表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/40

第35話 後悔と決意

―その穴の先は暖色の明かりが灯った豪邸の広間の

 様な空間であった。


 その空間はどこかクラシカルでノスタルジックな

 雰囲気を醸し出している。


......................


ここは......


なるほど.....そういうことか!


そうだったのか!






「ふっ、あははははは......

 そうか、これは、そういうことだったのか!」


―フレッドは何を思ったのか、その空間を見て突然

 狂った様に乾いた笑い声を上げた。



「フレッド? どうして笑い出したのよ?

 今は非常事態でしょ。」


―その様に指摘している彼女も、内心その仲間と同様

 にかなり狼狽している。



「非常事態....確かにそうだな。 でも、分かるだろう? 

 この芳ばしい香り......中々の茶葉を使ってる。」


「茶葉? 

 そう言われれば...確かにそんな匂いがするわね。

 でも、フレッドの服についた匂いじゃないの?」

 


「確かに僕はよくお茶を飲むけど、僕の服はクリーンで

 毎回綺麗にしてる。それに、この匂いは僕がいつも

 飲んでるのとは別種のものだ。」


「フレッド? さっきからあなたちょっと変よ?

 って! えっ!? フ、フ、フレッド!?」


―何故か突然、フレッドは彼女を所謂"お姫様抱っこ"で

 抱え始めた......というより持ち上げた。


 しかしその表情に甘みはなく、何かを悔やむ様である。



「ごめんローズ.....ちょっとの間、眠っててくれ...」


―後悔の念が込められたその声が唐突に発せられると共に、

 彼女は眠った様に意識を失う。


 そして彼は彼女を壁際へと運ぶと徐ろに振り返った。




................






許容量を超過する魔力を一瞬でも流し込めば、この世界の

生物はオーバーロードを起こし一時的に気絶する。


それは殆ど痛みを伴わずに発生し、最も厳格と言われる

守護者のペナルティ対象からすらも外れる。



独善的と言われても構わない。


ローズには悪いが、この選択が最善だと思いたい.....



「賢明な選択だ、エルフの青年よ。」


「それはどうも、サー . ノール」




このデーモンの前では......






――――――――――――――――――――――――


ダンジョンへの出発前...




ノール....もしまたアレに会うことになれば、待つのは死か...


―ノールダンジョンに挑むうえで、彼がその主"ノール"を

 警戒するのは至極当然のことだ。


............


ダンジョン内で奴に遭遇するということは、

奴の得意とする領域内での戦闘になる....


例え、個の力でノールを上回っていたとしても、

その空間での勝利は絶望的.......


そうなると、"対話"しか道はない、か....


この前ノールに遭遇した時、少なくとも話は通じる

相手だということは分かった。


同時に、"独白"にしてはならない相手だということも.....


.......


「フレッド? 何か考え事?」


ローズか....ここは確認しておいた方が良いだろう。


「ローズはもし自分では絶対に勝てない相手に接敵

 したら......その時、どうする?」


「えっ? それは.....私が倒れるまで立ち向かう...かな?」


「例え、それが交渉の出来る相手だとしても?」


「それなら話は別だけど....

 今から向かうところにそんなのはいないわよ。」


「ダンジョンの主、ノール....彼なら?」


「そんなの....すぐに叩き斬ってみせるわ。」


―彼女の目は、それが嘘ではないことを主張している

 かのように真剣そのものだ。


そうか.......勿論、彼女の思いを無下にはしたくない。


だが、ダンジョン内でノールを倒すのは不可能に近いし、

倒すことで状況が悪化する可能性も否定出来ない。


それなら.......



「そうか.....いや、何でもないよ。 

 変な事聞いて悪かった。」



....................




「淑女たらしめてこそ、"レディ"というもの.....

 その者はまだ未熟だ、感情の起伏が大きい。

 それではとても"対話"にならない....」


確かにローズには冷静さが欠けているかも知れない。

だが、まさかそれを魔物の類に指摘されるとはな...


―もっとも、彼も憔悴しきって冷静さを欠いている。


 憔悴しきると冷静に見えるというのは、あながち

 間違ってはいないのかも知れない。



「ここへの道案内は貴方が?」


「無論我が手配の内だ、気に入ってもらえたかな? 

 我が客人、木々の精霊たるエルフに似て非なるものよ。」


これまでの罠は全て奴の誘導...僕達はまんまと

引っ掛かり、この場に行き着いたわけだ。


しかも、僕の正体まで把握済み、か。


もはや笑うしかあるまい....

..........


「ええ、ご親切にどうも。

 大変興味深いものでしたよ...特にあの大岩は。」


「それは何より.....私も嬉しいよ。

 私の技でも指折りのものだからね。

 たが、君が聞きたいのはまた別の事だろう?」


「では率直に........私達をここへ招いた理由を、

 是非お教え願えますか?」


理由が分からねば、どうしようもない。

もしこうして捕らえることが目的なら、もはや手遅れだ....



「なればまずは席に着こうではないか、客人殿。」


そう簡単には教えてくれないということか.....




―ひとまず、案内された席に着く。



 

「お茶はどうだね? 

 もっとも、他に出せるものもないがね。」


「それはどうも...では一杯、もらえますか?」


「砂糖は?」


「入ってないものを。」


「そうかい....私も甘いものは好みでないのでね。

 お茶の趣味が合う者とは気も合うと言う...

 これは有意義な会話が期待出来そうだ。」


お茶の趣味が合う者って....


まだ、砂糖の有無しか聞かれてないのだが....


―フレッドがそんな事を考えている間に、

 ノールはソーサーにカップを載せ、フレッドに振る舞う。


「これはある冒険者が遺していった茶葉でね、

 私が知る中では、最も芳しい種だ。」


「その様ですね....まるでマスカットの様な香りに

 品格のある琥珀の成熟さ....逸品の印です。」


本当に素晴らしい品質だ....


だが、何故冒険者がこんなものダンジョンに?


―彼は目の前の現実から目を背ける様に、

 至極どうでも良いことを考える。


「さて、君としてはここへ招かれた理由が知りたかろう?

 私はある2つのものを求めていた。何か分かるかね?」


「1つは"対話"でしょうか?」


「そうだ。私が求めるのは"独白"ではない、"対話"だ。

 デーモンというのは孤独でね、私は人との繋がりを

 欲したのだ。またそれは今こうして1つが達せられた。」


「"1つは"?」


「"対話"といっても世の中には2種類のものがある。

 それは言葉を介すものと、武を介すものだ。」


「ならば、貴方は"武の対話"も望むと?」


そんなもの望まれれば、たまった話ではない.....


「当然、"対話"には対等であることが必要だ。

 君が拒むなら、それまでの話だがね......」


―ノールは、いつの間にか持ってきていたレイピアを

 手に取り、アルフレッドに微笑みかける。


「レイピア....」


「無論、"対等な関係"ならば君にも利がなければならない。

 君はここから脱したいのだろう?」


生きて帰りたければ、闘えということか....


それならば、もう他に選択肢はない。


「"私"ではなく"私達"の話です。」


「そうであったな....では、この剣を受け取るがいい。」


―ノールは彼に一振のレイピアを手渡す。

 彼にとって、その剣の"重み"はおそらくそれ自体の重さを遥かに凌ぐことだろう。


「レイピアを使ったことは?」


「昔、一度だけは。」


一度といっても大学院時代、旅行先のフランスで形だけ

寄せたものを少し体験させてもらっただけだ。


もう扱いなど忘れてしまった。


「なれば十分であろう。 

 では場所を移すとしよう、ここでは狭過ぎる。」


―ノールはフレッドを建物の奥へと案内する。


 その先には、闘技場の様な部屋が広がっていた。


そして彼はその中央へ移動すると、剣を構えこう宣言する。


「この邂逅に感謝し、私はここに、この場において

 君と君の仲間を害さないことを誓う。」


決闘前の宣誓か......ここは僕も...


「サー、貴殿の礼儀に感激し、私はこの剣を持つ!」


ああ、僕はこの剣を持つ。


そしてなんとしても勝利する!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ