第34話 スタンピード - Ⅴ
そんな風に奥に進みだしたのはいいが、ダンジョンに
おいて最も危険なのはその狭い通路だ。
例えば、地面に隠れたスイッチを踏み抜くと岩が転がって
きたり、糸に触れると設置されていた弩が発射されたり、
はたまた単純な落とし穴といった数々の仕掛けが施されて
いるのだ......
えっ? やけに具体的だなって?
なんせローズが全て起動させたからな...
音とか"ソナー"のスキルで先に気付いても、その頃には
もう手遅れだった......
....................
「3 · 2 · 1! 引き上げて!」
ちなみに今は、2m程の自力で出れるかどうかという絶妙
な深さの落とし穴に落ちたローズを引き上げている。
なのだが....
「お、重い..........」
重い! 普通に僕の体重の1.5倍近い重さだ!
「そ、それは、剣の所為よ!」
自己強化しているとはいえ、あれだけの大剣を扱うのだ、
当然、筋肉量も相当のものとなるのか!
「自己強化すれば!...自力で登って!...これないのか!」
「さっき矢をはたき落とすのに使っちゃったから、
魔力がもう剣を持つので精一杯なの!」
「もう...無理だ!
一旦、手を放すから.....気を付けて!」
「えっ、ちょっとそんな突然....きゃあ!」
―剣を除いてもそこそこ重いローズを持ち上げるのに
力を使い切ったフレッドはその手を離してしまった。
「ハァハァ.......
大丈夫か.....ローズ...」
「ええ.....ちょっと危なかったけどね。」
ローズが怪我をすれば、僕もそれ相応の痛みを感じる。
今は特に痛みもないし、本当に大丈夫な様だ。
「それじゃあ、先に剣を...」
.................
「ねぇ、なんでストレッチしてるの?」
―フレッドは剣を受け取った後、ストレッチをし始めた。
「........私ってそんなに重いかしら?」
「えっ、いや....これは.....失敗したら危険だから念の為、
万が一のことを考えて一応、やってるだけだよ。」
「..........」
―動揺していることが見て取れるフレッドを、
ローズは胡乱げな目で見つめる。
「今度こそ引き上げてみせるから......
だから、その目は止めてくれ。」
「.............ふふっ ええ、頼りにしてるわ。」
―ローズは差し伸べられた手をしっかりと握る。
「それじゃあ...今度こそ!」
お、重い...剣がなくても....相当の重さだ!
いや、この体勢が悪いせいか....
だとしても!
「それでも!...今度こそ!....引き上げて!...みせ!...る!」
―フレッドの覚悟が功を奏したのか、ローズを無事助け出すことが出来た。
.......................
「ようやく、助け出せた....
流石にもうトラップとかに引っ掛からないよね?」
「ええ、大丈夫よ!.....きっと...」
流石にこれ以上トラップに引っ掛かられたら、
もう僕の体力が持たな.......
―カチッ
「ん? 今何か物音.....が.......」
―言葉を途切れさせたローズの足元には何かの
スイッチらしきタイルがあった。
―ゴゴゴゴゴ.....
「この音、さっきも聞いた様な気が......
はぁ.....またこれか...」
後ろを見ずとも分かる.......この轟音...
―刻々と2人にその音の発生源が迫る。
「また岩か....ローズ、走れるか?」
「勿論よ。」
この後の行動など、もはや何も言う必要はあるまい。
.....................
「ハァハァ....まだ続くのか!」
2人の目の前に続く道は直線的且つ物陰1つもない。
その間にも岩はその速度を上げ、2人の背後に迫る。
途中、オーガの群れが2人の前に立ちはだかったのだが、
勢いに乗った岩の前に成す術もなく潰されてしまった。
そんな状態の岩から逃げ続けるなど不可能に近い。
岩は徐々に2人の体力を奪っていく。
「そんな! 行き止まりなんて!」
―そんなことはお構い無しに、道は無慈悲にも
途切れてしまっていた。
......
どうすれば良い?
岩を破壊するか? どうやって?
"アサルトレイ"を使えば可能かも知れない....
だが、そんなもの使えばここですぐ生き埋めだ......
一体どうすればいいんだ!
考えろ!
駄目だ...
何も思いつかない....
もう....これで終わりか....
せっかくの第二の人生...
最期は岩に潰されて、か........
―希望が見出だせない彼はその場に立ち尽くしてしまう。
「何してるの! 早く、何とかしないと!」
「駄目だ....もう....手遅れなんだ....」
―もはやフレッドは恐怖を捨て、感傷に浸っていた。
だが、岩にそんなことは関係ない。
慈悲という言葉のない岩は、彼らを押し潰そうと
既に2人の目前に迫っていた。
「こうなったら...一か八か...! アサルトレ...ッ!」
しかし幸か不幸か、失意のまま終わってしまうと
思われたその時、2人が立っていた床が消える。
まるで彼が初めてこのダンジョンに来た時の様に....




