第57話 マジックパブ
刹那的に生きること...
僕はあまり好きじゃないと思う。
それではまるで、快楽を貪りし獣共に等しいではないか!
だから僕は一時のブレイクスルーもノートに書き留め、時間を掛け愉しむのだ。
だがその前にショッピングに勤しんでいた自由奔放お嬢様のディナーを作らねばならない。
どうせ昼食は力士並に食べているだろうが、夕食もそれなりにないと満足してくれないためかなり面倒だ。
まったく....
いつか"おかえりなさいませご主人様!"とか"萌え萌えキュン!"と言う日が来そうだ。
そう思っていたのだが....
「ただいま! あと、部屋には絶対に入っちゃ駄目よ!」
「え?」
―彼が鍋の火を丁度止めたところだった...
乱雑にドアが開かれ、ようやく買い物という名のメコンデルタから帰還兵があったと思えば、次に出た言葉はこれだ。
「えっと...それはどう言うこ...「絶対に入ってきちゃ駄目よ!」」
「........」
やはり、乙女心はさっぱりだ。
いや、そもそもローズは乙女に入るのか....?
「........」
深く考えるのはよそう。
でも、"入るな"と言われるとな....
気になる、気になるが...
これ以上煮込むことは出来ない。
そんなことをすれば芋が崩れてしまうではないか!
「ローズ、もう食べれるんだけど...」
「先に食べてて!」
ローズの部屋から漂う"薔薇の香水"を背中に受けつつ、フレッドは一人、テーブルに着く。
彼女の様子は明らかに"何か"を隠している。
しかし、それを問い詰めるような野暮は不要だ。
そんなことをすればベストの新調まで着るつもりの対他宗徒戦用白衣だってボロボロにされること間違いなしだからな!
......
―食後、フレッドは研究の息抜きと自身の理論の再構築のために街へと繰り出した。
プールの中のお爺さんの様にゆっくりと彼はエールの街を練り歩く。
街の大通りには様々な店が立ち並んでいる。
紳士服から美術店、武具に"スコバヤシ流Sの目覚め"まで本当に様々だ。
通行人もまた然り。
道化師から鼻の下を伸ばしてピンクビラを収集するサイモンまでいる。
しかし路地裏の喧騒に溶け込むような看板が一際、彼の目を引いた。
"マジックパブ・イリュージョン"
魔法が当然のように存在するこの世界で、"マジック"を謳う...か。
―興味を惹かれ重厚な扉を開くと、そこは琥珀色の照明に彩られたクラシカルな空間だった。
しかし、カウンターに立っていたのは見覚えのある顔であった。
「アルフレート...?」
「お、フレッドじゃねえか。 悪ぃな、今は客商売中なんだよ。」
―あくどい面構えのアルフレートは失禁の後悔を微塵も感じさせずに、バーテンダーの装いをしていた。
彼は微かな驚きを見せたものの、すぐにプロの顔に戻る。
フレッドはカウンターに腰を下ろすと、アルフレートが披露する"手品"を凝視した。
トランプが空中で蝶に変化し、一瞬にして消えては肩から現れる。
固いはずのミスリルナイフが飴細工のようにぐにゃりと曲がり、空のグラスにコインが無限に注ぎ込まれる...
.............
魔法....ではないな。
魔力を感じない。
純粋な物理法則と、人間業を超えた技術の結晶だ。
「面白いな。 並々ならぬ技術を感じる。」
「お客様に喜んで頂き、何よりです。」
―アルフレートは薄気味悪い...どこか腹蔵を感じさせる言葉を発する。
だが"そんなことは関係ない!"と、フレッドは心底感心した。
魔法使いが魔力で解決する事象を敢えて"タネ"を使って再現する奇妙な遊び。
宴会芸の一つでも覚えておけば、ローズの機嫌を取る時にも役立つかもしれないと...
彼は12ゴールドと引き換えにアルフレートから初歩的なコインの消し方を教わり、満足して宿へと戻った。
...........
「失礼するよ。」
―宿に戻ると、玄関先でローズがもじもじと頬を赤らめ、待ち構えていた。
その手には、月光を反射する小さな黄金の耳飾りが握られている。
「お帰りなさい、フレッド。」
「ああ、少し散歩を...ローズ、髪切った?
初めて会った時と同じぐらいだね。」
「ふふっ、分かった? どう、懐かしいでしょ!」
「懐かしいって...まだ半年も経ってないじゃないか?
ところで、その手に握ってるのは?」
「むぅ....これ、あなたへのプレゼントよ!」
―ローズは艶っぽい声を出しながら、彼の耳元へと手を当てる。
彼女の手に握られていた黄金のクリップは彼の両耳を甘噛みし、組み付いた。
それは彼女の黄金色の体毛を結って、オリハルコンの装飾で固めたものである。
「ん? ローズ、これは...?」
「"魔女の耳飾り"よ!」
「魔女の....耳飾り?」
「あなたの精神をその肉体にしっかりと"固定"するためのものよ!」
「なるほど、部屋に入らせなかったのはこれを作っていたから、と....」
―彼女の瞳は、朝の不安を隠しきれていなかった。
記憶の断片に写った謎のアルフレッド...
「若いエルフは精神体が肉体に定着してないって、ホラフキー=マレニシンジツ見聞録にも書いてあったわ。」
「へぇ、ん...ホラ吹き...?」
「あなたも着けておいて損はない...でしょ?」
「その言い方....何か副作用でもあるの?」
「魔女の毛を使うの、副作用の1つや2つぐらい可笑しくはないでしょ?」
「あははは、そうだね。 ローズは魔女か...」
「む...何か言いたげね。」
―彼女は頬をプクッと膨らませ、不快を示す。
「さぁ、何が言いたかったの? 正直に白状なさい?」
「あははは、いや....魔法使いって言うよりも剣士に近いかなぁ、って。
でもありがとう、素晴らしい贈り物をくれて。」
「ま、まぁ...? それはどういたしまして!」
「ところで副作用って?」
「そ、それは...すぐにお返しをしたくなる....呪いよ! 呪い!」
「そう.....なら、お返しに覚えたての手品でも披露するよ。――イリュージョン!」
............
―ささやかな魔法がローズを惹きつける。
しかし、彼も同時に惹かれているのだ。
もっとも彼女に...というよりも手品に、だが。
装備 : "魔女の耳飾り"
効果
肉体への精神定着促進
隠し効果(副作用)
ローズマリアの体臭が薔薇の香りに感じる
身長150cm台、体重60kg台のスレンダー美女に惹かれる
ローズマリア以外からの魅了打ち消し(極強)




