けた窓の外から騒がしい歓声がきこえてきた。


 ご利益のある紙が配られて狂喜している。何とかして手に入れたいのだろう、客たちは歓声をあげながら落ちていく紙のほうに群がっていた。


 とはいえ、落ちるころには風に流されてだいぶ遠くに散るので、どこに落ちるかの読みと、何投目を狙うかの駆け引きがあるようだ。上から見ると、その様子がわかって――


「楽しいでしょう。こうして紙吹雪を追いかける人間を眺めるのは」


「なんか歪んでるよ。でもちょっと楽しいとか思っちゃったよ。ちょうどいいタイミングで人の心を読むのやめろよ」


「いい反応ですねぇ。これだからボランティアはやめられない」


「給料でてねえの!?」



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