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返事はなかったが、気にした様子もなく、パウロスさんは扉を開けた。
そこには、苦しそうにベッドに横たわる、小さな女の子がいた。
五歳くらいだろうか。胸が浅く上下していて、そのたびに、ひゅ、と小さな音が漏れている。
部屋に入った途端、澱んだ空気が肺に絡みついた。
息を吸っただけなのに、私まで苦しくなる。
こんなに小さな子が苦しんでいるなんて。
見ていられなくて、私は思わず駆け寄った。
けれど、パウロスさんは扉の前から動かなかった。
中へ入ろうともせず、ただ、そこに立っている。
ロディさんだけが、私の少し後ろを追ってくる。
ぴたりと寄り添うわけでもなく、離れすぎることもなく、一定の距離を保ったまま。
どうすればいいんだろう。
祈りって、どこから、どう始めるんだろう。
不安になって、私は振り返った。
ロディさんは一瞬だけ私を見て、小さく頷いた。
それ以上、何も言わない。
……分からない。
でも、考えている時間はなかった。
私はベッドへ向き直り、少女の頬にそっと触れた。
冷たい。
そのまま、細い手を包み込むように握る。
浅く乱れた呼吸が、手のひら越しに伝わってきた。
──祈り。
私が祈るだけで、苦しみはなくなる。
聖女だから。
それだけで、十分だった。
……できる。
目を閉じて、私は祈った。
エレノアちゃんが助かりますように。
この小さな子から、苦しみがなくなりますように。
冷たかった手に、自分の熱がじんわりと移っていくのを感じる。頬に添えた手のひらからも、同じ温度が伝わっていく。
——大丈夫だ。
理由は分からないのに、そう思えた。
このまま手を離さなければ、きっと助かる。
私はただそう信じて、エレノアちゃんが治りますように、と祈りを深くした。
どれくらい時間が経ったのだろう。
二分ほどだった気がする。
遠くから、「おぉ……」という声が聞こえた。
目を開けると、白い光がエレノアを包んでいた。
握った手から、触れていた頬から、光が静かに広がっていく。
彼女の呼吸から、明らかに苦しさが消えていた。
青白かった顔に、ゆっくりと血の気が戻っていく。
「エレノア……!」
声になりきらない呼び声を漏らして、パウロスさんはふらりとベッドのそばに膝をついた。
エレノアを包んでいた光は、だんだんと小さくなり、
やがて、何事もなかったかのように消えていった。
すぅすぅ、と穏やかな寝息に変わったのを確かめて、私はそっと手を離す。
パウロスさんは、エレノアの頬を何度も撫でながら、
「よかった……よかった……」と嗚咽を漏らしていた。
覚えのある気だるさを感じながらも、それでも私は、祈って良かったと思った。




