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帰りたい、ああ帰りたい、帰りたい。……  作者: 黒十二色


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1/5

不安定未来スーパー

 違う。


 匂いが違う。飛び交う言葉が違う。行き交う人々の服装が違う。道路の色が淡い。空を見ると、大きなドローンがいくつも飛んで、荷物を運んでいるようだ。


「いや、ここ、どこ?」


 俺の知る地元に似た街並みでありながら、はっきりと違う。


 なんとなく未来感。


 改札を出たら、こうなっていた。


 何かがおかしいと思いながら駅の外に出たら、俺は違う世界にいたというわけだ。


 夢でも見ているのかと思って、自分の手の甲をつねってみる。


「ちゃんと痛い。いや、だが、まだ決めるには早い」


 俺は駅前のコンビニに足を踏み入れた。通行人にこの世界のことをたずねるのはハードルが高い。ただ、店員として仕事中の者だったら、ちゃんと対応してくれると思ったのだ。それに、コンビニはわりと新しめの情報が集まる場所でもある。


 入るなり、俺は心の中でツッコミを入れた。


 ――なんつー格好してんだ。


 二人の店員が並んで立っていた。そのことは別にいい。問題は、その服装である。


 頭にカチューシャみたいのつけて、触角が二つ生えてるんだが、この世界のバイトの制服はそんなのを強制されるのか。嫌すぎるだろ。


 しかも、店に入って、目が合ったのに、「いらっしゃいませ~」もなければ「こんにちは~」もない。どういう教育してるんだ。


 こんな店員と会話したくない。それでもコンビニには新聞がある。俺の記憶では、この駅前のコンビニには新聞が置いてあったはずだ。


 なかった。


 でも、別のもので日付だけは確認できた。見たことのない名前のスーパーのチラシが自由に持っていけコーナーに置いてあったのだ。


 自分が生きているかもわからない、だいぶ未来の日付だ。


 俺は未来に来てしまったのだろうか。帰りたい。


 とはいえ、未来の文化も少しは気になる。ふとチラシの内容を見てみると、安いとは一言も書いていなかった。「甘い」とか、「出る」だとか、「確変」とかいう文字が踊っている。


 なんだよこれ、スーパーの宣伝文句じゃねえぞこれ、と心の中でツッコミを入れた。


 どういうことなのか誰かに聞きたかった。でも触角を装備した店員にきくのは嫌だ。


 俺はチラシを折りたたんでポケットに突っ込み、スーパーに向かうことにした。


  ★


 あーなるほど。はいはい。なるほどね。


 こういう世界になってしまったんだねと俺は失望を禁じ得なかった。


 このスーパー、品物を手に取るたびに、商品に付けられたタグの一部、白黒のバーコードの部分がドゥルドゥルと回転をはじめ、タグを三回タップすると金額が決まるシステムが採用されている。


 早い話が、スロットである。


「スーパーを不安定価格にしてどうするッ」


 俺はついに、声に出した。


 安心して買い物ができないじゃないか。それなのに繁盛してるのは、この未来世界がギャンブラーだらけだからに違いない。


 まったくふざけている。


 見たことない飲料を買うことにしたのだが、紙幣を差し出したら、「ぷぷっwww」と店員が笑っていた。この女の頭にもコンビニ店員と同じような触角がついていた。


「今時wwwwww紙wwwwwwとかwwwwww」


「何笑ってんだ。お前の頭についてる触角のほうがおかしいだろうがよ。頭にまで草はやしてんじゃないよ」


 そしたら、なれなれしい店員は、エプロンのポケットから追加の触角をこれ見よがしに取り出して装備した。合計四本の触角女になった。


「いまどきスマホも持ってないんですか?」


「スマホ? それがスマホ? スマートとは程遠いな」


「えへへ、ツッコミだぁ」


 なぜだかやたら喜んでいる。


「いいから、さっさと買わせてくれ。この甘そうな飲み物はいくらなんだ」


「ええ、では、会計しますね」


 女がレジっぽいものを操作して、何かのボタンを押した。


 どうぞ、とか言ってきた。


 ホログラムでスロットマシンが再現されていた。


「レバーを引いてください。回りますから」


 技術の無駄遣い過ぎる。まともな政治家が消滅したのかな。


 しかし、このままでは会計もできやしない。俺は言われた通り、従うことにして、レバーを引いた。実体はないはずなのに、引いている確かな感覚があった。


 目押しを試みた。


「お客さん、ラッキーですよ。今日は、ワンチャン『出る』日です」


 店員の言葉通り、「777」が出た。


「うわー、大当たり。よかったですね」


「おお、すごい。当たりだと、どうなるんだ?」


「777円です」


「タダじゃないのかよ。その前に飲み物一本で高くない?これが未来の物価なのかよ」


「たくさん買わないからですよ。このスーパー向いてないんじゃないですか?」


「定価いくらなの、この飲み物」


「8銭くらいじゃないですかね」


「8000円? 高ッ。これが未来の物価なのかよ」


 レジ打ちの女店員が「ふふっ」と笑ったとき、スーパー全体に放送が響きわたった。


『ただいまより、二階ペットコーナーで、第11レースが開催されます』


「ギャンブルの匂いしかしないんだが」


 俺は人間の流れていく先に向かった。そこでは本日のメインレースと書かれた看板をもった店員がいて、ウサギ、犬、猫、亀、見たことない生き物がレーンを壁で仕切られて並べられているようだ。


 なぜはっきり断定できないかというと、動物たちを仕切る薄い壁が高すぎて、俺の目ではその姿を確認できないのだ。


 ただ、他の客はその状況に全く違和感を抱いていないようで、おそらく俺にはわからないような仕掛けがあり、レースに熱中できるのだろう。


 そうじゃなかったら、ツッコミが飛び交うにきまってる。


 ペットショップの店員はマイクもなしに、出場選手の紹介をはじめる。


「1枠1番、ウサギ」


「そのまんまかい。名前とかじゃないの?」


「2枠2番、いぬ。3枠3番、ねこ。4枠4番、亀。そして5枠5番、UMA(ユーエムエー)


「未来でも残っていたか、未確認生物(ユーエムエー)。でもレースに出させられているくらいなら、これはもう確認されているのでは?」


 俺の疑問に答えてくれる者は誰もいなかった。


 ふざけるなよ未来。ツッコミに空を切らせるなよ。俺の力だけじゃどうにもならないよ。


 それはそれとして、どの子に賭けるべきだろうか。仕切られた楕円形のコースには、明らかな距離差がある。ここを最初に一周した動物の勝利ってことだが、どう見たって内枠が有利だ。


 オッズは猫が圧倒的だが、1枠1番のウサギ。俺はこの子に1000円を賭ける。


 そして、レースが開始された。ペットショップ店員の手で、スタート板が外され、全アニマルが一斉にスタートした。ペット同士が接触できないようになっているのはいいのだが、壁が高すぎて、やはり見えない。


 レジのスロットではなく、こっちをホログラムにすべきでは? せっかく未来なのに動物レースがアナログすぎる。


「この未来、もしや動物虐待が横行してない?」


 またしても答えるものはいなかった。


 一人何役しているんだかわからないペットショップ店員さんの実況によって、かろうじてレース状況がわかる。


「あーっと、猫ちゃんは自由きままだぁー!」


 猫はスタートから動かずに、ぺろぺろ毛づくろいをしているようだ。


「わんちゃんがリード。圧倒的だ! 独走か? いや? いやしかし、これは? あー、客が持っているおやつの犬用ドリンクに釣られたかッ、コースアウト失格だぁー!」


 ぼーっとしながら実況をきいて、犬は失格か、などと呟きながら腕組をしようとした時、目の前にレトリーバーの口がみえた。俺のほうに突っ込んできていた。


 そいつの視線は俺の手元に向いていた。俺が袋にも入れずむきだしで持っていたペットボトルが気になるらしい。


 まとわりついてきて、のしかかってきて、押し倒されて、腕を甘噛みされて、ついにレトリーバーの牙が、俺の買ったペットボトルに届いてしまった。


「やめろォ、これは777円もした高級品なんだぁ!」


 奪われた。


 犬が器用に牙で蓋をあけた。


 液体がこぼれた床を、犬がべろべろ舐めた。


 その後、顔面をべろんべろん舐められ尽くした後、犬用ドリンクが染みたシャツも唾液でべちゃべちゃにされた。


 自分の全身から、濃厚な犬のにおいがする身になってしまった。


 レースも敗北した。1位は亀だった。未来の亀は非常に素早い。ひとつ勉強になった。


 こんなスーパー二度と来るかと思いながら、俺は退店した。


 とんでもない未来だ。帰りたい。



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