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守護者の剣 - 男を動かすのは情か理屈か -  作者: 佐藤太郎
第二章 回り始める世界
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第54話 帰着

僕は迷った時、すぐに"帰着"することを大事にしている。


一度定義の原点へと立ち返れば、大抵の問題は解決の糸口を見せる筈だ...


大学でも白髪混じりの教授が退屈そうに、しかし執拗に口にしていた。


ある程度の鍵になる場所をマークし、必要な時にその場所へ戻るのだ。


だがそもそも今は、その問題の"原点"が思い出せない。


黄金のススキ()に、その隙間を埋め尽くす桃の花弁()、そしてその中に紛れた一輪の赤い薔薇()....


視界一杯に、気高く、そしてどこか幼さを残したローズマリアの寝顔が映っている。


..............


綺麗だと思う....写真でも残せないくらいに....


この世界にある写真機は機械のモノクロだ。


だが、それだけのせいではない.....


きっと、彼女から香る薔薇の芳しさの仕業だ!


その棘をもって僕の鼻腔を刺激するのだろう?


そのヴィヴィッド、その可憐さ!


どうすれば写真に残せようか?


アナログの連続性をどうデジタルが持てようか?


答えは否である。


いっそ、彼女の唇にキスのシャッターでも切っておくか...?


上下のリップだって、潤いとその艶を誇示して僕を誘惑してくれている。


湿った空気を吐き出し、僕の首筋を濡らしているのだ。


周りを包む桃色の花弁らも血が(かよ)った、若い健康的な美女のそれである。


ハリと弾力を見せびらかし、むくつけき男共を誘うのだろう? 


なんて凶悪な柔肌か!


そして、なんと言っても黄金の錦糸が垂れる様...


地を這うそれはただの根ではない、緩やかななウェイブが生み出す隙間に愛という名の土壌を欲している。


僕の口吻でマーキングせねば...そうしなければならない!


いや、寝ているレディにそんなことするのは紳士どころか下衆の行為だ....


記憶のフィルムで撮っておこう。


イデアの形代(かたしろ)たるその様を...


そして魂のセントラルドグマで現像しよう。





いや駄目だ、ヘリカーゼでも分かたれない程強烈に彫刻しなければ!


そして僕のボイジャーに永久のディスクとして刻むのだ!


愛という名の宇宙へと飛ばすために!



あぁ、なんてことだ!


今なら"エウレカ"と街中を叫び回れる気分だ...


彼女は枠に収めようとすればするほど彼女はそのカオスの網をすり抜け、僕の脳に美を広げるのだ!


この感覚を知ってしまったからには、僕が則天去私(そくてんきょし)の境地に至るのはもう無理だろう。


だが、1つ確かなことがある。


このエニグマの解読こそが我が命題なのだ!


とにかく彼女が欲しい...


記号としての"女性ローズマリア"ではない。


"人称的存在ローズマリア"が狂おしいほど欲しいのだ!


だがそんなことをすれば、目の前の硝子細工は一瞬にして崩れてしまう!


なんともどかしいことか!


それ程までに魅力的だ...ここが冷たい床でなければ...




 《一体、どうしてこうなったんだ?》




"なるほどそういう事ですか、ウーシア様!"


とでも言えれば良かったのに...


いいや、もう一度状況を整理しよう。


ここは冷たいフローリングの上で、僕は彼女に抱きかかえられるようにして倒れていたらしい。


うん、もう一度状況を整理しよう。


僕達は祝杯を挙げ、彼女は酔い、僕は....何か、とてつもなく重要な何かに触れたはずだ!


だが、その先の記憶がまるでシュレッダーにかけられたように欠落している。


そして、今は彼女に抱き締め(上げ)られているのだ。


「..........」


結局のところ、ここから導き出される論理的帰結とは?


うん、()からない。


―思考を放棄した彼に出来るのはただボーっとサファイアの瞳を隠す長い睫毛が震え、その"シャッター"がゆっくりと開くのを待つことだけだった。


 なにせ彼女の筋力には敵わないから....


「....ん、ぅ......」


「あはは......おはよう、ローズ」


「お、おはよう....?」


―焦点の定まらないローズの瞳が彼を捉える。


 彼女は数秒間、自分がなぜベッドではなく床に転がっているのか...そしてなぜ目の前に彼の顔があるのかを脳内で演算しているようだった。


「床で寝るなんて、よっぽど酔ってたのかな?  あははは....」


「あぁ...お酒ね。 そう、お酒。 お酒....?」


―ローズの声が一段階と硬くなる...


 彼女の脳内で、泥酔という名の暴走列車が警笛を鳴らし始めたらしい。


「私.....何か、その....変なことはしてないわ....よね?」


「うーん...祝杯を挙げてからは.....あっ、ローズが幼児退行して"おんぶ!"ってせがんでいたことは覚えてるな。 あとは....何してたかな?」


「よ、幼児退行....っ!?」


「まあ、この前に比べればまだ可愛いものだったから、気にするほどでも....」


「ちょっと待って! 今、自力で思い出すから!」


―ローズは悲鳴のような声を上げると、記憶のフラグメントを必死に読み漁り始めた。


 ほろ酔い、または泥酔の空白...それは彼女にとって、"紅き仕立て屋"よりも恐ろしい未知の領域だ。


 彼女の顔が見る間に赤から青、そして白へと目まぐるしく変わっていく....


「ふぇッ......!?」


「うわぁ、びっくりした! .....急にどうしたのさ?」


「な、な、なんでもないわよっ!  絶っっ対に、なんでもないんだから!」


「えぇ...?」


―ローズの叫びはもはや肯定にしか聞こえなかった。


 だがそれほどまでに彼女が思い出した断片は、彼の予想を遥かに超える"衝撃"だったのだ。


(フレッド....?  どうして膝立ちしてるの?)


(えっ、私の手を取って....嘘、これ、愛の……キ、キス!?  手の平に、キスされちゃった!?)


(待って、落ち着け、落ち着くのよローズマリア!)


 (え?  "さようなら...アルフレッドを頼んだよ"? どう言う意味?)


............


「ローズ?  おーい、ローズマリアさん...? 」


「な、なんでもないわ!  そんなことよりも! あなたの服、ボロボロじゃない!」


―彼女は自分の心音をごまかすように、僕の破れた一張羅を指差した。


「ああ...これ、ロッソシュナイダー戦でダメにしちゃったからね。 これが最後の一着なんだ」


「そ、そう!  なら、今日はお買い物に行きましょう!  新しい服を仕立てるのよ!  さあ立って、早く!」


「えっ? でも....」


「善は急げ、行くわよフレッド!」  


「ちょっと...!」


―ローズは彼の返事を待たず、二の腕を強引に掴んで外へと引きずり出した。


 その力はステータスゲイン込みの"本気"のものだ。


 彼女の顔は朝焼けよりも赤く染まっている。


 その強引な足取りは記憶の断片がもたらした羞恥心とあの"別の誰か"のようなフレッドに感じた得体の知れない疑問を、強引に振り切るための代償であった。


 "新しい服はもう注文してるんだ!"という彼の叫びも聞かずに、ローズはその重い荷物を外へと引きずった...

 lim "?" → "!"

      ↓

    "?" ≠ "!"



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