表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護者の剣 - 男を動かすのは情か理屈か -  作者: 佐藤太郎
第二章 回り始める世界
54/59

第52話 円環の終焉


「う〜ん....ふれっどぉ、おんぶ!」


「だから、あんなに飲み過ぎるなと言ったのに.....」


「おんぶ! べっどまでちゅれてって! あとチュッチュして!」


祝杯の席だからと、安易にワインを許可したのは致命的な判断ミスだった...


何が"3本くらいなら大丈夫よ!"だ。


でも、(ドSお嬢様)とは違うし....まだマシか?


いやいや、何考えてるんだアルフレッドよ。


いい歳したパートナーが、この有り様だ...


ここはしっかりしないと!


「ローズ、淑女はそんなこと言わないよ?」


「もぉ......ふれっどのいじわる!」


―彼女は潤ませたサファイアの瞳でじっと彼を見つめる。


 その瞳の奥には酔いだけではない...もっと根源的な"甘え"が揺らめいているようだ....


「むぅ....! ふれっどのばか!

 いいもん! まりー、もうふれっどにたのまないもん!」


「えぇ....ローズ、君は子供じゃないだろう?

 だから、我儘(わがまま)は慎むのが身のためだよ。」


「うん! "まりー"はもうお姉ちゃんなの!  だから、ふれっどともけっこんできるし、あかちゃ..「うん、よく分かったよ、そこまでにしようか!」」


―彼は慌てて彼女の言葉を遮る。


 これ以上本来の彼女に恥をかかせるのも忍びない、と...


「ふれっどぉ....おんぶぅ....べっとであついよるにしよぉ?」


どうすればいいんだよ、この淫魔!


いや、もう手遅れか....


―そこで彼は思考を放棄する。


 理屈で解決できない事象に対し、文字通り匙を投げたのだ。


 だがその瞬間、部屋の熱量が奪われたかのように空気が凍りつく...


(ならば、私が借りよう...良いな?)


―脳髄を直接掴まれるような、冷徹な揺らぎ。


 彼が匙を投げた、その"意識の空白"に、何者かが濁流のように滑り込んできた。



「ローゼンマリー....」



―"男"の喉から出たのは重厚な低音だった。


 声帯の振動数、舌根の緊張度、それらすべてが"男"の"最適解"へと書き換えられていく。


.......


「りょーじぇん?  "まりー"は"ろーじゅまりあ"なの!」


「そうか....君はもう"ローズマリア"になってしまったのか、我が愛しの"ローゼン"....」


―その"男"は愛おしさと絶望が混ざり合った視線を彼女へと向ける。


「まりーをだいて、わすれられないよるにして!」


「酔っても、生まれ変わっても本質は変わらぬ...か。

 だが、これでは話にならないな...."クリーン"」


―放たれたそのスキルは、フレッドの使うその概念を逸脱していた。


 それは衣服や身体表面を清めるものではなく、彼女の血中に溶け込んだエタノールらを代謝を待たずして排除する神業....


「フ、フレッド....?  あれ、今....」


―彼女の瞳から濁りが消え、瞬時に理性が宿る。


「また会えて嬉しいよ、ローゼン...」


―"男"はそう囁くと共に、慈しみの念を込め彼女の手を包み、その掌に唇を落とす...


 それは情愛というよりも、果てしない時間を経てようやく再会できた存在への静かな敬意と惜別に近かいものだ。


「フ、フ、フ、フレッド!?」


「"フレッド"か.....これも因果かな。

 すまない、そうだったね...君は"ローズマリア"だ。

 もう、あの螺旋の囚人ではない、か....」


―男の顔にわずかな安堵の笑みが浮かぶ。


 それはフレッドの筋肉を使いながら、フレッドには決して作れない"重たい微笑"だった。


「さようなら..."アルフレッド"を頼んだよ....」


 意味深な言葉を残し、肉体の主導権を握っていた"意識体"は唐突に霧散する。


 支えを失った彼の体は、糸の切れた人形のように床へと崩れ落ちた。


――――――――――――――――――――――――

「ここは....?」


見渡す限りの白....上下左右の区別すらつかない純粋な無の空間....


「ここは我々の精神世界だ....当代の私よ。」


―背後から声をかけられた彼は振り返る。


 そこには墓地で見かけた、あの"緑スーツの男"が立っていた。


.........


あの人は....墓場の"緑スーツ"!


何で今まで忘れていた?


それに"当代の私"....どう言う意味だ?


「私は君だ...全ては予定調和の内。 魂は再生されるのだよ...」


「再生....? それに予定調和....?」


「円環は崩壊したのだ。 我々....否、私"フレデリック"の円環はな....

 ウーシアが悲劇の円環を終わらせるために選んだのだろう....

 君は"フレデリック"から"アルフレッド"へと書き換えられ、それにより"ローゼンマリー"は"ローズマリア"に置き換わった...」


どう言うことだ?


円環....?


まさか.....


「世界が...繰り返しているというのか?」


「否、因果が繰り返すのだ。

 ただ1つの目的のためにな....おや、時間が来てしまったようだ。」


―男の姿が足元からさらさらと光の粒子へと分解され始める。


 その光は昇る...あるいは下降して離散してゆく。


「待ってください! まだ全く意味が....!」


―彼の叫びに、消えゆく男は自嘲気味に笑って言い放つ....


「カール...君にとっては"アテナ"か...その首輪にある"扉"を開け...そこに情報はある...」


「"アテナの首輪"...?」


―男の姿はとうとう完全に光に溶け、空間そのものが激しく揺らぎ始める。


「言語変換妨害......《Heil dir in dīnum uwerde, Alfrād — nales Fridurīh, noh nales Fryderyk, nibu niorne Alfred.....》」


 ―男はその言葉を遺すと、とうとう薄氷の様に崩れ去った....


――――――――――――――――――――――――


「フレッド!  起きて、フレッド!」


―ローズの悲鳴に近い叫び声が鼓膜を震わせる。


 冷たい床の感触と後頭部を打った鈍い痛みが、彼を現実へと引き戻した。


「う、ぁ......」


「良かった...!  もう、急に倒れるからびっくりしたじゃない!」


―目の前には頬を真っ赤に染めながら心配そうにするローズ...だが、彼の頭の中は情報の渦の処理に追われていた。


 "因果"と"円環"という言葉に....


「ローズ....」


「な、何よ...!」


「いや、なんでもない。 ちょっと飲み過ぎたみたいだ....」


―口を突いて出せたのは、稚拙な嘘だった。


 彼は相当に動揺していたからだ。


 "汝、因果の寵児に神の救いあれ、完遂という名の救いあれ。

 起源も、その残滓としての生も、もはやここには存在せぬ。

 貴様はただ、円環を終わらせる"歯車"としてのみ、そこに在れ...."という魂に刻み込まれるような重い言葉に...


 彼はいつの間にか部屋の隅で丸くなっていた黒猫"アテナ"に視線を向けた。


 アテナは月光を弾く漆黒の毛皮を震わせ、面倒そうに欠伸をひとつ....


 その首元で鈍く光る深紅の首輪が今までとは全く異なる"扉"として不気味な輝きを放っていた。


「円環の終焉....」


―彼は震える手でアテナの首輪へと手を伸ばした。

作中での"heil"とは英語の"holly"と同じ様な単語です。


間違っても、"Heil H○tler !!"や"Se○g heil"の意味ではありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ