24
目が覚めたとき、体が少しだけ重かった。
動けないほどではない。
ただ、布団から起き上がるのに、いつもより少し時間がかかった。
昨日は、祈りが多かった。
よくあることだ。
鏡の前に立つと、マリアさんが、いつの間にかそばに来ていた。
髪を整え、ブランケットを手に取って、私の肩にそっと掛ける。
その動きは、いつもと変わらない。
慣れた手つきだった。
「本日は、回復日です」
耳元で、静かに告げられる。
「分かりました」
私は、小さく頷いた。
言われる前から、そうだろうと思っていた。
昨日の最後の祈りは、少しだけ長かった。
そういう日には、こういう時間が入る。
そういう仕組みだ。
身支度を終えたあと、私は部屋に戻り、窓辺の椅子に腰を下ろした。
何もすることがない。
本を開こうとして、やめた。
文字を追うのが、少しだけ億劫だった。
代わりに、ただ外を見ていた。
人の行き来は、いつもと変わらない。
神殿の鐘の音も、いつも通りだ。
世界は、何も変わっていない。
「お茶をお持ちしました」
マリアさんが、静かにカップを置く。
「ありがとうございます」
両手で包むと、湯気がゆっくりと立ち上る。
その温かさが、少しだけ心地よかった。
「……お身体、大丈夫ですか」
「はい」
私は、すぐに答えた。
本当だった。
祈れないほどではない。
ただ、少し重いだけ。
「回復日があって、助かります」
そう言うと、マリアさんは、ほんの一瞬だけ、言葉に詰まった。
でも、すぐに、いつもの顔に戻る。
「……はい」
それ以上、何も言わなかった。
しばらくして、廊下を歩く足音が聞こえた。
ロディさんだった。
扉の前で立ち止まり、声をかけてくる。
「今日は、出立はありません」
「はい」
それだけの会話だった。
でも、去っていく足音が、いつもよりゆっくりだった気がした。
昼を過ぎても、体の重さは抜けなかった。
横になろうかと考えて、やめる。
寝てしまうほどではない。
これも、いつもの範囲だ。
「昨日は、少し多かったですね」
私がそう言うと、マリアさんは、はっきりとは頷かなかった。
「……そうですね」
曖昧な返事。
私は、それ以上、気にしなかった。
夕方になるころ、ようやく、体が少し軽くなった。
深く息を吸って、ゆっくり吐く。
「……明日は、また祈れそうです」
そう言うと、マリアさんは、微かに微笑んだ。
「はい。きっと」
私は、その言葉を、そのまま信じた。
祈れそうだ。
それで、いい。
回復日があって、よかった。
そう思いながら、私はまた、窓の外を見た。




