第39話 問いと答え
「その剣で何を成し得たいのか、か......」
―ギルドからいつもの木に帰っていた彼は、ノールに問われた事について考えていた。
辺りを照らすのは月明かりのみになり、また静寂に包まれている。
考え事には良い状況だろう。
...........
ノールからの問いかけに対して、あの時僕は"大切なものを守りたい"と言った。
だが、"大切なもの"については深く考えたことはなかった。
いや、無意識に考えない様にしていたんだろう。
それを失った時の悲しみはよく知っているから.......
だからこそ僕が親よりも早く死んでしまったことも、両親には申し訳なく思っている。
本当に....二人とも立派な人だった。
父さんは何においても常人では到底真似できないほどの才覚の持ち主だったし、"紳士"という言葉を体現した様な...
そういう存在だった。
母さんは真に感性に優れた人だった......
ただの雨を見て、"その弾幕は地を叩き、静寂を穿つ。
暁がその隙より天の微笑みを伝えし時、我らは歓喜し地を揺らす"などと、一瞬で表現してみせた。
そんな存在に比べれば、僕など未熟もいいところだ。
だが、それでも両親は僕を愛してくれた。
だからこそ、申し訳なく思うのだ......
本当に親不孝な息子だった、と。
そんな僕だから、果たして守ることの出来る...
いや、失うことのない存在はあるのかと不安になる。
でも"大切なもの"と考えた時、真っ先に思い浮かんだのは、アテナやローズのことだった。
そう、生物だ...
いつ失ったとしてもおかしくない存在だ。
ローズに至っては、先程まで危機的だった。
もっとも、僕が"失う"と表現するのも間違った話だろうが....
―そんな風に脳内で考えの垂れ流しを行っている彼の元に一匹の黒猫が忍び寄る様にして近づく。
「ミャーウ」
アテナか.....
「どうした、アテナ? ご飯ならさっき食べただろう?」
―そう言いながら彼はアテナの首を撫でる。
その漆黒の毛皮は彼の手を絡め、さらに奥へと誘う。
だが黒猫はそれだけでは満足しなかったのか、さらに彼の近くに擦り寄り座り込む。
「もしかして、寂しくなったのか?」
―だがアテナは喉をゴロゴロ鳴らすのみで何も応えない。
.....
「なあアテナ、アテナにとって大切なものって何だ?」
―アテナは彼のその問いに対して、退屈そうに伸びをした後、すぐ眠りにつく事で答えを示してみせた。
「そんなことを考えるなんて、阿呆らしいっていうことか?
そうだな....その方が、よっぽど幸せに生きれそうだ。」
そうだ、僕が気負いするのもおかしな話だ。
アテナにはアテナの、ローズにはローズの考えがある。
僕が云々する事ではない筈だ。
だが.....
「それでも....僕は、僕にとって大切なものを守りたい。」
―月光の中にへと彼は静かに、しかし力強く拳を握りしめる。
彼はノールの問いに対して、その様な答えを出したのだ。




