25
神殿の廊下を歩いているだけで、足が少し重く感じた。
ロディさんの隣を歩きながら、私はそれを、昨日の祈りが長かったせいだと思った。
そう考えれば、それで済む程度だった。
廊下の先で、ロディさんが足を止める。
「本日は……祈りの合間に、回復の時間を入れます」
「はい」
私は、特に気にせず頷いた。
昨日の最後の祈りは、確かに少しきつかった。
そういう時間が入るのも、頷ける。
馬車を降りたとき、足に、はっきりとした重さが乗った。
一歩、踏み出そうとして、思ったよりも、体がついてこなかった。
「……少し、待ってください」
自分の声が、いつもより遠く聞こえる。
次の瞬間、視界がふっと傾いた。
「失礼します」
短い声。
気づいたときには、
ロディさんの腕の中にいた。
横抱きだった。
床が、遠くなる。
「……歩けます」
そう言ったつもりだったけれど、
声になっていたかは、分からない。
「今日は、無理をする日ではありません」
低い声だった。
叱るでもなく、責めるでもなく。
事実を、告げているだけの声音。
私は、特に抵抗しなかった。
そうする理由も、思いつかなかった。
運ばれながら、少し黒い空を、ぼんやりと眺める。
揺れが、規則正しい。
ああ、前にも、こういうことがあった。
そう思った。
それだけだった。
最初に向かった家は、神殿からかなり離れた場所だった。
中は薄暗く、窓も小さい。
ベッドに横になっていたのは、痩せた女性だった。
そばにいた人が、小さく説明してくれる。
「……順番が、やっと……」
女性本人の声は、ほとんど聞き取れないほど小さかった。
私は、いつも通り、その人の手を取った。
指先が、ひどく冷たい。
胸の奥で、いつもの言葉をなぞる。
早く良くなりますように
光は、すぐには広がらなかった。
いつもより、時間がかかる。
胸の内側を、ゆっくりと押し広げられるような感覚がした。
私は、一度、息を吸い直した。
それでも、祈りは続けた。
離す、という選択肢は、なかった。
どれくらい経ったのか、分からない。
ようやく光が収まったとき、私は、その場で、少しだけ動けなくなっていた。
「……ありがとうございます……」
女性の声は、さっきより、ほんの少しだけはっきりしていた。
それで、十分だと思った。
外へ出たとき、足に、わずかな重さを感じた。
でも、歩けないほどではない。
「……今日は、少し時間がかかりますね」
私がそう言うと、ロディさんは、すぐには答えなかった。
「……そうですね」
短い返事だった。
次の祈りも、平民の家だった。
その次も、その次も。
どれも、軽いとは言えなかった。
私は、順番通りに、祈った。
空が暗くなる頃には、体の奥に、じんわりとした重さが残っていた。
でも、終わった。
今日の分は、ちゃんと終わった。
「……回復の時間があって、助かります」
そう言うと、ロディさんは、ほんの一瞬だけ、視線を落とした。
「……はい」
それ以上、言葉は続かなかった。
祈れる。
それは、良いことだ。
私は、そう思いながら、馬車の中で、そっと目を閉じた。




