27
最近、両親のことを思い出す。
順番表は薄くなって、祈りの合間に、何もしていない時間が増えた。
忙しさに追われていないと、考えなくていいことまで、浮かんでくる。
私は、補佐のもとを訪ねた。
部屋は静かで、書類をめくる音だけがしていた。
補佐は顔を上げると、私を見る。
「どうしましたか、聖女様」
「……元の世界に戻った聖女は、いますか」
補佐は、すぐには答えなかった。
一度、視線を机に落としてから、ゆっくりと言う。
「記録の中では……戻った方は、いません」
言い方が、少しだけ柔らかかった。
「一人も、ですか」
「はい。残っている限りでは、一人も」
まるで、言葉を選んでいるみたいだった。
「理由は……」
「はっきりしたことは、分かっていません」
補佐は、私を見る。
「戻りたいと願わなかったのか。それとも、そもそも戻れなかったのか。どちらなのかは……誰にも」
そこで、言葉を切った。
「そうですか」
それで、十分だった。
部屋を出て、廊下を歩きながら、私は、少しだけ息を整えた。
──やっぱり、そうなのだろう。
それなら、それでいい。
窓辺に立つと、ふと、父の声が浮かんだ。
「受け手としては、悪くない体だな」
そう言われたとき、私は、ただ頷いた。
意味を考えるより、それが当たり前だった。
母は、少し笑って言った。
「浄めは、怖くないでしょう?ちゃんと器に馴染んでるもの」
私は、「うん」とだけ答えた。
痛いかどうかより、それが普通だった。
✕✕様の器が終わったあと、私が、受け手になった。
決められていたことだった。
両親は、それを当然のこととして受け入れていた。
あの人たちにとっても、それは自然なことだったから。
「選ばれたんだから。ちゃんと務めなさい」
そう言われたとき、私は、誇らしいとも、怖いとも思わなかった。
そういうものだと思った。
……私の代わりは、もう見つかっているんだろうか。
考えても、答えは出ない。
戻れないのなら、仕方がない。
私は、順番の中にいる。
いつもの通り。
決められた通りに。




