21
いつものように、朝食後のお茶を飲んでいた。
「おかわり、いかがなさいますか」
そう言われて頷いた、その時だった。
手が滑ったのか、熱い湯の入ったポットが傾き、マリアさんの腕に落ちる。
「っ……!」
声にならない音が漏れて、マリアさんはとっさに腕を押さえた。
──体が、勝手に動いた。
「マリアさん!」
考えるより先に、二の腕を掴んで引き寄せる。
そのまま、抱きしめていた。
離す、という選択肢が浮かばなかった。
腕の内で、マリアさんの身体が強張って、早かった鼓動が、少しずつ落ち着いていく。
気づいた時には、白い光が、私たちを包んでいた。
「……聖女様……?」
驚いたように、マリアさんが私を見上げる。
いつもは変わらないその表情が、はっきりと揺れていた。
その瞬間。
「──何かありましたか」
扉が開き、ロディさんが入ってくる。
床に落ちて割れたポット。
まだ消えきらない光。
そして、私に抱き寄せられたままのマリアさん。
一瞬で状況を理解したのか、ロディさんは何も言わず、私の腕に手をかけた。
静かに、けれど迷いのない力で、私とマリアさんの距離を、引き離す。
「痕、残ってないですか!?」
ハッとしたように、マリアさんは袖を捲り、自分の腕を確認した。
「……大丈夫です、ありがとうございます、聖女様……」
いつもの落ち着いた声音とは違い、言葉が少しだけ途切れがちだった。
ホッとしたのも束の間、肩に添えられた手に導かれるまま、私はロディさんの方を向いた。
「……祈ったのですね?」
彼に確信したように聞かれて、順番表を無視してしまった事を思い出し、私は少しだけ視線を逸らした。
「すいません……でも、マリアさんが痛い思いをせずにすんで、良かったです」
これが正しいのかは、私には分からなかった。
ロディさんは何も言わなかった。
マリアさんも、何も言わなかった。




